知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

委託契約により開発したソフトウェアの著作権

2010-05-30 11:53:57 | 著作権法
事件番号 平成21(行コ)10001
事件名 法人税更正処分取消等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年05月25日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

2 以上の事実を前提とすれば,本件ソフトウェアの著作権等が本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示の合意によって譲渡されていたとの事実を認めることはできない。その理由は,次のとおりである。

(1) 一般的に,著作権は,不動産の所有者や預金の権利者が権利発生等についての出捐等によって客観的に判断されるのと異なり,著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから(著作権法2条1項2号,同法17条),ソフトウェアの著作権の帰属は,原則として,それを創作した著作者に帰属するものであって,開発費の負担によって決せられるものではなく,システム開発委託契約に基づき受託会社によって開発されたプログラムの著作権は,原始的には受託会社に帰属するものと解される。

 また,旧岡三証券とOISとの間の本件委託業務基本契約(甲22)に基づくデータ処理業務は,上記認定の内容からすれば,情報処理委託契約であると解されるところ,情報処理委託契約は,委託者が情報の処理を委託し,受託者がこれを受託し,計算センターが行う様々な情報処理に対し,顧客が対価を支払う約定によって成立する契約であって,著作権の利用許諾契約的要素は含まれないと解される。

 本件においては,前記認定のとおり,旧岡三証券とOIS間において,昭和55年7月1日に締結された本件委託業務基本契約にも,著作権の利用許諾要素は全く含まれていないが,それは上記の理由によりいわば当然であり,また,証拠(甲61,62,70ないし73)によれば,そのような場合でも,委託者が,受託者に対し,システム開発料として多額の支出をすることは,一般的にあり得ることと認められるから,単に開発したソフトウェアが主に委託者の業務に使用されるものであるとの理由で,委託者がその開発料を支払っていれば,直ちにその開発料に対応して改変された著作物の著作権が委託者に移転されるということにはならないことは明らかである。
 著作権はあくまで著作物を創作した者に原始的に帰属するものであるから,例えば,・・・ように,その譲渡にはその旨の意思表示を要することは,他の財産権と異なるものではない。

 したがって,本件においても,上記のような明示の特約があるか,又はそれと等価値といえるような黙示の合意があるなどの特段の事情がない限り,旧岡三証券が本件ソフトウェアの開発費を負担したという事実があったとしても,そのことをもって,直ちに,その開発費を負担した部分のソフトウェアの著作権が,その都度,委託者である旧岡三証券に移転することはないというべきである。
そして,本件全証拠を精査しても,一度原始的にOISに帰属した本件ソフトウェアの著作権が,旧岡三証券がその開発費用を支出した都度,本件譲渡契約前にOISから旧岡三証券に対して黙示的に譲渡されていたことなどの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。

技術常識等を加味して引用文献を認定し直し組み合わせの論理を修正した事例

2010-05-30 11:05:53 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10295
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

〔被告の主張〕
本件審決の認定判断には原告主張のような誤りはない。
・ 引用発明2との関係
ア 引用発明2の認定について
  ・・・
・ 小括
 以上によれば,引用発明2において,銅製のリードフレームと金ワイヤーとの接合部の温度は不明であり,融点以下であって銅製のリードフレームが塑性流動を伴う金と銅とが塑性流動するとの記載がなく,銅製のリードフレームと金ワイヤーの接合部を「金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させ」ていると認定することができないとした本件審決に誤りはない

第4 当裁判所の判断
 ・・・
イ引用発明1の内容について
 以上によると,引用発明1は,接続表面が貴金属層を予め備えており,コイルリードが熱圧着溶接を達成するために接続表面に対して強く押さえ付けられるものであって,この貴金属として金が,コイルリードとして銅が例示されている。
 そして,前記 エのとおり,熱圧着とは「複数の部材を融点以下の適当な温度で圧力を加え密着させて,塑性変形を起こさせ,双方の清浄面の接触によって接合させる方法」であるから,引用発明1には,金と銅との塑性流動を生じさせ得る温度範囲で加熱させつつ,加圧することが示されているということができる。

 ・・・

イ しかるところ,引用例2において,金と銅との接合層の特性を全率固溶体と金属間化合物との対比において記載していること,そして,その記載は金と銅との接合層に関する一般的な記載であると解されることからすると,引用発明1における「金と銅との塑性流動を生じさせうる温度範囲で加熱させつつ,」「加圧すること」によって形成された接続構造であるAu/Cu合金についても,全率固溶体か金属間化合物か,そのいずれかの相であるとみることができる。
 そして,引用発明1において,ICの接続表面とコイルリードとの接点は,前記 イのとおりAu/Cu合金をもって形成されるものであるところ,上記のとおりの引用例2の全率固溶体は金属間化合物に比べて,電気抵抗が小さく,化学的に安定し,機械的強度の劣化のない高信頼性の半導体装置を得ることができるとの開示に基づくと,引用発明1における接合のAu/Cu合金についても,金属間化合物を避けて,Au/Cu全率固溶体が形成されるように想到することは,当業者において容易であるということができる。