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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法50条2項の「正当な理由」の解釈

2007-12-09 12:20:12 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10228
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年11月29日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹


『第2 事案の概要
本件は,原告が,被告を商標権者とする後記登録商標(以下「本件商標」という。)につき,被告は商標登録取消審判請求の登録前3年以内に日本国内においてその指定商品についての使用をしていないとして,商標法50条1項の規定に基づき本件商標に係る商標登録の取消審判を請求したところ,特許庁は,被告が同審判請求の登録前3年以内に日本国内において本件商標をその指定商品に使用していないこと(以下「本件不使用」という。)について正当な理由があるものと認め,本件審判の請求は成り立たないとの審決をしたため,原告が,同審決の取消しを求める事案である。』


『第4 当裁判所の判断(「本件不使用に係る正当な理由についての認定判断の誤
り」について)
1 法所定の正当な理由について
(1) 「法所定の正当な理由があること」とは,地震,水害等の不可抗力によって生じた事由,放火,破壊等の第三者の故意又は過失によって生じた事由,法令による禁止等の公権力の発動に係る事由その他の商標権者,専用使用権者又は通常使用権者(以下「商標権者等」という。)の責めに帰すことができない事由(以下「不可抗力等の事由」という。)が発生したために,商標権者等において,登録商標をその指定商品又は指定役務について使用することができなかった場合をいうと解するのが相当である。

(2) そして,法所定の正当な理由は,登録商標の不使用を正当化し,当該不使用による商標登録の取消しを免れるための事由であるから,不可抗力等の事由の発生と登録商標の不使用との間には,因果関係が存在することを要するものと解すべきである

 もっとも,当該因果関係が存在するというために,原告が主張するような,登録商標を使用する予定の商品の商品化について具体的な計画が存在し,当該商品が生産準備中であって,予告登録日までに登録商標を使用したことが確実であったが,不可抗力等の事由が発生した結果,登録商標の使用ができなかったなど,登録商標の使用の実現可能性が,不可抗力等の事由の発生前に具体化していることを要するものと解することはできない
 なぜなら,商標法50条1項及び2項本文が商標登録の取消事由として規定するのは,予告登録前3年間の継続した不使用であり,その期間内に登録商標の使用の事実があれば,当該取消事由は存在しないことになるところ(当該使用につき,同条3項本文の事由がある場合は別論である。),登録商標をどのように使用するかは,基本的には,商標権者等の経営判断等,商標権者等の側の事情により決し得るものであって,例えば,結果的には不可抗力等の事由が発生してしまったが,仮にその発生がなかったとすれば,その時点から予告登録時までの間に,登録商標の使用の実現可能性が初めて具体化し,かつ,当該期間内に登録商標の使用に至ることができたというような事態(この場合には,商標登録の取消事由は存在しないこととなる。)も十分考えられるにもかかわらず,このような場合にまで,商標権者等に対し,原告が主張するような,不可抗力等の事由の発生前における登録商標の使用の具体的可能性に基づく因果関係の主張立証を求めるとすると,商標権者等に不可能を強いることになるからである。
 そうすると,不可抗力等の事由の発生と登録商標の不使用との間に因果関係が存在するというためには,不可抗力等の事由が発生した時点における,商標権者等の登録商標使用の具体的準備の有無・程度を前提とし,その時点から予告登録までの間が,仮に当該不可抗力等の事由の発生がなかったとすれば,登録商標の使用に至ることができたと認めるに足りる程度の期間であり,かつ,当該不可抗力等の事由が,その発生により,上記期間内に商標権者等が登録商標の使用に至ることを妨げたであろうと客観的に認め得る程度のものであることを要し,かつ,それで足りるものと解するのが相当である。

(3) なお,原告は,不可抗力等の事由の発生前の継続した不使用の事実又は状況をも併せて法所定の正当な理由の有無につき判断すべきである旨主張するが,上記のとおり,商標法50条1項及び2項本文が商標登録の取消事由として規定するのは,予告登録前3年間の継続した不使用であり,その期間内に登録商標の使用の事実があれば,当該取消事由は存在しないことになることに照らせば,上記原告の主張を採用することはできない
 (原告が引用する裁判例(東京高裁昭和56年11月25日判決・無体集13巻2号903頁)は,予告登録前3年以内に,商標権の移転及び使用許諾契約の締結があったという事案において,単にその移転又は許諾後の事情のみならず,それ以前の継続した不使用の事実ないし状況が,予告登録前3年以内の不使用事実として,前後通じて判断されるべきものであり,商標権の譲渡又は使用権の許諾後のみについてみると,当該登録商標の使用の前提として必要な行為がたとえ遅滞なく行われたとしても,そのことだけでは,直ちに不使用についての正当な理由があるものということはできない旨を説示したものであって,正当な理由として,不可抗力等の事由の発生が主張されている本件とは,事案を異にするものである。)。』

『(3) そこで検討するに,本件各大地震により被告が被った被害が,被告の責めに帰すことができない不可抗力により,本件予告登録前3年以内に生じた事由であることはいうまでもなく,とりわけ,平成16年12月の大地震は,本件予告登録時の約半年前に発生したものであるところ,その時点における被告による本件商標使用の準備行為の有無・内容を明らかにする証拠はないが,仮に,その準備が全くなかったとしても,本件商標に係る指定商品にかんがみて,本件予告登録までの期間は,本件各大地震の発生がなかったとすれば,本件予告登録時までの間に,被告が本件商標の使用に至ることができたと認めるに足りるものということができる。
 そして,上記(1)及び(2)のとおり,平成16年12月の大地震は,・・・,未曾有の天変地異であり,また,平成17年3月の大地震も,・・・大災害であったといえるところ,平成16年12月の大地震の半年後で,本件予告登録がされた平成17年6月においても,インドネシア国政府の復興事業は目立った進捗をみず,・・・,さらに,同大地震の1年後である同年12月においても,・・・にあるというのであり,そのような大災害により,被告の本件各営業所も,壊滅的な打撃を受けたものである。

 そうすると,被告は,平成16年12月の大地震により,まず,アチェ地方所在の営業所につき壊滅的な打撃を受けるという直接的な物的被害を被ったのみならず,被告が同営業所の従業員らを少なからず失い,同営業所による収益もほとんど失った上,追い打ちをかけるように,平成17年3月の大地震により,ニアス島所在の営業所につき壊滅的な打撃を受け,同様の被害を被ったことが容易に推認されるほか,上記のとおりの政府の復興事業の進捗状況等にも照らせば,被告は,そのような甚大かつ深刻な被害を被ったことにより,本件予告登録時までの間,会社の総力を結集するなどして被害回復に務めることを余儀なくされたであろうこともまた,容易に推認されるというべきである

 そうであれば,本件各大地震による被害が発生したことにより,平成16年12月の大地震発生から本件予告登録までの期間内に,被告が,日本国内において,本件商標をその指定商品につき使用することが妨げられたものと認めるのが相当であるから,本件においては,本件不使用について正当な理由があることが明らかにされたものというべきである。』

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