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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

優先権主張の取り下げによる翻訳文提出期間の延長の主張

2012-02-26 20:33:06 | Weblog
事件番号 平成23(行ウ)535
事件名 決定処分取消請求事件
裁判年月日 平成24年02月16日
裁判所名 東京地方裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 大鷹一郎

 原告は,本件取下書の提出によって,本件国際特許出願に関する2007年(平成19年)1月23日を優先日とする優先権主張は取り下げられたものであり,その結果,本件国際特許出願に係る特許協力条約2条(xi)の優先日は,本件国際出願の国際出願日である2008年(平成20年)1月23日に繰り下がることとなり,ひいては,本件国際特許出願についての国内書面提出期間(特許法184条の4第1項)の満了日も平成22年7月23日に繰り下がることとなる旨主張する。

 そこで,原告による本件取下書提出の効果について検討するに,前記争いのない事実等(1)ないし(3)のとおりの本件国際特許出願に係る事実経過からすれば,
 ○1 原告は,2008年(平成20年)1月23日,特許協力条約3条に基づいて,同条約8条に基づくパリ条約による優先権主張(優先権主張日・2007年(平成19年)1月23日(米国における先の出願の特許出願日))を伴う本件国際出願(受理官庁・欧州特許庁)をしたこと,
 ○2 本件国際出願は,日本において,特許法184条の3第1項の規定により,その国際出願日にされた特許出願とみなされたこと(本件国際特許出願),
 ○3 本件国際特許出願についての明細書等の翻訳文の提出期間は,同法184条の4第1項ただし書の適用により,原告が本件国内書面を提出した日である平成21年7月14日から2月が経過する同年9月14日までであったこと
が認められる。

 しかるところ,原告は,当該提出期間の満了日までに上記翻訳文をいずれも提出しなかったのであるから,特許法184条の4第3項の規定により,当該満了日が経過した時点で,本件国際特許出願は取り下げられたものとみなすものとされる。

 そうすると,原告が本件取下書を特許庁長官に提出した平成22年1月22日の時点においては,本件国際特許出願は,既に取り下げられたものとされ,そもそも特許出願として特許庁に係属していないこととなるから,当該出願に関して,優先権主張の取下げを含む特許庁における法律上の手続は,およそ観念することができないというべきである。
 してみると,原告による本件取下書の提出をもって,本件国際特許出願に関する優先権主張の取下げの効果を生じさせるものと認めることはできない。

同様の事件の判決はここ

見解書等で進歩性を否定された発明と同様の発明が特許査定され、見解書等の無効確認請求等がなされた事例

2012-02-25 16:22:30 | Weblog
事件番号 平成23(行コ)10001
事件名 審査結果無効確認及びその損害賠償請求控訴事件
裁判年月日 平成24年02月07日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
裁判長裁判官 中野哲弘

2 本件見解書及び本件報告書において特許庁審査官の示した見解の適否について
(1) 事案に鑑み,本件見解書の請求項21及び22,本件報告書の請求項9~13につき特許庁審査官が示した進歩性に関する見解の法適合性について判断する。
(2) 特許庁が示した上記見解は,一審原告たる控訴人が平成18年8月18日付けでなした国際予備審査の請求についてのものであるが,上記請求に対して特許庁審査官がなすべき見解の判断基準となるのは,PCT条約33条であり,その(1)には,「国際予備審査は,請求の範囲に記載されている発明が新規性を有するもの,進歩性を有するもの(自明のものではないもの)及び産業上の利用可能性を有するものと認められるかどうかの問題についての予備的なかつ拘束力のない見解を示すことを目的とする」と規定されているから,当該発明が
○1 「新規性を有するもの」か,
○2 「進歩性を有するもの(自明でないもの)」か,
○3 「産業上の利用可能性を有するものか」がその基準となる
ものである。
 そして本件見解書及び本件報告書において該請求項につき特許庁審査官が示した見解は,控訴人の出願した各発明は(請求項21及び22,9~13)は上記②の「進歩性を有するもの(自明でないもの)」に該当しない,というものである。
 この要件は,国内出願に対して定められている特許法29条2項の「特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が前項各号に掲げる発明に基いて容易に発明をすることができたとき」と極めて類似するが,法的には同一ではない。控訴人は,本件各見解はPCT条約ではなく特許法29条2項に基づき判断されるべきである旨主張するようであるが,後に述べるとおり,採用することができない。
 そこで,特許庁審査官が示した上記各見解がPCT条約33条(1)に適合するものであるかについて,以下検討する。
 なお,国際予備審査請求に対する特許庁審査官の判断は,国内出願に対する別の特許庁審査官の判断とは別個独立になされるものであるから,仮に国際予備審査の対象となった国際出願と類似した内容の国内出願が控訴人により別途なされ,それについて日本国特許庁から特許査定を受け特許登録がなされたからといって,法的には別の手続である国際予備審査における特許庁審査官の見解表明が違法となるものでないことは明らかである。
 ・・・

