知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

無効理由の一つを排斥した審決に判断の遺漏があるとされた事例

2011-11-07 00:18:40 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

4 取消事由4(特許法29条2項に関する判断の誤り)について
(1) 原告は,無効理由3と同様に,甲1~甲6に基づき,本件発明でいうA成分(・・・)とB成分(・・・)とを混合してなる麦芽発酵飲料が,本件出願前に広く一般に知られた周知の麦芽発酵飲料であることを前提に,本件発明が進歩性を欠如すると主張する(なお,原告は,審決が進歩性欠如を検討するに際して,甲1~甲6に基づく周知技術に関しての原告の上記主張を審理判断の対象としたのでないとすれば,審決には判断の遺脱がある旨も主張する。)

 しかし,この点に関して審決は,・・・,特許法29条1項1号又は2号の発明(公知発明,公用発明)に基づく進歩性欠如の無効理由は新たな主張であるとして排斥し,同条1項3号の発明(刊行物発明)に基づく進歩性欠如の無効理由のみを判断した。

(2) そこで,審判において原告(請求人)がした主張をみてみる。
 原告は,審判請求書(甲12)において,無効理由4の主張に関して,「請求項1に係る発明でいうA成分とB成分とを混合してなる麦芽発酵飲料は,「(4-3)ア.(3-2)本本件出願前周知の麦芽発酵飲料」で述べたとおり,本件出願前,周知の麦芽発酵飲料であり,その一例として,甲1には,・・・「ドックス・ノーズ」と呼ばれる麦芽発酵飲料が,また,甲2には,・・・「ボイラーメーカー」と呼ばれる麦芽発酵飲料が記載されている。」(38頁),「このように,甲1又は甲2に記載された本件出願前周知の麦芽発酵飲料において,そのアルコール度数(アルコール分)を消費者の低アルコール志向に合わせて,A成分であるビールと同程度にとどめる場合には,必然的に請求項1に係る麦芽発酵飲料が得られるのであって,そこにはなんらの技術的困難性もなければ,独創性も存在しない。」(39頁)と記載した。

 上記で引用される「(4-3)ア.(3-2)本本件出願前周知の麦芽発酵飲料」では,甲1~甲6を証拠とする「周知の麦芽発酵飲料」が存在することを主張しており,また,上記記載により,「本件出願前周知の麦芽発酵飲料」に基づいて,本件発明1が容易に発明できたことを明確に主張しているものと認められる。しかも,甲1及び甲2は,「麦芽発酵飲料」が周知であることを示す「一例として」取り上及び甲2は,「麦芽発酵飲料」が周知であることを示す「一例として」取り上げていることが明記されている。

 これに対して審判合議体は,・・・,原告に対して,・・・,この理由4の無効理由は,これら特許法29条1項1号又は2号の発明に基づく進歩性欠如の無効理由ではなく,甲1または甲2に記載された発明(特許法29条1項3号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由であると理解してよいか。」と,釈明を求めた。
 そして,原告は,・・・,「請求人が意図する理由4は,甲1又は甲2に記載された発明(特許法29条1項3号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由であることはもちろん,それにとどまらず,理由3で甲1又は甲2等を根拠にその存在を主張した発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由を含むものです。」(4頁~5頁)と述べ,さらに,「カ.請求人主張の補足」(20頁~21頁)においても,本件発明が,公然知られたか又は公然実施された発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張した。

 以上のとおり,原告は,審判において,・・・,甲1~甲6に基づき,「公然知られた発明又は公然実施をされた発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)」として「周知の麦芽発酵飲料」を主張立証していたものと認められるから,そのような公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく進歩性欠如の無効理由4を,審判請求の当初から主張していたことが明らかであり,甲1又は甲2はその例示として取り上げられたにすぎないものといえる。

(3) そうすると,審決が,特許法29条1項1号又は2号の発明(公知,公発明)に基づく進歩性欠如の無効理由は新たな主張であるとして排斥し,同条1項3号の発明(刊行物発明)に基づく進歩性欠如の無効理由のみを判断したことは誤りであり(なお,審決は,刊行物発明に基づく進歩性欠如の判断に関しても,甲1及び甲2のみを取り上げ,甲3~甲6は全く検討していない。),審決には,原告の主張する無効理由4に判断の遺脱があるといわなければならない。

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