知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

公衆送信行為の判断事例B(アンテナから構内の多数のベースステーションまで)

2009-01-02 11:46:58 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10059
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官  石原直樹

4 争点3(本件サービスにおいて,被控訴人は本件著作物の公衆送信行為を行っているか)について
(1) 控訴人らは,本件サービスにおいて,被控訴人は,①多数のベースステーションを被控訴人の事業所に設置した上で,②これら多数のベースステーションに電源を供給,起動して,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テレビアンテナで受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに供給するために,被控訴人が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線によってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションを接続し,④被控訴人が調達し,被控訴人において必要な設定を行ったルーター,LANケーブル及びハブを経由して,被控訴人の調達した接続回線によりこれら多数のベースステーションをインターネットに接続し,⑤以上のような状態を維持管理する行為を行っており,・・・,また,本件サービスにおいて,被控訴人が,テレビアンテナで受信した本件番組を多数のベースステーションに供給するために,テレビアンテナに接続された被控訴人事業所のアンテナ端子からの放送信号を被控訴人が調達したブースターに供給して増幅し,増幅した放送信号を被控訴人が調達した分配機を介した有線電気通信回線によって多数のベースステーションに供給していること自体が,公衆送信行為に該当するとも主張する(以下「公衆送信行為の主張B」という。)。

 著作権法23条1項は,「著作者は,その著作物について,公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と規定するところ,控訴人らの公衆送信行為の主張A,Bは,被控訴人の上記行為が,本件番組についての控訴人らの同項所定の権利(公衆送信権)を侵害するというものである。

(3) 控訴人らの公衆送信行為の主張Bに係る「公衆送信行為」は,有線放送を意図するものと解される。
 そこで,以下,有線放送を含む公衆送信に関する著作権法の規定及びその変遷並びにベルヌ条約及びWIPO条約の各規定等を踏まえて,控訴人らの公衆送信行為の主張Bの当否について検討する。

ア 著作権法2条1項7号の2は,「公衆送信」について「公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(プログラムの著作物の送信を除く。)を除く。)を行うことをいう。」と定義している。

 しかるところ,著作権法には,「送信」を定義する規定は存在しないが,通常の語義に照らし,信号によって情報を送ることをいうものと考えられ,その信号には,アナログ信号のみならず,デジタル信号も含まれ,また,必ずしも信号発信の起点となる場合だけでなく,いったん受信した信号をさらに他の受信者に伝達する行為も,著作権法における「送信」に含まれるものと解するのが相当である。

 他方,「受信」についても著作権法に定義規定は存在しないが,「受信」は「送信」に対応する概念であるとして,上記のような「送信」に対応して使用されていることからすると,著作権法上,「受信」とは「送信された信号を受けること」をいうものと解すべきである。

・・・

イ 上記アのとおり,著作権法2条1項7号の2は,公衆送信といい得るために,「公衆によって直接受信されること」を目的とする無線通信又は有線電気通信の送信であることを必要としている。そこで,以下,同号の「公衆によって直接受信されること」の意義について検討する

(ア) 現在の「公衆送信」に関する著作権法の規定の変遷は,以下のとおりである。
・・・

(イ) 上記(ア)のとおり,著作権法は,その制定の当初から,著作者がその著作物を放送し,又は有線放送する権利を専有する旨を定めていたところ,その後,通信技術の発達,多様化により,放送や有線放送のような一斉送信の範疇に納まらない新たな形態の送信が普及するようになったことに伴い,昭和61年法律第64号による改正を経て,平成9年法律第86号による改正により「公衆送信」の概念を導入し,その下位概念として,「公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う」送信を「放送」及び「有線放送」とし,また,インタラクティブ送信のような「公衆からの求めに応じ自動的に行う」送信を「自動公衆送信」とするとともに,自動公衆送信装置に関する準備を完了し,直ちに自動公衆送信ができる状態とすることをもって「送信可能化」とした上で,著作者はその著作物について公衆送信(本来の定義に則った「放送」,「有線放送」及び「自動公衆送信」のほか,「送信可能化」を含むものとされている。)を行う権利を専有するとしたものである。

 他方,上記(ア)のとおり,著作権法は,その制定の当初から,放送及び有線放送を「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものと定義しており,昭和61年法律第64号による改正を経て,平成9年法律第86号による改正により「公衆送信」の概念を導入した際においても,「放送」及び「有線放送」並びに「自動公衆送信」を「公衆送信」の下位概念として整理した上,上位概念である「公衆送信」を「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものと定義したものであって,このことは,当初から「公衆によつて直接受信されることを目的」とするものであった「放送」及び「有線放送」のほか,新たに加わった「自動公衆送信」も含め,「公衆によつて直接受信されることを目的」とすることが,公衆送信に共通の性質であることを意味するものである。

(ウ) ところで,上記(ア)の平成9年法律第86号による著作権法の改正は,WIPO条約8条において「ベルヌ条約第11条(1)(ii),第11条の2(1)(i)及び(ii),第11条の3(1)(ii),第14条(1)(ii)並びに第14条の2(1)の規定の適用を妨げることなく,文学的及び美術的著作物の著作者は,その著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」とされたことを受けてなされたものである。

