知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

先願発明との同一性の判断

2007-04-03 06:47:27 | 特許法29条の2
事件番号 平成18(行ケ)10324
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年03月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 篠原勝美
条文:特許法29条の2


『1 取消事由(先願発明の認定の誤り)について
(1) 審決は,先願明細書には,「家具,吊り戸棚等の開き戸付き収納装置に設けられ,地震時に開き戸の開放を規制する開き戸の閉止装置であって,前記収納装置本体に上下動可能に設けられた係止体と,地震の揺れによって動作して前記係止体の動きを上動不能に阻止する阻止手段(球体37)と,前記開き戸に支持され前記開き戸の開閉に際して前記係止体の動きが阻止されたときにのみ前記係止体が係止可能な状態になって前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する規制手段とを備えている開き戸の閉止装置を用いた地震時に開き戸の開放を規制する方法。」(審決謄本6頁第3段落)との先願発明が記載されているとした上,「先願発明の『地震の揺れによって』『前記開き戸の開放度を若干開く程度に規制する』ところの『地震時に開き戸の開放を規制する方法』は,本件発明1の『地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法』に相当するといえる。」(同13頁第4段落)と認定したのに対し,原告は,先願明細書には,本件発明1の「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法」に相当する構成は記載されておらず,本件発明1と先願発明とが実質的に同一であるとはいえない旨主張する。


( 2) 本件発明1は,「地震時に扉等がばたつくロック状態となる方法」に係る発明であり,その特許請求の範囲には,「地震時に扉等がばたつくロック状態となるロック方法において」との記載があるところ,「扉等がばたつくロック状態」について,これを限定する格別の記載は見当たらない。
 一般的な用語例に従うと,「ロック」とは,「錠をおろすこと。鍵をかけること。錠。」(広辞苑第5版)とされ,扉についていえば,「ロック状態」とは,鍵をかけるなどして開かない状態をいうと解される。また,「ばたつく」とは,「ばたばたする。騒がしく動きまわる。じたばたする。」(同)などの意味を有する。そうすると,「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等がばたばたした状態にありながら,かつ,鍵をかけるなどして開かない状態」であると,一応理解することができる。しかし,その内容が一義的に理解されるとは,直ちに断定し難いところである。したがって,本件発明1が,これらの語のみで,特許請求の範囲が一義的に発明として特定されるのかは明らかではない

(3) 本件明細書(甲8)には,以下の記載がある。
・・・

( 6) そこで,先願明細書の上記記載に基づき,先願発明について検討すると,先願発明は,・・・,特別な解除動作を行わなくとも,平常時と同じ状態,すなわち,開き戸が自由に開閉する状態に復帰する(同カ)ものであることが理解できる。そして,先願明細書の段落【0027】の記載(同カ)は,先願発明における一連の動作を記載した,段落【0025】の
記載(同エ)及び段落【0026】の記載(同オ)と一体となって,地震終了時の状態について,一般的に説明したものであると認められる。

 先願明細書には,・・・,地震時において,扉の開閉は,球体37の存在によって規制されると記載されていることは明確であり,地震時における弾性片43の弾性力について,扉の開閉に影響を及ぼす作用効果についての記載や示唆はない。その他,先願明細書において,弾性片43の弾性力について,上記の下限を定めた以外に,その程度を示唆する記載は認められない。
 したがって,先願明細書において,弾性片43の弾性力について,通常時において,開き戸が自由に開閉するとの効果を有することを超えて,地震時における,その作用効果が記載されているとまでは認められない

 そうすると,先願明細書の記載に照らせば,先願発明は,地震時において,蓋39の下面と係止体38の鍔部38bの上面との間に球体37が嵌まり込んで載置されていることから,係止体38の上動が阻止されるため,開き戸32の開放度が若干開く程度に規制されるものではあるが,若干開く程度といえる範囲においては,開き戸の動きを規制するものはなく,開き戸は往復動可能であると認めるのが相当である

 一方,前記(4)のとおり,本件発明1における「扉等がばたつくロック状態」とは,「扉等が,ロック位置からそれ以上開く方向への動きが封殺されるが,ロック位置から閉じる方向については,開く方向及び閉じる方向の動きが許容され,往復動可能となるロック状態」をいうものと,一応解釈することができる。
 そして,本件明細書の実施例(図19,20)においては,地震時に扉の開く程度について,扉の厚みの1.5倍弱程度のものが示され,先願明細書の図1において,地震時に扉の開く程度について,扉の厚みの1.5倍弱程度のものが示されていることからすると,本件発明1における地震時に扉が往復動可能に開く程度は,先願発明における地震時に扉が往復動可能に開く程度を含むものであると認められる。』

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