知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

商標法4条1項16号の趣旨

2008-11-30 11:33:28 | 商標法
事件番号 平成20(行ケ)10086
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

1 取消事由1(商標法4条1項16号に関する判断の誤り)について
(1) 商品の品質又は役務の質(以下では,商品についてのみ述べる。)の誤認を生ずるおそれがある商標については,公益に反するとの趣旨から,商標登録を受けることができない旨規定されている(商標法4条1項16号)。同趣旨に照らすならば,商品の品質の誤認を生ずるおそれがある商標とは,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において,当該商標が表示していると通常理解される品質と指定商品が有する品質とが異なるため,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがある商標を指すものというべきである。

 本件についてみると,登録第1692144号の2の商標は,別紙①のとおり,「キシリトール」及び「XYLITOL」の文字を2段に横書きしたものであるから,指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者は,その使用される商品は,キシリトールが含まれているものと認識,理解する。
 他方,指定商品は,別紙③「指定商品目録2」記載のとおり,いずれもキシリトールを使用した商品に限定されている。したがって,同商標は,その指定商品に係る取引の実情の下で,取引者又は需要者において同商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なることはなく,同商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれはないというべきである。


 この点について,原告らは,被告は成分の100%がキシリトールでない甘味料を添加したチューインガム等にも,登録第1692144号の2の商標を使用しているから,商標法4条1項16号に該当すると主張する
 しかし,公益に反する商標の登録を排除するという商標法4条1項16号の趣旨に照らすならば,商標法4条1項16号への該当性の有無は,商標が表示していると通常理解される品質と指定商品の有する品質とが異なり,商標を付した商品の品質の誤認を生じさせるおそれがあるか否かを基準として判断されるべきものであり,実際に商標を使用した商品がどのような品質を有しているかは,商標法4条1項16号への該当性の有無に影響を及ぼすものではない。したがって,原告らの上記主張は,その主張自体失当である。

 また,取引者又は需要者は,取引の実情の下で,登録第1692144号の2の商標が表示する品質について,キシリトールを使用した甘味料が添加されたものと認識すると解され,キシリトール100%からなる甘味料のみが添加されたものと認識することはないものと解される。
 したがって,原告らの上記主張は,この点からも失当である。

新規事項が追加された事例

2008-11-30 11:23:21 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10168
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(3) 判断(その2--新規事項の追加の有無について)
 前記(1),(2)で認定判断したとおり,本件出願当初明細書には,ケースそのものを目印として使用することの記載ないし開示はない。すなわち,ケースは,本来的には,物品などを収容するためのものであるのに対し,目印は,外部から視覚を通じて区別するための手段であるから,両者はその意義及び機能において相違するところ,本件出願当初明細書及び図面のいずれにおいても,ケースの形状や色彩等を,視覚を通じて区別する機能を有するものとして使用することを記載,示唆する記載はない。
 したがって,本件出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項によっても,ケースそのものを目印として用いるとの事項は,新たに導入された技術的事項というべきである
したがって,本件補正は新規事項の追加に当たるとした審決の判断に誤りはない。

訂正請求による訂正の効果は請求項ごとに個別に生じるか

2008-11-30 11:09:34 | 特許法126条
事件番号 平成20(行ケ)10093
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

第5 当裁判所の判断
 本件審決には,取消事由1に係る違法が存在するものと判断する。その理由は,以下のとおりである。

 すなわち,昭和62年法律第27号による改正により,いわゆる改善多項制が導入され,平成5年法律第26号による改正により,無効審判における訂正請求の制度が導入され,平成11年法律第41号による改正により,特許無効審判において,無効審判請求されている請求項の訂正と無効審判請求されていない請求項の訂正を含む訂正請求の独立特許要件は,無効審判請求がされていない請求項の訂正についてのみ判断することとされた
 このような制度の下で,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生ずるものというべきである

