知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

イラストの許諾のない使用

2007-11-26 05:52:04 | Weblog
事件番号 平成18(ワ)6536
事件名 実用新案権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成19年11月19日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 実用新案権
裁判長裁判官 阿部正幸

『第4 当裁判所の判断
1 前記争いのない事実等並びに証拠(甲4ないし6,乙1)及び弁論の全趣旨を総合すると,以下の事実が認められる。
(1) 被告スタジオダンクは,平成18年7月5日,原告に対し,以下の文面の電子メールにより,本件書籍に用いるイラストの作成を注文し,原告は,これを受注した。(争いのない事実等,甲4)
「・・・」
(2) 原告は,本件各イラストを含む本件全イラスト合計57点を作成し,平9成18年7月14日,これらを被告スタジオダンクに交付した。(争いのない事実等,甲4)
・・・
(3) 被告スタジオダンクは,原告から受け取ったイラストを複製して使用した本件書籍を製作し,被告泉書房は,平成18年10月25日,本件書籍を出版した
本件書籍におけるイラストの使用状況は,以下のとおりである。
ア 本件全イラストの複製は,本件書籍の本文中の挿絵として使用されているほか,本件各イラストの複製が,別紙表紙イラスト目録記載のとおり,表紙にも使用されている。
イ 本件書籍の表紙の左下の「泉書房」の文字の左の位置には,別紙表紙イラスト目録記載のとおり,折り紙を作成しているウサギ,リス,ネコ,クマ及びパンダの各キャラクターのイラスト(本件イラスト5の①ないし③から適宜キャラクターを選択して複製したもの)が掲載されており,そのうち,リスのキャラクター(本件イラスト5の②の右端に記載されたものを複製したもの)は,他のキャラクターと同じ大きさで描かれている。
ウ 表紙に用いられた本件各表紙イラストには,原画で用いられていた赤と黒の他,青,緑,茶,黄等,複数の色が付けられている。
(4) 本件書籍の奥書には,「カバーデザイン」を行った者及び「デザイン」を行った者として,原告以外の者の氏名が記載されている。
本件書籍中には,原告の氏名又はペンネームは記載されていない


2 争点(1)(本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての許諾の有無)について
(1) 前記1で認定した事実によれば,原告は,被告スタジオダンクとの間で,原告が本件書籍のイラストの原画を作成する請負契約及び原告の作成したイラストの原画の使用を被告スタジオダンクに許諾する使用許諾契約を締結したものということができる。

 被告らは,上記使用許諾契約においては,イラストの使用範囲についての限定はなく,表紙への使用も許諾されていたと解すべきである旨主張する

 ・・・弁論の全趣旨によれば,プロセスカットとは,折り紙の作成過程を示すため,折り方についての説明部分に付されるイラストであり,遊び方のイラストとは,完成した折り紙の遊び方を読者に説明するため,折り紙の完成図に付されるイラストであって,いずれのイラストも,書籍の本文中に用いられることが予定されているものであって,当然に表紙にも用いられることが予定されているものとはいえないことが認められ,これに反する証拠はない。実際に原告が作成したイラストの点数は合計57点であり,この点数は,本文中での使用を前提とするものであるということができる

 そして,一般に書籍の表紙部分は書籍の第一印象を決める本の顔ともいえる重要な部分であるといえるから,表紙に用いられるイラストについては,作者において表紙にふさわしいものとするよう配慮するのが一般的であると考えられることに鑑みると,原告において,その作成に係る57点の本件全イラストの中から,被告スタジオダンクが任意のものを選んで表紙に使用することを許諾していたとはにわかに考え難い。また,本件全証拠によっても,出版業界において使用を規制する明確な合意のない限り,本文中のイラストを表紙に使用することが許容されるとの慣行等があると認めることはできない。

 これらの事情に照らすと,本件使用許諾契約において,本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについて原告の許諾があったと認めるには足りないというべきである。 

(2) 以上によれば, 本件各イラストを本件書籍の表紙に使用することについての原告の許諾を得ていたということはできないから,被告スタジオダンクは,使用許諾の範囲を超えて,本件各イラストの複製を本件書籍の表紙に用いて本件書籍を製作し,本件各イラストについての原告の著作権(複製権)を侵害したものというべきであり,そのことについて少なくとも過失がある。

 そして,被告泉書房は,被告スタジオダンクと本店所在地が同一で,被告らの代表取締役がそれぞれ他の被告の取締役を兼ね,被告スタジオダンクの製作した書籍を出版するという業務を行っており,本件書籍の製作過程についても良く知り得る立場にあったと認められるから,原告の使用許諾を得ないで製作した部分を含む本件書籍を出版したことについて少なくとも過失が認められる。したがって,被告らの行為は,原告の著作権(複製権)を侵害する共同不法行為(民法719条)に当たる。

『4 争点(3)(原告の損害)について
(1) 前記2,3で説示したところによれば,①被告らが原告の許諾を得ずに本件各イラストの複製を本件書籍の表紙に使用した行為は,原告の有する著作権(複製権)を侵害するものであり,②被告らが本件書籍に原告の氏名又はペンネームを記載しなかった行為は,原告の本件全イラストについての氏名表示権を侵害するものであり,③被告らが本件各イラストの色を改変した行為及び本件イラスト5の②のリスのキャラクターの大きさを改変した行為は,原告の同一性保持権を侵害するものであり,原告は,被告泉書房に対し,本件書籍の頒布の差止請求権を有するとともに,被告らに対し,著作権侵害及び著作者人格権侵害の共同不法行為に基づく損害賠償請求権を有する。

(2) 著作権(複製権)侵害についての損害額
前記2で説示したところによれば,原告は,被告らの著作権(複製権)侵害行為により,本件各イラストを表紙に用いた場合の許諾料相当額の損害を被ったというべきである。原告は,前記許諾料相当額について,原告が他で表紙のイラストを作成した際に,原稿料として7万円が支払われたことを示す証拠として甲第7号証を提出し,この金額が許諾料相当額であると主張する。しかしながら,同号証は,原稿料の支払の対象とされたイラストの内容や点数,掲載の対象とされた物が不明であることから,同号証記載の金額を直ちに本件の損害額とすることはできず,他に使用許諾料相当額について的確な証拠のない本件においては,控え目な損害額の算定の観点から,許諾料相当額は3万円であると認めるのが相当である。』

最新の画像もっと見る