カ 以上からすれば,本件国際予備審査請求における担当審査官は,本願発明9ないし13,21及び22の非自明性(PCT条約33条所定の要件)につき,当業者の立場に立って正しく検討した上で,これを否定したものといえ,その判断に誤りはない

原審はここ

無関係な事項が記載された審決

2012-02-12 10:27:29 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10143
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成24年01月18日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

カ なお,この点について,原告は,本件審決において,本件とは無関係な事項が記載されていることをもって,本件審決の引用発明の認定が誤りである旨主張するところ,確かに,当該記載は,原告が指摘するとおり,本件とは無関係な事項に係る記載であるものというほかなく,このような事項が3行にもわたって記載されたまま本件審決がされたことは,理解し難いところである。被告も,本件とは無関係な記載が錯誤によって紛れ込んだ誤記であるなどと主張して,これを自認している。

 しかしながら,それが誤記であったとしても,当事者にとっては,審判合議体の審理判断に疑義をはさませるのに十分であって,そのような誤記が抹消されないまま,審判合議体の最終判断として本件審決が告知されていることに,審理判断の杜撰さを指摘されても止むを得ないのであって,本件とは無関係な記載が錯誤により紛れ込んでしまったなどという主張が許されるものではない

 もっとも,本件においては,当該記載が本件審決の引用発明の認定それ自体に用いられなかったことは,本件審決の判断内容からしても明らかである。本件訴訟において,本件審決を取り消した上で,改めて引用例に記載された発明の認定から審判をやり直すまでの必要はなく,原告の主張は,これを採用するには至らないというべきである。

特許法が前提とする基本構造

2011-12-19 22:29:11 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10132
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年12月13日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

 原告は,審決が,平成22年4月19日付けの補正による請求項1~9のうち,請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2~9について審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である旨主張する。

 しかしながら,特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与されるものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条,51条の文言のほか,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである最高裁平成19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1905頁参照)。

 したがって,複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体について請求不成立としたことに違法はない。

プロバイダ責任制限法4条1項に基づき発信者情報の開示を認めた事例

2011-12-07 22:56:54 | Weblog
事件番号 平成23(ワ)22642
事件名 発信者情報開示請求事件
裁判年月日 平成23年11月29日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 阿部正幸

第3 当裁判所の判断
1 被告の利用者による原告らの送信可能化権の侵害の有無について
 ・・・
イ 「P2P FINDER」について
 「P2P FINDER」とは,・・・インターネット上の著作権侵害検出システムであり,・・・各種P2Pネットワークに接続し,同ネットワークにおいて流通するファイル(ダウンロードされたファイル)及びダウンロード時の情報(送信元となったノードのIPアドレス,ポート番号,ファイルハッシュ値,ダウンロード完了時刻等)を収集,分析等するものである。
 ・・・

ウ クロスワープ社による調査
 クロスワープ社は,原告らから依頼を受け,「P2P FINDER」を使用して,キーワード名を,原告各レコードの実演家である「RADWIMPS」,「西野カナ」,「aiko」,「perfume」,「いきものがかり」,「コブクロ」,「ヒルクライム」及び「浜崎あゆみ」として検索した。
 その結果,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしト記載のIPアドレスから本件ファイル1ないし20(以下「本件各ファイル」という。)が送信され,同項記載の時刻に本件各ファイルのダウンロードが完了したことが確認された(以下「本件調査結果」という。)

