知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許を受ける権利の発生時点、従業員の退職と特許を受ける権利の帰属

2012-10-08 10:21:13 | 特許法その他
事件番号 平成23(ワ)40316
事件名 職務発明の再譲渡請求事件
裁判年月日 平成24年09月12日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 大須賀滋、裁判官 小川雅敏、森川さつき
特許法35条

1 争点(1)(原告は,本件発明につき特許を受ける権利を有するか。)につい
て。
 ・・・
(3) この点に関し,原告は,特許庁における特許権設定登録前の時点においては,特許を受ける権利の承継予約が可能であるにすぎず,発明者である従業者が会社都合により退職した時点で上記承継予約は無効となる旨主張する。

 しかし,特許を受ける権利は,当該発明の完成と同時に発生し,当該発明の発明者に原始的に帰属するものであって,使用者等は,その発明が職務発明である場合には,契約や勤務規則その他の定めにより,予め,当該発明につき特許を受ける権利が使用者等に承継される旨を定めることができると解されるところ,本件において,沖電気が,「従業員等の発明取扱規程」において,職務発明につき特許を受ける権利を承継する旨定めていること及び本件発明につき特許を受ける権利が,上記定めに従い,原告から沖電気に承継されたことは前記(1)及び(2)でみたとおりである。本件発明につき特許を受ける権利の譲渡(承継)は,上記時点で完了しているものと解されるのであって,特許法35条の趣旨を考慮しても,上記譲渡(承継)が,発明者の退職によって無効となるものと解することはできない
 ・・・

2 争点(2)(不法行為の成否及び損害額)について
(1) 争点(1)に関する当裁判所の判断のとおり,本件発明につき特許を受ける権利は,原告から沖電気に有効に譲渡されたものと認められるところ,前記前提事実(2)カのとおり,被告は,沖電気から本件発明につき特許を受ける権利を承継し,特許庁に出願人名義変更届を提出したものであり,これにより,本件発明につき特許を受ける権利及び特許出願人たる地位は,被告に帰属したものと認められる。

 そうすると,被告は,本件発明に関し特許を受ける権利の権利者として,その管理処分を任意に行うことができるものというべきであり,特許法35条等の趣旨を勘案しても,被告が,その従業員の退職に当たり,当該従業員の職務発明につき,特許を受ける権利を返還したり,当該従業員を出願手続に関与させたりするべき義務は認められず,また,この点に関する定めを就業規則におくべき義務が被告にあるものとも認められない
 そうすると,被告の就業規則に原告の主張するような不備は認められず,また,本件発明の特許出願手続における前置報告書,審尋,拒絶理由通知書等を通読させ,これらにつき意見を述べる機会を設けなかったとしても,原告との関係で,違法性を有するものとは認められない。

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