 特許法は,2以上の請求項に係る特許について請求項ごとに特許無効審判請求をすることができるとしており(123条1項柱書),特許無効審判の被請求人は,訂正請求することができるとしているのであるから(134条の2),無効審判請求されている請求項についての訂正請求は,請求項ごとに申立てをすることができる無効審判請求に対する,特許権者側の防御手段としての実質を有するものと認められる。このような訂正請求をする特許権者は,各請求項ごとに個別に訂正を求めるものと理解するのが相当であり,また,このような各請求項ごとの個別の訂正が認められないとするならば,無効審判事件における攻撃防御の均衡を著しく欠くことになるといえる。
 このように,無効審判請求については,各請求項ごとに個別に無効審判請求することが許されている点に鑑みると,各請求項ごとに無効審判請求の当否が個別に判断されることに対応して,無効審判請求がされている請求項についての訂正請求についても,各請求項ごとに個別に訂正請求することが許容され,その許否も各請求項ごとに個別に判断されるべきと考えるのが合理的である

 以上のとおり,特許無効審判手続における特許の有効性の判断及び訂正請求による訂正の効果は,いずれも請求項ごとに生じ,その確定時期も請求項ごとに異なるものというべきである。


 そうすると,2以上の請求項を対象とする特許無効審判の手続において,無効審判請求がされている2以上の請求項について訂正請求がされ,それが特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である場合には,訂正の対象になっている請求項ごとに個別にその許否が判断されるべきものであるから,そのうちの1つの請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由として,他の請求項についての訂正事項を含む訂正の全部を一体として認めないとすることは許されない
 そして,この理は,特許無効審判の手続において,無効審判請求の対象とされている請求項及び無効審判請求の対象とされていない請求項の双方について訂正請求がされた場合においても同様であって,無効審判請求の対象とされていない請求項についての訂正請求が許されないことのみを理由(この場合,独立特許要件を欠くという理由も含む。)として,無効審判請求の対象とされている請求項についての訂正請求を認めないとすることは許されない

 本件においては,請求項1に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項1のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項2以下の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項2についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項1に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。したがって,原告主張に係る取消事由1は,理由がある。


同趣旨を判示するもの
事件番号 平成20(行ケ)10095
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明
・・・
 本件においては,請求項6に係る発明についての特許について無効審判請求がされ,無効審判において,無効審判請求の対象とされている請求項6のみならず,無効審判請求の対象とされていない請求項8,9の請求項についても訂正請求がされたところ,本件審決は,無効審判請求の対象とされていない請求項8,9についての訂正請求が独立特許要件を欠くことのみを理由として,本件訂正は認められないとした上で,請求項6に係る発明についての特許を無効と判断したのであるから,本件審決には,上記説示した点に反する違法がある。

訂正審判における「一体説」と「請求項基準説」

組み合わせの動機付けと組み合わせのための改変

2008-11-30 10:28:06 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10074
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

(2) また,原告は,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせるには,刊行物1にフードテープの製造方法について示唆があり,かつ,刊行物2にフードテープの記載があることが最低限必要であるとした上,刊行物1にも刊行物2にもこれらの記載や示唆はないのであるから,刊行物発明と刊行物2記載の技術とを組み合わせる根拠は存在せず,刊行物発明のニッケル板7に対し刊行物2に記載の技術を適用することにより,相違点に係る技術事項を得ることは当業者が容易に想到し得たとする審決の判断が誤りであると主張する

 ・・・しかるところ,刊行物1の段落【0009】の記載によれば,刊行物発明の「低圧放電灯」は「蛍光ランプ」のことであると認められるから,結局,本願発明,刊行物発明及び刊行物2記載の技術は,いずれも放電灯(蛍光ランプ)に関するものであって,技術分野を共通にするものである。
 また,上記のとおり,刊行物発明の水銀ディスペンサはニッケル板7の全幅に亘ってZr-Ti-Hg合金が塗布されたものであり,刊行物2記載の板状部材は,全幅にわたってゲッター材92と水銀アマルガム材93とが設けられたものであるから,両者は,いずれも放電灯(蛍光ランプ)に用いられ,全幅にわたって水銀合金が塗布された,水銀合金を担持する部材である点で共通するものである。
 そうであれば,放電灯(蛍光ランプ)に関する技術分野の当業者が,刊行物1,2に接し,刊行物発明の水銀ディスペンサの製造方法を検討するに当たって,刊行物2に記載された板状部材の製造方法の適用を試みることには,十分な動機付けがあることは明らかである。