エ 本件調査結果の信用性
 ・・・
(3) 本件確認試験の結果等によれば,「P2P FINDER」による検索結果,すなわち本件調査結果については,その信用性を疑わせるような事情は見当たらず,信頼を置くことができるものと認められる。
 したがって,本件調査結果に基づき,前記第2の3[原告らの主張](1)アないしトの事実,すなわち,
○1 本件各利用者は,原告各レコードを複製し,この複製に係るファイル(本件各ファイル)をコンピュータ内の記録媒体に記録・蔵置した上,当該コンピュータを,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当てを受けてインターネットに接続したこと,
○2 そして,本件各利用者は,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを,インターネットに接続している,本件各利用者からみて不特定の他の同ソフトウェア利用者(公衆)からの求めに応じて,インターネット回線を経由して自動的に送信し得る状態にしたこと(すなわち,原告らの原告各レコードに係る送信可能化権を侵害したこと),が認められる。

2 発信者情報開示請求の要件について
(1) 被告が本件各利用者による原告各レコードの送信可能化権侵害との関係においてプロバイダ責任制限法4条1項の「開示関係役務提供者」に該当することについては,当事者間に争いがない。
(2) また,前記第2の1(争いのない事実等)の(2)(原告らの送信可能化権)及び上記1で認定した事実によれば,本件各利用者は,被告のインターネット接続サービスを利用して,被告からIPアドレスの割当を受けてインターネットに接続し,Gnutella互換ソフトウェアにより,本件各ファイルを公衆からの求めに応じて自動的に送信し得る状態にしたことによって,原告らが原告各レコードについて有する送信可能化権を侵害したことが,明らかであると認められる。
(3) さらに,証拠(甲1の1~8,甲1の12・13,甲1の17~26)及び弁論の全趣旨によれば,原告らは,原告ら各自が原告各レコードについて有する送信可能化権に基づき,本件各利用者に対して損害賠償請求及び差止請求を行う必要があるところ,本件各利用者の氏名・住所等は原告らに不明であるため,上記請求を行うことが実際上できない状態にあることが認められる。
(4) したがって,原告らには,被告から本件各利用者に係る発信者情報(氏名,住所及び電子メールアドレス)の開示を受けるべき正当な理由がある

特許法134条の2第1項ただし書各号所定の事項を目的とするものではないとされた訂正

2011-12-04 11:00:43 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)24818
事件名 特許権差止等請求事件
裁判年月日 平成23年11月25日
裁判所名 東京地方裁判所
裁判長裁判官 岡本岳

エ 特許無効審判における訂正の請求は,①特許請求の範囲の減縮,②誤記又は誤訳の訂正,③明瞭でない記載の釈明を目的とするものに限って許されるものである(特許法134条の2第1項)ところ,前示1のとおり,本件特許発明は「鍵」発明であり,ロータリーディスクタンブラー錠の構成に関する上記限定を加えたからといって,「鍵」自体の構成が限定されるとは認められないのであるから,上記限定によって,本件特許発明に係る特許請求の範囲を減縮するものということはできず,また,本件特許発明の「鍵」の構成が明瞭になるとも,誤記又は誤訳が訂正されることになるということもできない
 したがって,本件訂正請求は,特許法134条の2第1項ただし書各号所定の事項を目的とするものとは認められないから,不適法なものであり,これによって,本件特許が有する前示1の無効理由を解消することはできない。

物の発明としての同一性の判断

2011-11-27 23:06:50 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10047
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年11月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

審決は,本件発明1と甲1発明との技術的思想の相違や,甲1に具体的な鉄損値の記載がないことを指摘するが,本件発明1の解決課題と甲1に記載された課題が異なることや,甲1に発明の効果に関する具体的な数値の記載がないことは,物の発明としての同一性の判断に影響を及ぼすものとはいえない

特許法29条1項3号所定の刊行物

2011-11-17 23:09:28 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10189
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

