知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

技術的事項の深い理解に基づいた証拠調べ

2008-11-14 22:26:44 | Weblog
事件番号 平成20(ネ)10035
事件名 補償金請求控訴事件
裁判年月日 平成20年10月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

原判決60頁10行目から61頁8行目までを次のとおり改める。
「ア前記1で認定したとおり,電電公社発明は,被告が本件プロジェクトを開始する前に,既に,A及びBによってほぼ完成されており,原告及びCは,電電公社発明に係る技術の開示を受け,同構成を基に,テレフォンカード式公衆電話機用のカードリーダの開発を進め,本件発明の構成に想到したものである。前記2で判示したとおり,本件発明は,電電公社発明とは,偽造悪用防止のために保護膜を設けた点において共通する

 しかし,前記判示のとおり,本件発明は,電電公社発明とは技術思想を異にし,次の点で大きな特徴を有する。すなわち,本件発明は,磁気記録媒体の記録用の磁性膜の上に設けられた保護膜の,再生ヘッドの磁気ギャップ直下の部分を磁気飽和させ,他の部分を磁気ヨークとして磁気が通る状態にしておくことにより,磁性膜の磁化による磁束を磁気ヘッドに取り出すことを特徴とする磁気記録再生装置であり,その再生用ヘッドにバイアス電流を印加するだけで上記状態にすることができるものである。原告及びCは,電電公社発明を単に改良したのではなく,同発明とは異なる記録再生原理に基づいて本件発明に想到し,上記原理によって初めて磁気記録再生装置の実用化が可能になったものと評価できる。
 これらの事情を総合考慮すると,本件発明の完成に対する,A及びBの貢献割合の合計は30パーセントであり,原告及びCの貢献割合の合計は70パーセントと解するのが相当である。

・・・

原判決61頁24行目から65頁20行目までを次のとおり改める。
「イ 被告は,本件発明は紙幣識別用磁気ヘッドの開発の経験を有するCが,同技術を応用して本件発明を完成させたと主張し,Cの陳述書(乙17)にもこれに沿う記載がある
 しかし,Cの上記陳述書の記載部分は信用できず,被告の上記主張は採用できない。すなわち,紙幣識別用磁気ヘッドに関する特開52-50790号公報(乙19)によれば,紙幣識別装置は,磁石の直下に2つの磁気抵抗素子を並置したものを1つの筐体に収めて磁気ヘッドを構成し,磁気ヘッドの直下に紙幣を置いた場合,紙幣の模様に含まれる磁性材料の分布により,2つの磁気抵抗素子を貫通する磁束の間に差が生じ,その差によって生じた電気抵抗の差を信号として取り出して,紙幣が真正か否かを判別するものであると認められる。この場合,上記のとおり磁気抵抗素子は,それ自体は磁界を発生させるものではなく,通過する磁束により電気抵抗が変化するのみであり,両者の間に磁界が生じるものではなく,磁気飽和とも無関係である。したがって,上記紙幣識別用磁気ヘッドに関する技術と本件発明とは,その解決原理が異なり,相互の関係は認められない。
 そうすると,紙幣識別用磁気ヘッドの開発経験に基づいて本件発明を完成させたとのCの供述部分は,極めて不自然であって,到底信用することはできない

ウ 以上の事情を総合考慮すると,本件発明は,専ら原告が着想し,完成させたものであり,Cは原告の指示にしたがって実験を行なったにとどまり,その独自の着想等を認めることができない。 そして,前記認定事実によれば,原告は被告提出の文書の中でCを「実験補助者」と記載しているし,出願過程においてCが作成した文書も原告作成の文書を参考にしている。以上に照らせば,本件発明の完成に対する原告とCとの間の貢献割合は,原告が95パーセント,Cが5パーセントと解するのが相当である。