知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

先願と後願の発明が同一か否かの判断事例

2008-10-05 11:13:22 | Weblog
事件番号 平成20(行ケ)10108
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 石原直樹

3 取消事由の検討
 ・・・
(1) 原告は,先願発明においては,「収束Vthについて,・・・,収束Vth=UV・E・Vthである。他方,補正発明は・・・,これはVth<UV・E・Vthを意味するから,補正発明は,この点において先願発明と相違する」と主張する。

 確かに,先願明細書には,上記2のとおり,収束Vthを紫外線消去時のしきい値電圧UV・E・Vthとすることにより,外部ストレスに対する安定性を高めるフラッシュ型E2PROMの消去方法の発明が記載されている。

 しかしながら,先願明細書には,上記2(1)のとおり,リーク電流が流れないようにし,書込時の消費電流を低減するという発明の目的が明示されており,この目的を達成するものとして,先願発明に係る技術思想が開示されているのであるから,先願明細書には,上記のような外部ストレスに対する安定性を高めるフラッシュ型E2PROMの消去方法の前提となる先願発明が,独立の技術思想として開示されていることは明らかである

 そうすると,先願発明における収束Vthは,収束Vth=UV・E・Vthの場合に限定されないものであり,先願発明は,「定常状態しきい値電圧をUV消去電圧よりも小さくオフセットするもの」(収束Vth<UV・E・Vth)を含むものであるというべきであるから,原告の主張を採用することはできない。

(2) また,原告は,「先願発明にはゲート電圧が接地電圧よりも高くなければならないという要求は存在しない。他方,補正発明はゲート電圧が接地電圧よりも高いという限定が付加されているものであるから,補正発明はこの点において先願発明と相違する」と主張する。

 先願発明は,上記2(1)イ(イ)のとおり,・・・,上記【数7】によって示される式及び図3のグラフのみからすると,ゲート電圧が接地電圧(0V)よりも低い場合が想定され得るようにも見える。

 しかしながら,先願発明は,上記2(1)イ(ア),(イ)のとおり,ゲート電圧VGが0Vの条件で行われる従来の消去方法において,リーク電流が流れるために書込時の消費電流が増大するという問題を解決するために,F-N・トンネリングによる消去後のセルフ・コンバージェンス時に,・・・,収束Vthをドレイン電流(リーク電流)が流れ始めるしきい値電圧以上にするというものであるから,ここで印可するゲート電圧VGが0V(接地電圧)よりも高いものであることは明らかである。

 そうすると,先願発明のゲート電圧は,補正発明のゲート電圧と同様,接地電圧よりも高いものであるから,原告の主張を採用することはできない

(3) さらに,原告は,先願明細書における段落【0021】~【0025】の記載を根拠として,先願発明は「セルフ・コンバージェンス及び複数回消去方式のような,しきい値電圧の収束及び自己収束方式」であるとし,補正発明はこれに対する改良をもたらすものであるから,補正発明は,この点においても先願発明と相違する旨主張する。

ア 先願明細書の特許請求の範囲の請求項3~5は,次のとおり記載されている。
・・・

ウ 上記ア,イによると,先願明細書の段落【0021】~【0025】の記載は,請求項3~5に記載された発明の実施例についての記載であると認められ,先願明細書には,これらの記載によって,書込み後のメモリセルのしきい値電圧Vthがばらつくことによる問題を解決するため,メモリセルすべてが書込み状態にあるとき,セルフ・コンバージェンスによって書込み後のメモリセルのしきい値電圧Vthを,ある一定のVthに収束させるようにする発明が開示されているものと認められる。

 しかしながら,審決及び本判決が,先願明細書に基づいて認定した「先願発明」は,上記2(1)のとおり,リーク電流が流れないようにし,書込時の消費電流を低減するという目的を達成するため,同(2)の構成を備えた発明であって,この先願発明が,先願明細書の請求項3~5及び段落【0021】~【0025】に開示された上記発明とは別個の発明と観念されることは明らかである。

 そして,先願発明とは別個の発明が,先願発明と並んで先願明細書に開示されており,この発明と補正発明との間に,仮に原告が主張するような相違があるとしても,先願発明と補正発明との間に相違があることにはならないから,原告の主張は失当であるといわざるを得ない。

(4) 上記(1)~(3)のとおり,補正発明と先願発明との間に原告が主張する相違点が存在するとは認められず,これらが実質的に同一であるとして,本件補正を却下した審決の判断に誤りはないから,審決が発明の要旨を本件補正前の請求項5の記載のとおり認定したことは正当である。

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