ウ 取消事由3(引用例には引用文献適格性がないこと)について
原告は,
① 刑事事件において裁判所が引用例(乙1)の内容をでたらめと判断し,これを刊行物として認めなかったこと,
② A教授が,引用例の内容をでたらめと判断したこと,
③ 引用例が絶版となったことの3点を根拠に,引用例は引用刊行物として妥当でない
と主張
する。

 しかし,仮に刑事事件において裁判所が引用例の内容をでたらめと判断し,あるいはA教授が引用例の内容をでたらめと判断し,さらには引用例とされた刊行物が絶版になった事実が認められたとしても,当該刊行物が出版されたという事実自体が消滅するものではなく,引用例は特許法29条1項3号所定の「特許出願前に日本国内・・・において,頒布された刊行物」に該当する

 したがって,引用例が引用刊行物としての適格性を欠く旨の原告の主張は採用することができない。

特許を受ける権利の確認を求める利益の有無

2011-11-16 23:35:32 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)2863
事件名 特許を受ける権利の確認等請求事件
裁判年月日 平成23年10月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 本件訴え1
ア 発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということがきるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。

 これを本件についてみるに,原告は,被告IHIらが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告IHIらはこれを争っているから,原告と被告IHIらとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え1によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告IHIらとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる
 また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
 他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告IHIらに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
 
 以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。
・・・
(イ) また,被告IHIらは,本件各発明の発明者が原告であるか否かは,本件各原告出願の審査において,第一次的には特許庁が新規性,進歩性等の要件を備えているか否かと併せて判断すべき問題であるから,かかる意味においても訴えの利益が認められないとも主張する。
 しかしながら,・・・特許庁の審査官又は審判官が第一次的に判断するものとしていることは,被告IHIらが指摘するとおりであるとしても,最高裁平成13年6月12日判決判示するように,権利の帰属自体は必ずしも技術に関する専門的知識経験を有していなくても判断し得る事項であって,本件訴え1は,正に権利の帰属の争いであるから,被告IHIらの指摘は本件には当たらないというべきである。したがって,被告IHIらの上記主張も採用することができない。

特許を受ける権利の確認を求める利益の有無

2011-11-16 23:25:26 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)2863
事件名 特許を受ける権利の確認等請求事件
裁判年月日 平成23年10月28日
裁判所名 東京地方裁判所  
裁判長裁判官 岡本岳

1 争点(1)(確認の利益の有無)について
(1) 本件訴え1
ア 発明者は,発明をすることによって,特許を受ける権利を取得し(特許法29条1項),特許権を取得すれば,業として特許発明の実施をする権利を専有することができ(同法68条),また,特許を受ける権利は,移転することができ(同法33条1項),独立した権利として譲渡性も認められている。したがって,特許を受ける権利は,発明の完成と同時に発生する,それ自体が一つの独立した財産的価値を有する権利ということがきるから,その帰属について争いがある場合には,当該権利の帰属を主張する当事者の一方は,これを争う他方当事者を相手方として,裁判所に対し,自己に特許を受ける権利が存することの確認を求めることができると解するのが相当である。

 これを本件についてみるに,原告は,被告IHIらが出願した本件各発明について,自己に特許を受ける権利が帰属すると主張し,被告IHIらはこれを争っているから,原告と被告IHIらとの間には,本件各発明に関する特許を受ける権利の帰属について争いがあり,原告が自己に帰属すると主張する本件各発明の特許を受ける権利について,不安や危険が現存すると認めることができる。そして,本件訴え1によって,原告が本件各発明の特許を受ける権利を有することを確認できれば,原告と被告IHIらとの間の本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる
 また,冒認出願は,特許法39条1項から4項までの規定の適用については特許出願でないものとみなされ(同条6項),後願排除力(同条1項)を有しないものとされており,真の権利者は,その意に反して発明が新規性を失った日,すなわち冒認出願につき出願公開がされた日から6か月以内に特許出願をすれば,例外的にその発明が新規性を喪失しないものと扱われ(同法30条2項),特許権を取得することができる。現に,原告は同項の適用を前提として本件各原告出願を行っており,本件訴訟で原告が勝訴すれば,原告はその審査の過程で当該勝訴判決を一資料として特許庁に提出することができる
 他方,本件のような事案において,特許を受ける権利それ自体について移転請求を認める規定は現行法上存在しないから,原告は,被告IHIらに対し,上記権利の移転を求める給付の訴えを提起することはできないと解される。
 
