知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

本件明細書の記載内容の認定に本件特許出願後の文献も参照した事例

2009-10-24 22:33:27 | 特許法36条4項
事件番号 平成20(行ケ)10475
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年10月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(実施可能要件についての判断の誤り)について
(1) トロイダル型無段変速機の境界潤滑領域における運転状況原告は,本件審決がトロイダル型無段変速機が境界潤滑領域で通常運転されないと認定したとし,それが誤りであると主張する
・・・

(ウ) 上記(ア)によると,「境界潤滑」とは,油膜を挟んだ二面間における,潤滑の状態をいうものである。なお,トロイダル型無段変速機が境界潤滑状態になるのであれば,転動面同士は,局部的に金属接触することになる。
・・・

(イ) 以上によると,本件特許出願当時,トラクションドライブにおいて,駆動側と従動側の転動面同士が直接金属接触を起こすと耐久性に問題が生じることから,トラクションドライブは,高圧下でガラス転移し固化する性質があるトラクションオイルを用い,駆動面と従動面の間にオイルを閉じ込め,油膜が破断されない状態が維持され実用的に使用できる範囲である線形領域(弾性領域,直線領域)において主に動力を伝達することにより,金属接触が生じないようにされた構成となっていたものと認められる。

 なお,このことは,本件特許出願後に発行された以下の文献の記載からも裏付けられる
a 本件特許出願直後に概説書として発行された田中裕久「トロイダルCVT」(平成12年7月株式会社コロナ社発行。甲8の2,甲10の7)には,「・・・。」(1頁1行~2頁1行)との記載がある。
b 平成14年に公開された特開2002-257217号公報においても,トロイダル型無段変速機では,金属接触を行わずに動力伝達を行うものとされている(甲17の3参照)。
・・・

(3) 本件発明の実施可能要件の充足性
ア 原告は,トロイダル型無段変速機は境界潤滑状態でも運転され,表面粗さの大小はトラクション係数の大小に相応することは,当業者の技術的な常識であるから,本件発明は,単に,接触面の周方向のトラクション係数が径方向のトラクション係数よりも大きくなるように,接触面の表面粗さを設定するだけで実施できるから,実施可能要件を充足すると主張する。

 しかしながら,前記(1)(2)のとおり,本件特許出願時に,トロイダル型無段変速機が境界潤滑状態で使用されていたものとは認められず,表面粗さの大小がトラクション係数に相応するとはいえないから,原告の主張は理由がない。また,仮に,境界潤滑状態で使用されるような,通常のトロイダル型無段変速機とは異なるタイプの装置を対象としたものであるならば,そのような内容が明細書に明らかにされている必要があるが,本件明細書にはその点の記載がない

イ したがって,いずれにしても,本件発明について,発明の詳細な説明に当業者が実施できる程度に明確かつ十分に説明されているということはできないから,本件特許は,法36条4項に規定する要件を満たしていないものである。

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