 そして,刊行物発明に刊行物2記載の製造方法を適用する場合には,水銀ディスペンサの材料であるニッケル板によって刊行物2記載の帯状部材に相当するものを形成し,これに水銀合金を所定幅で塗布した上,当該帯状部材を,これに塗布された水銀合金の所定幅方向を切断方向とし,かつ,その切断方向が切り出された部材の長手方向になるようにして切断する(そのように切断しなければ,切り出された部材が,刊行物1の図2c,dに図示された刊行物発明の「ニッケル板7の全幅に亘ってZr-Ti-Hg合金が塗布された水銀ディスペンサ」とならない。)ことによって,水銀ディスペンサ(ニッケル板7)を製造することになるが,その際,上記切断方向が帯状部材の長手方向に垂直な方向となるよう,帯状部材を形成すれば,同一形状のニッケル板7を効率よく製造し得ることは極めて容易に理解し得るところであり,当業者が通常採用する技術事項であると認められる。

副引用例の引用の観点と適用の可否

2008-11-30 10:19:21 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10074
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について
(1) 原告は,刊行物2に記載された発明において,水銀の量は,ランプの管の内径によって制約を受けることになるのに対し,本願発明は,水銀の放出量の制御・調整をフードテープの高さの選択によって行うものであり,高さ方向は管の長手方向となるため,ある程度の自由度があって,水銀の放出量の制御・調整を容易に行うことができるから,刊行物2記載の発明と本願発明とは基本的に相違するものであり,刊行物発明のニッケル板7に刊行物2に記載の技術を適用することにより,相違点に係る本願発明の技術事項を得ることができるとした審決の判断は誤りであると主張する

 しかしながら,審決の相違点についての判断において,刊行物2はいわゆる副引用例に当たるものであって,それに記載された発明の構成のうちの特定部分ないしそれに記載された特定の技術事項を引用し,主引用発明である刊行物発明に適用して,相違点に係る本願発明の構成ないし技術事項とすることが容易になし得るか否かが問題とされるものである。・・・審決は,板状部材の切断幅の方向を管の径方向に向けて取り付けることまで(したがって,切断幅を「蛍光ランプの管の内径に合わせて」所定幅Dとすることまで),刊行物2から引用するものではない

 そうすると,刊行物2に記載された発明自体において,所定幅Dに依存する水銀の量がランプの管の内径によって制約を受けることになるからといって,そのことが,刊行物2に記載された上記技術を刊行物発明のニッケル板7に適用して相違点に係る本願発明の技術事項を得ることにつき,何ら妨げとならないことは明らかであり,原告の上記主張を採用することはできない。

審決の結論に影響を及ぼさない誤り

2008-11-30 10:14:01 | 特許法29条2項
事件番号 平成20(行ケ)10074
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

 ・・・このような認定判断の経緯に照らせば,審決が,刊行物発明につきニッケル板7が「切断」という方法によって製造されるものと認定したものではなく,ニッケル板7の製造方法は不明であるとし,この点を,担持体テープ(1)からその長手方向(LB)に直角に部品(5)を切断してフードテープを製造する本願発明との相違点として認定した上で,当該相違点につき判断をしたものであることは明らかであって,相違点の認定に係る上記「切断された部品」との記載のうち「切断された」との部分は誤記の類であることが,審決に接する者に容易に理解されるものと認められる。

 そうすると,当該誤記は,審決の重要部分に存する甚だ好ましからざるものではあるが,上記のとおり,審決に接する者に明らかな誤記と理解されるものである上,審決は,刊行物発明のニッケル板7が「切断」という方法によって製造されるとの当該誤記の内容を前提として相違点の判断をしたものではなく,ニッケル板7の製造方法は不明であるとする正しい認定を前提として相違点の判断をし,その結論に至っているのであって,当該誤記は,審決の結論に全く影響を及ぼしていないのであるから,当該誤記は,そもそも審決の認定の誤りというべき程のものではなく,仮に,誤りというべきものとしても,審決の結論に影響を及ぼす誤りということはできない。