 以上に検討したところによれば,本件訴え1によって,本件各発明の特許を受ける権利の帰属を巡る争いから派生して生じるおそれのある将来の紛争を抜本的に解決することが期待できる一方,特許を受ける権利それ自体について給付の訴えを提起することはできないのであるから,本件訴え1には確認の利益が認められるというべきである。

均等論における本質部分の判断

2011-11-16 23:09:55 | Weblog
事件番号 平成22(ワ)3846
事件名 不当利得金返還請求事件
裁判年月日 平成23年10月27日
裁判所名 大阪地方裁判所
裁判長裁判官 山田陽三

ア 特許発明の本質的部分とは,特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで,当該特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分,言い換えれば,上記部分が他の構成に置き換えられるならば,全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解される。

 そして,本質的部分に当たるかどうかを判断するに当たっては,特許発明を特許出願時における先行技術と対比して課題の解決手段における特徴的原理を確定した上で,対象製品の備える解決手段が特許発明における解決手段の原理と実質的に同一の原理に属するものか,それともこれとは異なる原理に属するものかという点から判断すべきものである。

イ 本件特許発明の構成要件A及びB,すなわち「10BASE-T に準拠するツイストペア線においてリンクテストパルスが伝送されること」が周知技術であることは,当事者間で争いがない。
そうすると,本件特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで本件特許発明特有の課題解決手段を基礎づける特徴的な部分は,本件特許発明の構成要件Cであると解するよりほかない。
・・・
 そして,これに基づく課題解決手段の原理は,本件特許発明が検査結果に基づいて信号線を自動的に切り替えるというものであるのに対し,被告製品は検査結果に基づいて信号線の切替えをやめるというものであって,原理として表裏の関係にある又は論理的に相反するものであり,異なる原理に属するものというほかない。

判決の拘束力

2011-11-14 22:28:02 | Weblog
事件番号 平成23(行ケ)10150
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

 商標登録無効審判についての審決の取消訴訟において審決を取り消す旨の判決が確定したときは,審判官は,商標法63条2項において準用する特許法181条5項の規定に従い,当該審判事件について更に審理を行い審決をすることとなるが,審決取消訴訟は行政事件訴訟法の適用を受けるから,再度の審決には,同法33条1項の規定により,同取消判決の拘束力が及び,この拘束力は,判決主文が導き出されるのに必要な事実認定及び法律判断にわたる最高裁平成4年4月28日第三小法廷判決民集46巻4号24頁参照)から,審判官は取消判決の上記認定判断に抵触する認定判断をすることは許されず,したがって,再度の審判手続において,審判官が取消判決の拘束力に従ってした審決は,その限りにおいて適法であり,再度の審決取消訴訟においてこれを違法とすることはできないというべきである。

そこでこれを本件についてみるに,前述した前判決の認定判断に照らすと,前判決の拘束力は,被告の本件商標の出願は,ASUSTeK社若しくはASRock社が商標として使用することを選択し,やがて我が国においても出願されるであろうと認められる商標を,先回りして,不正な目的をもって剽窃的に出願したものであり,出願当時,引用商標及び標章「ASRock」が周知・著名であったか否かにかかわらず,本件商標は商標法4条1項7号にいう「公の秩序又は善良な風俗を害するおそれがある商標」に該当するとの認定判断について生ずるものというべきである・・・

引用発明が一部の構成要件のみを充足し,その他の構成要件に言及がない場合

2011-11-14 22:18:24 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10245
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月24日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 特許法29条1項は,特許出願前に,公知の発明,公然実施された発明,刊行物に記載された発明を除いて,特許を受けることができる旨を規定する。出願に係る発明(当該発明)は,出願前に,公知,公然実施,刊行物に記載された発明であることが認められない限り(立証されない限り),特許されるべきであるとするのが同項の趣旨である。

