知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

「請求の理由」があると同視できるとした例

2007-08-04 11:53:23 | Weblog
事件番号 平成10(行ケ)312
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成11年11月09日
裁判所名 東京高等裁判所
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 永井紀昭

『(2) ところで、実用新案法41条により準用される特許法133条によれば、審判請求書が同法131条1項1号ないし3号(請求の趣旨及びその理由)の規定に違反しているときは、審判長は、請求人に対し、補正を命じなければならないものとされ(同法133条1項)、補正命令を受けた者が指定期間内にその補正をしないときは、決定をもって請求書を却下しなければならないとされている(同条3項。平成8年法律68号により改正されるまでは、同条2項として、「審判長は、請求人が前項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは、決定をもってその請求書を却下しなければならない。」とされていた。改正後は、2項が挿入されて3項に繰り下がり、その規定振りは「決定をもってその手続を却下することができる。」となっているが、これは、1項に基づく補正命令に対する旧2項の「請求書を却下しなければならない」という処分と、新2項に基づく補正命令に対する「手続を無効とすることができる」という処分の両者を併せて規定したために、「することができる」となったものであり、1項に基づく補正命令に対応する関係では、従前と同様に「却下しなければならない」ものと解されている。)。

 (3) 原告は、審判請求書に請求の理由の記載がない場合であるから、審判長は請求人に対し相当の期間を指定して補正を命じなければならなかったのに、これを命じなかった違法がある旨主張するので、本件における審判請求書の請求の理由の記載が特許法131条1項3号に規定するものとして審判長が補正を命じなければならず、もし補正がされないときは却下しなければならない場合に該当するか否かを検討する。
 本件は、前記(1) において認定したとおり、原告のした実用新案登録出願について、特許庁が引用例を示して進歩性の欠如を理由とする拒絶理由通知書を原告に送付し、これに対し、原告は、意見書を提出して詳細に反論したが、拒絶査定を受けたため、拒絶査定不服の審判を請求したものである。その審判請求書の「請求の理由」欄のうち、「本願考案が登録されるべき理由」としては「詳細な理由は、追って補充する。」とのみ記載され、具体的な理由は記載されていなかったが、「請求の理由」を全体としてみれば、「手続の経緯」及び「拒絶査定の理由の要点」が詳しく記載されている。そして、本件審判請求が実用新案登録出願の拒絶査定に対する不服審判請求であり、審判請求書の「請求の趣旨」、「請求の理由」欄の記載全体及び拒絶理由通知に対する意見書からすれば、4つの引用例に基づく進歩性欠如を理由とする拒絶査定に対し、本願考案が進歩性を有するから、登録されるべきものであると主張しており、その具体的な理由も審査段階における拒絶理由通知に対する意見書に詳細に記載されていることが明らかである。このような場合には、審査においてした手続は拒絶査定に対する審判においてもその効力を有する旨規定する実用新案法41条、特許法158条の規定の趣旨からしても、また、請求人の審判を受ける権利の保護という観点からしても、請求の理由の記載がないとはいえず、同法131条1項3号の規定に違反しているとは認められないから、同法133条1項にいう補正を命じなければならない場合には当たらないというべきである(なお、本件のように特許法131条1項3号違反とはいえない場合においても、詳細な理由の補充を促す意味での補正を命ずることは何ら差し支えない。しかし、それは、特許法131条1項に基づく補正命令ではないから、それに応じないことに基づいて同法133条3項により却下することはできないものと解すべきである。)。
 これに反する原告の主張は採用することができない。』

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