知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

複製の主体の判断

2011-01-25 22:05:08 | 最高裁判決
事件番号 平成21(受)788
事件名 著作権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件
裁判年月日 平成23年01月20日
法廷名 最高裁判所第一小法廷
裁判種別 判決
結果 破棄差戻し
裁判長裁判官 金築誠志
裁判官 宮川光治、櫻井龍子、横田尤孝、白木 勇

 放送番組等の複製物を取得することを可能にするサービスにおいて,サービスを提供する者(以下「サービス提供者」という。)が,その管理,支配下において,テレビアンテナで受信した放送を複製の機能を有する機器(以下「複製機器」という。)に入力していて,当該複製機器に録画の指示がされると放送番組等の複製が自動的に行われる場合には,その録画の指示を当該サービスの利用者がするものであっても,サービス提供者はその複製の主体であると解するのが相当である。

 すなわち,複製の主体の判断に当たっては,複製の対象,方法,複製への関与の内容,程度等の諸要素を考慮して,誰が当該著作物の複製をしているといえるかを判断するのが相当であるところ,上記の場合,サービス提供者は,単に複製を容易にするための環境等を整備しているにとどまらず,その管理,支配下において,放送を受信して複製機器に対して放送番組等に係る情報を入力するという,複製機器を用いた放送番組等の複製の実現における枢要な行為をしており,複製時におけるサービス提供者の上記各行為がなければ,当該サービスの利用者が録画の指示をしても,放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであり,サービス提供者を複製の主体というに十分であるからである。
 ・・・

<金築誠志裁判官 補足意見>
 法廷意見が指摘するように,放送を受信して複製機器に放送番組等に係る情報を入力する行為がなければ,利用者が録画の指示をしても放送番組等の複製をすることはおよそ不可能なのであるから,放送の受信,入力の過程を誰が管理,支配しているかという点は,録画の主体の認定に関して極めて重要な意義を有するというべきである。したがって,本件録画の過程を物理的,自然的に観察する限りでも,原判決のように,録画の指示が利用者によってなされるという点にのみに重点を置くことは,相当ではないと思われる。
 ・・・
 さらに,被上告人が提供するサービスは,環境,条件等の整備にとどまり,利用者の支払う料金はこれに対するものにすぎないとみることにも,疑問がある。本件で提供されているのは,テレビ放送の受信,録画に特化したサービスであって,被上告人の事業は放送されたテレビ番組なくしては成立し得ないものであり,利用者もテレビ番組を録画,視聴できるというサービスに対して料金を支払っていると評価するのが自然だからである。その意味で,著作権ないし著作隣接権利用による経済的利益の帰属も肯定できるように思う。もっとも,本件は,親機に対する管理,支配が認められれば,被上告人を本件録画の主体であると認定することができるから,上記利益の帰属に関する評価が,結論を左右するわけではない。

原審

(所感)
 この判断基準は何が枢要な行為かきわめてあいまいで、複製の主体が不明確になりすぎると感じる。
 例えば、電源を供給しないと機器は動作しないが、電源を供給することは枢要な行為となるのだろうか。複製に必要な行為の一部でも欠けると複製はできないところ一部実行の全部責任ともできる。そうであれば、あまりに厳しすぎる論理であるように思う。

 アンテナによる信号の入力と入力した信号の複製とは直接的には関係のないことである。また被上告人のサービスが放送されたテレビ番組なくして成り立つかどうかは、誰が複製しているかにはまったく関係のないことではないか。

 原審の認定した事実関係の元では、機器を設置させてもらい複製をしているのは利用者であるとするのが常識的な見方だと思う。常識から乖離した複製権の侵害となる範囲をあまりに広げすぎた論理であると感じるし、「複製」の文言の通常の意味からかけ離れた解釈であると感じる。

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