知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

特許権の共有者と損害賠償請求

2010-05-01 18:33:02 | Weblog
事件番号 平成21(ネ)10028
事件名 特許権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成22年04月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(4) 本件特許権の共有者との関係
ア 本件特許は,控訴人と熊谷組との持分を各2分の1とする共有特許であるところ,控訴人のみが本件特許権を実施しており,熊谷組は本件特許権の実施をしておらず,第三者に実施許諾を行ったこともないことが認められる(甲25)。

イ ところで,特許権の共有者は,持分権にかかわらず特許発明全部を実施できるものであるから,特許権の侵害行為による損害額も特許権の共有持分に比例するものではなく,実施の程度の比に応じて算定されるべきものである。そして,このことは,損害額の推定規定である特許法102条2項による場合も同様であるということができる。

ウ もっとも,本件特許権を実施していない熊谷組も,被控訴人に対して,実施料相当額の損害賠償請求を行うことができるものであったが(特許法102条3項),熊谷組は,同損害賠償請求権を控訴人に譲渡し,その旨の対抗要件が具備されており(甲24の1・2,甲25),熊谷組から被控訴人に対して本件特許権侵害による損害賠償請求が行われることはもはやあり得ないことから,控訴人が,本件訴訟において,本件特許権侵害によって請求し得る損害額は,被控訴人が被控訴人製品を賃貸したことによって得た利益の全額ということになる。

商標法4条1項10号の判断事例

2010-05-01 17:16:55 | 商標法
事件番号 平成21(行ケ)10411
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


カ 商標法4条1項10号にいう「他人の業務に係る商品を表示するものとして需要者の間に広く認識されている商標」については,我が国において,全国民的に認識されていることを必要とするものではなく,その商品の性質上,需要者が一定分野の関係者に限定されている場合には,その需要者の間に広く認識されていれば足りるものである。

 上記アないしオのとおり,・・・等の事実を総合すると,「ATHLETE」,「アスリート」及びこれらを冠する商標は,平成19年2月までに,原告が製造販売するガイドワイヤーの商標として,上記医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者の間に周知性を獲得し,その後も周知性を維持していると評価するのが相当である。

(3) 本件商標と原告の使用商標との類否
ア本件商標は,「ATHLETE LABEL」の欧文字から成る結合商標である。
 本件商標を構成する「ATHLETE」は「運動選手,競技者」等,「LABEL」は「貼り紙,ラベル」等を意味する英語の普通名詞である。
 本件商標が,「ATHLETE」と「LABEL」の2語から成り,その間にスペースがあることに照らすと,本件商標の各構成部分は,これを分離して観察することが取引上不自然であると思われるほど不可分的に結合しているものということはできない
 そして,前記(2)認定のとおり,本件商標の一部を構成する「ATHLETE」の部分が,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者に対し,原告の商品を示すものとして周知性を獲得し,出所識別標識として強く支配的な印象を与えるものと認められるから,本件商標のうち「ATHLETE」の部分だけを,原告の使用商標と比較して商標そのものの類否を判断することも,許されるものというべきである

イ そうすると,本件商標からは,「ATHLETE LABEL」全体としてのみならず,「ATHLETE」の部分からも称呼,観念が生じるということができる。そして,後者の「ATHLETE」は,原告の使用商標のうち「ATHLETE」と同一の欧文字から成るものであり,両者とも「アスリート」という同一の称呼が生じ,「運動選手,競技者」という同一の観念が生じるから,その外観を考慮しても,両者は類似する

 したがって,本件商標「ATHLETE LABEL」が医療用腕環に使用されるときは,本件商標中の「ATHLETE」は,需要者である医療関係者や医療用機械器具を取り扱う取引者において,周知の原告の使用商標との出所を誤認混同するおそれがあるといわざるを得ない。

ウ しかるところ,1個の商標から2個以上の呼称,観念を生じる場合には,その1つの称呼,観念が登録商標と類似するときは,それぞれの商標は類似すると解すべきである(前掲最高裁昭和38年12月5日第一小法廷判決参照)。

エ よって,本件商標から生じる称呼,観念の1つである「ATHLETE」と原告の使用商標とが類似する以上,本件商標は,原告の使用商標と類似するものである。

<関連事件>
平成22年04月28日 平成22(行ケ)10005 裁判長裁判官 滝澤孝臣

サポート要件の判断事例

2010-05-01 13:49:00 | 特許法36条6項
事件番号 平成21(行ケ)10296
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

 まず,本件特許発明が,発明の詳細な説明の記載内容にかかわらず,当業者が,出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものかどうかを検討するに,本件での全証拠を精査してもなお,本件特許発明につき,当業者が,その出願時の技術常識に照らし,赤身魚類の魚肉を上記一連の工程に付することにより,上記課題を解決できると認識できる範囲のものであると認めることはできない
 したがって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するためには,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,同発明の詳細な説明の記載により当業者が上記課題を解決できると認識できる範囲のものであることが必要である。

