知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

本願発明の数値範囲からはずれる引用例

2008-11-05 06:43:33 | 特許法29条2項
事件番号 平成19(行ケ)10306
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

・・・
 上記のとおり,本願明細書には,乾熱収縮率を測定する場合の温度を特に180℃に設定した積極的な理由は記載されていないから,引用例2の実施例1における収縮処理の温度が150℃であるとしても,それによって本願発明についての容易想到性が否定されることはないというべきである。

(イ) また,周知例2には,180℃の処理による乾熱収縮率が,本願発明に定められた乾熱収縮率(5~15%)の範囲内ではない17.5%(実施例3),19.5%(実施例4)であるエアバッグ基布用ポリエステル繊維も記載されている。
 しかし,本願明細書には,乾熱収縮率が「5~15%」という数値範囲の内にあるか外にあるかによって作用効果に顕著な差異を生ずる旨の記載はないから,周知例2に,実施例として,乾熱収縮率が本願発明に定められた乾熱収縮率(5~15%)の範囲内ではないものが記載されていたとしても,それによって本願発明についての容易想到性が否定されることはないというべきである。

信義誠実の原則に反する訴訟活動

2008-11-05 06:26:20 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10331
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 なお,本件における原告の訴訟活動及び争点設定に関して,当裁判所の意見を述べる。

 民事訴訟法2条は,「・・・当事者は,信義に従い誠実に民事訴訟を追行しなければならない」と規定する。同規定は,公正かつ迅速な訴訟手続を行い適切な司法判断を得るという法の理念に即して,民事の紛争の解決が実現されることを目的として,訴訟を追行する訴訟当事者に対して,誠実な訴訟活動をするよう努める義務を負わせることとしたものである。
 同規定の上記の趣旨に照らすならば,当事者が,客観的に明白な事実に反し,また,自己が主観的に確信した真実に反して,徒に主張や立証活動を行ったり,逆に,反対当事者が,上記のような事実に基づいて,徒に,相手方の主張を否認したり,反対立証を重ねるような場合には,民事訴訟法2条に規定する信義誠実の原則に反する訴訟活動であると解すべきである

 ところで,本件取消訴訟をみると,原告は,本件発明1に限っても,審決のした本件発明1と甲1発明Aとの一致点及び相違点(6個)の認定及び相違点(6個)に関する容易想到性の判断,並びに審判手続のすべてに誤りがあると主張して,審決を取り消すべきであるとしている(原告第1,第2準備書面,合計59頁)。
 しかし,
①およそ,当事者の主張,立証を尽くした審判手続を経由した審決について,その理由において述べられた認定及び判断のすべての事項があまねく誤りであるということは,特段の事情のない限り,想定しがたい。また,
②本件において,本件発明と引用発明との間の一致点及び相違点の認定に誤りがあるとの原告の主張は,実質的には,相違点についての容易想到性の判断に誤りがあるとの主張と共通するものと解される。
そのような点を考慮するならば,本件において,原告が,争点を整理し,絞り込みをすることなく,漫然と,審決が理由中で述べたあらゆる事項について誤りがあると主張して,取消訴訟における争点としたことは,民事訴訟法2条の趣旨に反する信義誠実を欠く訴訟活動であるといわざるを得ない

反論の機会-提示済み文献を周知例で補強した事例

2008-11-05 06:20:33 | Weblog
事件番号 平成19(行ケ)10331
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年10月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

3 取消事由3(手続の違法性)について
 原告は,相違点3a(凹入部形成方法)の容易想到性判断に当たり,審決は,甲9以外に甲27及び28を裏付けとして周知技術を認定しているが,これらは審決において指摘された刊行物であり,原告に意見を述べる等の機会を与えなかった違法がある旨主張する。

しかし,以下の経緯に照らすならば,原告の主張は理由がない。すなわち,
(1) 平成19年1月11日付け審判請求書(甲19)において,被告が「・・・は現実的ではなく,(中略)成形型を圧接して行なう手法が最も一般的であり常套手段である。」として甲9を例示した(20頁23行~21頁4行)。原告は,平成19年4月2日付け審判事件答弁書(甲20)において,これに対して反論をした(14頁11行~15頁4行)。

(2) 審判体は,被告に対し,平成19年6月11日付け【口頭審理陳述要領書の作成にあたって】と題する書面(甲23)において,甲9以外に被告の主張する手法が「最も一般的で常套手段であることを裏付ける周知例があれば提示してください。」として,周知例を示すよう促したが(1頁下から9行~4行),被告は,平成19年7月10日付け「口頭審理陳述要領書」(甲25,7頁)において,周知例を調査中であるとして,具体的な文献は提示しなかった。

(3) その後,審決では,甲27及び28を示して「一般に,容器の成形において,一旦ブロー成形された容器の一部を加熱し,そこに特定形状の型を圧接させる後加工によって容器を所望の形状に成形することは,従来周知の技術である」とし,「甲9のような小型のブロー成形容器に対しても,該容器を加熱しつつ成形型を圧接させて後加工を行う技術が示されているといえる。」と認定,判断した。

 以上のとおり,審理の過程で無効の理由として「ブロー成形後に,その凹部に見合う凸部を有する成形型を圧接して行なう手法が最も一般的で常套手段である」という技術事項が証拠とともに示され,原告に対しても意見を述べる機会が与えられていること,その後に,審決において,当該技術が周知であることを裏付ける証拠(文献)が付加されていること等の経緯に照らすならば,本件審判手続及び審決は,申立人が申し立てなかった新たな無効理由に基づいて判断したものとはいえず,また,実質的に意見を述べる機会を付与しなかったものともいえない

 したがって,本件審判手続において特許法134条2項,同153条2項等の規定に反する手続があったものと認めることはできず,原告の主張は理由がない。