 当該発明と出願前に公知の発明等(以下「公知発明」という場合がある。)を対比して,・・・,公知発明が,「一部の構成要件」のみを充足し,「その他の構成要件」について何らの言及もされていないときは,広範な技術的範囲を包含することになるため,論理的には,当該発明を排除していないことになる。したがって,例えば,公知発明の内容を説明する刊行物の記載について,推測ないし類推することによって,「その他の構成要件についても限定された範囲の発明が記載されているとした上で,当該発明の構成要件のすべてを充足する」との結論を導く余地がないわけではない。

 しかし,刊行物の記載ないし説明部分に,当該発明の構成要件のすべてが示されていない場合に,そのような推測,類推をすることによってはじめて,構成要件が充足されると認識又は理解できるような発明は,特許法29条1項所定の文献に記載された発明ということはできない。仮に,そのような場合について,同法29条1項に該当するとするならば,発明を適切に保護することが著しく困難となり,特許法が設けられた趣旨に反する結果を招くことになるからである。上記の場合は,進歩性その他の特許要件の充足性の有無により特許されるべきか否かが検討されるべきである。
 ・・・
・・・甲1及びその引用文献には,防菌・防黴剤の組成物として用いられるMITについて,「CMITを含まない」ことについては言及がなく,CMITが含まれたことによって生じる欠点に関する指摘もない。したがって,甲1において,CMITが含まれることによる欠点を回避するという技術思想は示されていない
 甲1に接した当業者は,「CMITを含まない」との構成要件によって限定された範囲の発明が記載されていると認識することはなく,甲1には,「CMITを含む発明」との包括的な概念を有する発明が記載されていると認識するものと解される。

阻害要因を認めた根拠となる副引用例の構成は必須の構成ではないとした事例

2011-11-10 23:49:40 | Weblog
事件番号 平成21(行ケ)10107
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月11日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
裁判長裁判官 塩月秀平


 審決の上記判断は,引用発明1がアウタープライマーを使用しない方法であるのに対して,引用発明3に開示された方法は,アウタープライマーの使用を要件とする方法であることを理由として,引用発明1に引用発明3を適用できないとするものである。

 確かに,引用例3の図5に開示される方法は,相補鎖の置換をアウタープライマーを用いて行うものであるが,同引用例の図2の(7)には,同引用例に記載された要件を満足するプライマーを使用することによって,ループに新しいプライマーがアニールする反応が効率的に起こることが開示されており,当該プライマーと配列が異なるアウタープライマーがこの反応に関係するものではない。すなわち,引用発明3に開示された核酸の増幅方法では,ループにプライマーがアニールする段階ではアウタープライマーの使用を必須の構成とするものではない

 一方,引用発明1に開示された核酸の増幅反応においても,図2の④に示されるように,ループにプライマーがアニールする反応段階があり,当業者であれば,引用発明1の核酸の増幅方法では,この反応段階を経て核酸が増幅されて行くものと理解できるから,当該反応段階が効率化されれば,引用発明1の核酸増幅反応全体としても,反応が効率化されると考えるといえる。したがって,当業者は,当該反応段階自体,あるいは,当該反応段階を含む「増幅反応」全体を効率化する目的で,引用発明3に開示された要件を満足するプライマーを使用することを,容易に想到するものと認められ,審決の上記判断は誤りといわなければならない。
 ・・・
 ・・・引用発明3は,前記のとおり,・・・という技術的知見に基づき,プライマーの領域の塩基数を特定することによって,新たなプライマーを合成起点とする鎖置換を伴う相補鎖合成反応が円滑に開始できることを開示するのであるから,同じく自己アニールによってループを形成するプライマーを使用する引用発明1において,引用発明3の構成を採用しようと試みることに困難性はないものといえる。

無効理由の一つを排斥した審決に判断の遺漏があるとされた事例

2011-11-07 00:18:40 | Weblog
事件番号 平成22(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年10月04日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塩月秀平