(2) 本件特許に係る明細書(甲36)の発明の詳細な説明には,赤身魚類の魚肉を上記一連の工程に付することにより上記のような課題を解決し得ることを明らかにするに足る理論的な説明の記載はない

 また,発明の詳細な説明において実施例とされる記載のうち,実施例1では,ガスの充填工程で用いる炭酸ガスと酸素ガスの比率につき,それぞれ「20~50容積%」,「50~80容積%」という範囲で表記するのみで,具体的な容積%を特定して開示しておらず,低温処理工程での温度と時間も,「5~10℃」で「30分~3時間」という範囲で表記するのみで,具体的な温度と時間を特定して開示しておらず,いずれも特許請求の範囲の記載を引き写したにすぎないとも解されるものである(段落【0017】及び【0020】参照)。
 そして,実施例2及び3では,ガスの充填工程及び低温処理工程に関する実施例1の上記記載を引用するのみであり(段落【0023】【0034】【0035】参照),実施例4では,ガスの充填工程に関しては,「70容積%の酸素ガスと30容積%の炭酸ガス」(図1,図3に関するもの)との記載があるものの,低温処理工程が実施されたとの記載はない(段落【0036】【0038】参照)。

 そうすれば,上記発明の詳細な説明において実施例とされた記載のうち,実施例1ないし3は,ガスの充填工程及び低温処理工程のいずれについても,実際の実験結果を伴う実施例の記載とはいえず,実施例4についても,低温処理工程については,実際の実験結果を伴う実施例の記載であるとはいえず,実施例1ないし4以外に,実施例の記載と評価し得る記載もない。

 このように,本件においては,前記一連の工程に該当する具体的な実験条件及び前記課題を解決したことを示す実験結果を伴う実施例の記載に基づき,前記課題が解決できることが明らかにされていない

 以上からすれば,特許請求の範囲に記載された本件特許発明は,明細書の発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が前記課題を解決できると認識できる範囲のものではなく,明細書のサポート要件に適合するとはいえない。

訂正により使われない機能が生じる場合、特許請求の範囲の減縮に当たるか

2010-05-01 13:35:11 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10326
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 ところで,特許請求の範囲の記載において「構成」が付加された場合,付加された後の発明の技術的範囲は,付加される前の発明の技術的範囲と比較して縮小するか又は明りょうになることは,説明を要するまでもない。
 本件において,本件訂正後発明2記載の特許請求の範囲に属するマッサージ機は,構成アないし構成オのすべてを具備するものに限定される。

 本件訂正前発明2では,何らの限定がされていなかったものに対して,本件訂正後発明2では,「施療子(14)を移動させた後,前記操作装置(40)への所定の操作を施すと,その所定の操作が行われたときの前記施療子(14)の位置を基準位置として検出する,マッサージ機において,」との構成を有するものに限定されたのであるから,これに伴って,その技術的範囲が縮小するか又は明りょうになることは,当然である。

(2) この点,被告は,本件訂正後発明2は,「所定操作による基準位置検出に基づく制御」を行うと,もはや「一定時間経過による基準位置検出に基づく制御」を行わないから,本件訂正前発明2と比較して択一的記載であり,特許請求の範囲の減縮に当たらないと主張する
 被告の主張は,発明の技術範囲の解釈についての誤りに由来するものであって,到底採用できるものではない。

 確かに,マッサージ機の使用者(ユーザ)は,本件訂正後発明2の構成ウに係る操作方法を選択することによって,構成エ〔前記施療子(14)を移動させて位置決めを行うために予め設定された一定の時間が経過すると,前記施療子(14)の位置を検出する構成〕に係る機能を選択することなく,位置決めをすることができる
 しかし,ユーザが,そのような位置決め方法を選択することが可能であることは,本件訂正後発明2において,はじめて可能となるものではなく,本件訂正前発明2においても同様であり,本件訂正後発明2と本件訂正前発明2とは,その点に関する相違はない(任意の位置に基準位置を決定することのできる位置操作部が存在することは,本件訂正前発明2においても同様である。)。

 使用者(ユーザ)にとって,本件訂正後発明2の構成ウを選択することによって,構成エで示す機能を選択しないことがあり得ることは,本件訂正後発明2において,構成エを具備しないマッサージ機が,発明の技術的範囲に含まれること,すなわち,技術範囲が拡大することを意味するものではない

特許法29条2項の当業者として共通である場合

2010-05-01 12:17:58 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10111
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

ウ 甲2発明と甲1発明の解体技術上の差異について
(ア) 原告は,甲2発明と甲1発明は,①当業者及び必要な資格,②技術分野,③解体技術,④構造計算方法,⑤適用法令及び監督官庁がいずれも異なる旨主張する。

(イ) まず,広辞苑(岩波書店1991年第4版発行)によれば,「建造」とは「建設造営すること。建物・船などをつくること。」,「建造物」とは,「建物・橋・塔など,建造したもの。」,「ビルディング」とは「鉄筋コンクリートなどで造った高層建築物」,「ビル」とは「ビルディングの略」,「タンク」とは「気体・液体を収容する密閉容器。」とされている。
 以上からすれば,ビルとタンクとでは,構造や素材,用途が異なるが,大きいタンクであれば「建造物」と表現することも可能であり,その意味で,ビルとタンクを「建造物」との表現でまとめても,誤りとはいえない

