知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

定義のない用語を出願時に用語の有する普通の意味で理解した事例

2010-10-26 07:12:59 | 特許法70条
事件番号 平成21(ワ)5717
事件名 損害賠償請求事件
裁判年月日 平成22年10月15日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 特許権
裁判長裁判官 岡本岳

(1) 本件特許発明の「文法辞書」について
・・・,本件特許発明の「文法辞書」とは,上記4つの内容(現代仮名遣いの文法規則,現代仮名遣いに対する漢字候補,歴史的仮名遣いの文法規則及び歴史的仮名遣いに対する漢字候補)を「統合的に登録」(その意味については,後記(2)で検討する。)し,仮名漢字変換部によって「参照」されるものである。そして,・・・,本件特許出願当時において,「辞書」とは,「ワード-プロセッサー・自動翻訳システムにおいて,漢字・熟語・文法などを登録してあるファイル」(乙38)を意味していたことからすると,本件特許発明のように仮名漢字変換をする文書作成システムの技術分野における「文法辞書」は,「ファイル」であると解される。
・・・
(4) 属否の判断
以上に認定した事実によれば,被告装置においては,・・・,品詞コードと活用語尾テーブルを併せたものが「現代仮名遣いの文法規則並びに歴史的仮名遣いの文法規則」に当たると認められる。また,ファイルα(・・・)はアプリケーションの起動時にメインメモリ上にロードされ,メインメモリ上に展開されたまま動作するため,ファイルα内に格納された「活用語尾テーブル」は,仮名漢字変換に当たり参照される際にはメインメモリ上に展開されおり,ファイルとして存在するものとは認められない。
・・・
(1)で説示したように,本件特許発明における「文法辞書」とは,現代仮名遣いの文法規則並びに歴史的仮名遣いの文法規則及び各仮名遣いに対する漢字候補を統合的に登録した「ファイル」であり,「ファイル」として仮名漢字変換部によって参照されるものであるが,被告装置における文法辞書の一部である「活用語尾テーブル」は,ファイルα(・・・)に格納されているデータではあるものの,仮名漢字変換に当たり参照される際にはメインメモリ上に展開されており,「ファイル」として存在するものではないため,被告装置の仮名漢字変換部は,「ファイル」としての「文法辞書」を参照するものと認めることはできない
 ・・・
 原告は,ファイルとはOSにおけるデータの管理単位であるが,本件明細書においてはファイル及びOSについて一切言及していないから,本件特許発明の「文法辞書」の解釈を,OSレベルの管理単位であるファイルに準拠して行うことはできないと主張する。
 しかし,本件特許出願当時の特許法施行規則24条は,「願書に添附すべき明細書は,様式第29により作成しなければならない。」と定め,様式第29の備考8は,「用語は,その有する普通の意味で使用し,かつ,明細書全体を通じて統一して使用する。ただし,特定の意味で使用しようとする場合において,その意味を定義して使用するときは,この限りでない。」と定めていたのであるから,明細書に用語の定義がない場合は,用語はその有する普通の意味で理解すべきことになる。そうすると,上記(1)で説示したように,本件特許発明は,「仮名漢字変換する文書作成システムとして普及しているワードプロセッサ,日本語文書作成ソフトウェア搭載のパーソナルコンピュータ」(本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0003】)に係る技術分野に関するものであり,本件特許出願当時において,「辞書」とは,「ワード-プロセッサー・自動翻訳システムにおいて,漢字・熟語・文法などを登録してあるファイル」を意味していたのであるから,本件特許発明における「文法辞書」は「ファイル」であると解すべきであって,原告の主張を採用することはできない。

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