4 取消事由4(特許法29条2項に関する判断の誤り)について
(1) 原告は,無効理由3と同様に,甲1~甲6に基づき,本件発明でいうA成分(・・・)とB成分(・・・)とを混合してなる麦芽発酵飲料が,本件出願前に広く一般に知られた周知の麦芽発酵飲料であることを前提に,本件発明が進歩性を欠如すると主張する(なお,原告は,審決が進歩性欠如を検討するに際して,甲1~甲6に基づく周知技術に関しての原告の上記主張を審理判断の対象としたのでないとすれば,審決には判断の遺脱がある旨も主張する。)

 しかし,この点に関して審決は,・・・,特許法29条1項1号又は2号の発明(公知発明,公用発明)に基づく進歩性欠如の無効理由は新たな主張であるとして排斥し,同条1項3号の発明(刊行物発明)に基づく進歩性欠如の無効理由のみを判断した。

(2) そこで,審判において原告(請求人)がした主張をみてみる。
 原告は,審判請求書(甲12)において,無効理由4の主張に関して,「請求項1に係る発明でいうA成分とB成分とを混合してなる麦芽発酵飲料は,「(4-3)ア.(3-2)本本件出願前周知の麦芽発酵飲料」で述べたとおり,本件出願前,周知の麦芽発酵飲料であり,その一例として,甲1には,・・・「ドックス・ノーズ」と呼ばれる麦芽発酵飲料が,また,甲2には,・・・「ボイラーメーカー」と呼ばれる麦芽発酵飲料が記載されている。」(38頁),「このように,甲1又は甲2に記載された本件出願前周知の麦芽発酵飲料において,そのアルコール度数(アルコール分)を消費者の低アルコール志向に合わせて,A成分であるビールと同程度にとどめる場合には,必然的に請求項1に係る麦芽発酵飲料が得られるのであって,そこにはなんらの技術的困難性もなければ,独創性も存在しない。」(39頁)と記載した。

 上記で引用される「(4-3)ア.(3-2)本本件出願前周知の麦芽発酵飲料」では,甲1~甲6を証拠とする「周知の麦芽発酵飲料」が存在することを主張しており,また,上記記載により,「本件出願前周知の麦芽発酵飲料」に基づいて,本件発明1が容易に発明できたことを明確に主張しているものと認められる。しかも,甲1及び甲2は,「麦芽発酵飲料」が周知であることを示す「一例として」取り上及び甲2は,「麦芽発酵飲料」が周知であることを示す「一例として」取り上げていることが明記されている。

 これに対して審判合議体は,・・・,原告に対して,・・・,この理由4の無効理由は,これら特許法29条1項1号又は2号の発明に基づく進歩性欠如の無効理由ではなく,甲1または甲2に記載された発明(特許法29条1項3号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由であると理解してよいか。」と,釈明を求めた。
 そして,原告は,・・・,「請求人が意図する理由4は,甲1又は甲2に記載された発明(特許法29条1項3号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由であることはもちろん,それにとどまらず,理由3で甲1又は甲2等を根拠にその存在を主張した発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)に基づく進歩性欠如の無効理由を含むものです。」(4頁~5頁)と述べ,さらに,「カ.請求人主張の補足」(20頁~21頁)においても,本件発明が,公然知られたか又は公然実施された発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張した。

 以上のとおり,原告は,審判において,・・・,甲1~甲6に基づき,「公然知られた発明又は公然実施をされた発明(特許法29条1項1号又は2号の発明)」として「周知の麦芽発酵飲料」を主張立証していたものと認められるから,そのような公然知られた発明又は公然実施をされた発明に基づく進歩性欠如の無効理由4を,審判請求の当初から主張していたことが明らかであり,甲1又は甲2はその例示として取り上げられたにすぎないものといえる。

(3) そうすると,審決が,特許法29条1項1号又は2号の発明(公知,公発明)に基づく進歩性欠如の無効理由は新たな主張であるとして排斥し,同条1項3号の発明(刊行物発明)に基づく進歩性欠如の無効理由のみを判断したことは誤りであり(なお,審決は,刊行物発明に基づく進歩性欠如の判断に関しても,甲1及び甲2のみを取り上げ,甲3~甲6は全く検討していない。),審決には,原告の主張する無効理由4に判断の遺脱があるといわなければならない。