知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

請求項の開示範囲を考慮した引用例の認定

2012-03-07 21:22:08 | 特許法29条2項
事件番号 平成23(行ケ)10178
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

ウ 原告らは,引用例で広く規定された数値範囲と一部重複するものの,引用例の実施例とは重複せず,しかも引用発明とは技術的思想が異なり,かつ異質で顕著な効果を奏する本願発明においては,数値範囲の重複は特許性を認められない理由とはならないと主張する。

 しかし,引用例には,実施例以外の引用例に特定される範囲のセルロースアシレートも,フイルムを製造するものとして記載されていると解される。そして,引用例に特定される範囲のセルロースアシレートのうち,引用例に実施例として記載されていないものについて,引用例に特定される範囲の中で,セルロースアシレートという化学物質を単に特定したり,さらにより限定された範囲を単に特定してみたりすることは,当業者が適宜想到し得ることにすぎない。
 そして,本願明細書において確認されているのは,特定の条件で製造されたドープや当該ドープから製造されたフイルムの性能のみである。本願明細書には,本願発明の範囲に含まれるセルロースアシレートという化学物質を特定したことによって,当業者が予測できない効果を奏することに関しては明らかにされていない

 また,本願発明のように,引用例の請求項1に開示される範囲に含まれるものであって,引用例に具体的に記載された実施例を含まない範囲を単に選択して特定することは,当業者にとって容易なことであるといわざるを得ない。

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