 このほか,審決が用いた「構造物」という語は,前記広辞苑には載っていないものの,これを「建造物」とほぼ同義で用いても,誤りとはいえないものと解される。

(ウ) 以上を前提として検討するに,確かに,ビルとタンクとでは,その構造自体は大きく異なるものであるが,それらの解体作業という観点からみた場合,ビルとタンクの構成部材等の違いから当然に発生する相違点を除き,基本的な発想において異なるとはいえないので,ビルの解体もタンクの解体も,特許法29条2項で問題にされる当業者としては共通であるというべきである(ちなみに,本件特許発明,甲2発明,甲1発明のいずれも,国際特許分類「E04G23/08」に分類されている。)。

阻害要因はないとした事例

2010-05-01 10:37:03 | 特許法29条2項
事件番号 平成21(行ケ)10268
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月19日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(4) 小括
 以上のとおり,刊行物1に拡散マスクとして用いた絶縁膜104(絶縁膜304)をゲート絶縁膜にそのまま用いるとの記載はなく,刊行物1発明において,ゲート電極はn型ソース拡散領域106及びn型ドレイン拡散領域105の間に設けられた絶縁膜104上に設けられると判断する必然性はない。
 そうすると,刊行物1発明においても,絶縁膜104を除去してゲート絶縁膜を新たに形成することは,当然に想定されているということができ,刊行物1発明のソース・ドレイン領域の形成工程後に,チャンネル部分上の絶縁膜104を除去して,更にチャンネル部分に溝を形成し,その後ゲート絶縁膜及びゲート電極を形成するとの刊行物2に記載の工程を行うこと(すなわち,刊行物2発明のゲート構造を採用すること)に,格別の困難性は存在しない

 したがって,刊行物1発明のMOSトランジスタにおいて刊行物2発明のゲート電極の構造を採用することは,刊行物1発明の目的に反する方向への変更になるということはできないから,阻害要因が存在するとはいえず,原告の主張は,その前提において誤りがあり,採用することができない。

分割出願の適否の訂正時の判断基準(訂正前か訂正後か)

2010-05-01 09:44:47 | 特許法126条
事件番号 平成21(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

1 取消事由1(分割要件の有無)について
(1) 分割出願の適否の判断基準
 本件審決は,本件訂正の適否について判断するに当たり,本件訂正は本件訂正前発明を本件訂正後発明に訂正するものであるが,本件訂正前発明が原出願発明の分割出願に係る発明であるため,本件訂正後発明における技術的事項,すなわち,本件訂正後事項と原出願事項とを比較検討して,本件訂正後事項が原出願事項の範囲内のものではないとし,その結果,本件出願は分割出願として適法なものではないから,本件出願の出願日が原出願日に遡ることはなく,本件出願の現実の出願日を基準にすると,本件訂正後発明は進歩性がなく,本件訂正は独立特許要件を欠くとしたが,
本件審決のその判断を前提に,原告は,本件訂正後事項は原出願事項の範囲内であるとし,他方,被告は,その範囲外であるとして,本件審決の判断の当否を争っている

 しかしながら,本件訂正の適否について本件訂正後発明が独立特許要件を具備するか否かを判断する必要がある場合には,その進歩性の判断の基準時として,本件出願の出願日を確定する必要があるところ,本件出願は分割出願であるから,本件出願が適法な分割出願であれば,原出願の出願日である昭和55年3月14日に遡って出願したとみなされる(改正前44条2項)ので,原出願日が基準時となるのに対し,適法な分割出願でなければ,本件出願の現実の出願日が基準時となるのであって,その基準時を確定するためには,まずもって本件出願が分割出願として適法なものであったか否かを検討する必要がある。

 しかるところ,本件出願が適法な分割出願であったというためには,分割出願の発明の構成に欠くことができない技術的事項,すなわち,本件訂正前の請求項1に係る発明(以下「本件訂正前発明」という。。)の構成に欠くことができない技術的事項(以下「本件訂正前事項」という。)が原出願の願書に最初に添付された明細書又は図面に記載された事項であること,すなわち,原出願事項の範囲内であることが必要であって,原出願事項の範囲内であるか否かを検討する対象となるのは,本件訂正後事項ではなく,本件訂正前事項でなくてはならない

けだし,本件訂正後発明の進歩性について判断するのは,本件訂正の適否を検討するためであるところ,原出願日を基準にその判断をすることが可能であるのは,本件出願が適法な分割出願であった場合であることを前提とするが,本件においては,その分割出願の適否もまた問題となっているからである。

<侵害訴訟>
事件番号 平成20(ネ)10083
事件名 損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成22年04月14日
裁判所名 知的財産高等裁判所
裁判長裁判官 滝澤孝臣