知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

発明の技術的範囲の解釈事例

2012-10-08 20:54:23 | 特許法70条
事件番号 平成23(ネ)10074
事件名 特許権侵害不当利得返還請求控訴事件
裁判年月日 平成24年09月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 芝田俊文、裁判官 西理香、知野明

 原判決は,被告両製品は,本件発明の構成要件Aを充足しているとは認められず,本件発明の技術的範囲に属するものとはいえないとして,原告の請求を棄却し,これに対し,原告がこの判断を不服として控訴したものであるが,本件においては,原審段階から,構成要件Aの充足性のみならず,構成要件Eの充足性が争点となっていた。
 当裁判所は,被告両製品は,本件発明の構成要件Eを充足せず,本件発明の技術的範囲に属さないから,本件控訴は理由がなく,これを棄却すべきものと判断する。
 その理由は,以下のとおりである。

1 構成要件Eの解釈
 本件発明の構成要件Eは
「該成分(a)及び(b)は,該成分(a)における酸基または酸誘導体基が該成分(b)の微粉状の反応性充填剤とイオン的に反応し,セメント反応を受け得るように選ばれることを特徴とする重合可能なセメント混合物
というもの
である。この点,本件発明に係る明細書の「本発明は,一方では歯及び骨基質に対する良好な接着力及び組織適合性のような,ポリカルボン酸とサリチレートとを主成分とするセメントの本質的に有利な特徴を有し,他方では低い溶解性と大きな機械的強度のような,複合材料の有利な特徴を有し,複合材料と共重合することができ,はっきりした分野現象(判決注・「分解現象」の誤記と解される。)を示さない新規な歯科用混合物を開発すると云う課題に基づいている。」(甲2・4頁7段33行~39行)との記載に照らすと,構成要件Eにおいて,「成分(a)」は,その不飽和部分により互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導体基が成分(b)とセメント反応をなすように選択されたものであることを要すると解される
 以下,被告両製品が,上記構成要件Eを充足するか否かについて検討する。
 ・・・
(4) 以上のとおり,被告両製品と本件発明は,歯科用アイオノマー系樹脂液体成分へのアプローチとしては別のタイプに分類される技術に基づいており,被告両製品は,エステル化反応を必要とせずに硬化するものであり,その液体成分中で経時的にエステル化が生じることがあるとしても,それは本来意図された反応ではなく,二重結合を有するポリカルボン酸は偶発的に生じた不純物にすぎないものといえる。そうすると,被告両製品は,偶発的にエステル化し,二重結合を有するポリカルボン酸が生ずる可能性があるとしても,その不飽和部分が互いに重合可能であるとともに,その酸基又は酸誘導基が成分(b)とセメント反応をなすように選択された成分(a)を含むものとはいえず,本件発明の構成要件Eを充足しない

原審 東京地方裁判所 平成20年(ワ)第32331号

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