 そして,WIPO条約8条の上記「・・・著作者は,その著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くことを含む。)を許諾する排他的権利を享有する。」との規定と,上記(ア)の著作権法の概念整理の経過とを併せ見れば,次のようにいうことができる

a WIPO条約8条の規定には,・・・,「公衆によつて同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う」送信である放送及び有線放送のほか,インタラクティブ送信のような,個々の利用者の求め(アクセス)に応じて個別になされる有線又は無線の送信が含まれるものと解することができる。
 さらに,同条の規定においては,「有線又は無線の方法による公衆への伝達」に「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くこと」が含まれることが,かっこ書きで明示されている。
 すなわち,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態」に「著作物を置く」だけでは,当該著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達(送受信)の準備行為が完了したとはいえても,伝達(送受信)そのものがあったということは,本来,できないはずであるものの,同条かっこ書きは,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となる」ための,有線又は無線の方法による著作物の伝達(インタラクティブ送信)に関しては,公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することについて,伝達(送受信)そのものがあったと同様の著作者の排他権を及ぼすことを定めたものということができる。

b 上記(ア)の平成9年法律第86号による改正後の著作権法における各概念を上記WIPO条約8条の規定に照らしてみると,同改正後の著作権法が,・・・したのは,WIPO条約8条が,著作物についての「有線又は無線の方法による公衆への伝達」一般について著作者の排他権を及ぼすことを定めていることに対応するものであることが理解される
 また,それと同時に,同改正後の著作権法が,自動公衆送信装置に関する準備を完了し,直ちに自動公衆送信ができる状態とすることをもって「送信可能化」とした上で,著作者が専有する公衆送信を行う権利には送信可能化が含まれるものとし,自動公衆送信の準備を完了する行為である「送信可能化」についても著作者の排他権が及ぶこととしたのは,WIPO条約8条のかっこ書きが,インタラクティブ送信に関しては,公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することに著作者の排他権を及ぼすことを定めていることに対応するものと解することができる
 そうすると,平成9年法律第86号による改正後の著作権法2条1項各号,23条等の解釈に当たっては,WIPO条約8条の規定の内容を十分参酌すべきであることは明らかである


(エ) しかるところ,上記のとおり,WIPO条約8条かっこ書きは,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)の準備行為を完了することを,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物の使用が可能となるような状態に当該著作物を置くこと」と表現している。そうとすれば,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)そのものは,「公衆のそれぞれが選択する場所及び時期において著作物を使用すること」になるはずであるから,公衆への伝達(送受信)の結果として,公衆が当該著作物を使用することが必要であり,このことは,受信をした公衆の各構成員が当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることを意味するものと解することができる
そして,公衆への伝達(送受信)に係るこのような意味合いが,インタラクティブ送信に係る公衆への伝達(送受信)に限られるとする理由はなく,放送や有線放送に係る公衆への伝達(送受信)についても同様に解すべきであるから,結局,同条の「著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達」とは,公衆に向けられた有線又は無線の方法による送信を受信した公衆の各構成員(公衆の各構成員が受信する時期が同時であるか否かは問わない)が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることをいうものと解するのが相当であり,このように,受信した公衆の各構成員が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることは,放送,有線放送,インタラクティブ送信を通じた共通の性質であると理解することができる

 ところで,上記のとおり,平成9年法律第86号による改正後の著作権法2条1項各号,23条等の解釈に当たっては,WIPO条約8条の規定の内容を十分参酌すべきであるところ,同改正後の著作権法が,著作者はその著作物について公衆送信を行う権利を専有すると定めたことが,WIPO条約8条において,著作物についての「有線又は無線の方法による公衆への伝達」一般について著作者の排他権を及ぼすことと定められていることに対応するものであることも,上記のとおりである。

 そして,WIPO条約8条において,受信した公衆の各構成員が,当該著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることは,放送,有線放送,インタラクティブ送信を通じた「著作物について,有線又は無線の方法による公衆への伝達」に共通の性質とされており,他方,上記のとおり,著作権法上,「公衆によつて直接受信されることを目的」とすることが,放送,有線放送,自動公衆送信を通じた公衆送信に共通の性質として規定されているのであるから,著作権法2条1項7号の2の規定に係る「公衆によって直接受信されること」とは,公衆(不特定又は多数の者)に向けられた送信を受信した公衆の各構成員(公衆の各構成員が受信する時期が同時であるか否かは問わない)が,著作物を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態になることをいうものと解するのが相当である(・・・)。
・・・

ウ 控訴人らの主張するとおり,本件サービスにおいて,被控訴人は,①多数のベースステーションを被控訴人の事業所に設置した上で,②これら多数のベースステーションに電源を供給,起動して,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テレビアンテナで受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに供給するために,被控訴人が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線によってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションを接続し,④被控訴人が調達し,被控訴人において必要な設定を行ったルーター,LANケーブル及びハブを経由して,被控訴人の調達した接続回線によりこれら多数のベースステーションをインターネットに接続し,⑤以上のような状態を維持管理する行為を行っているものであり,これらの行為によって,テレビアンテナで受信した本件番組に係るアナログ放送波は,有線電気通信回線を経由して各ベースステーションに流入しているところ,上記アにおいて述べた「送信」及び「受信」の一般的意義を前提とすれば,本件番組に係るアナログ放送波をテレビアンテナから有線電気通信回線を介して各ベースステーションにまで送ることは,著作権法2条1項7号の2の「有線電気通信の送信」に該当し,各ベースステーションが上記アナログ放送波の流入を受けること自体は同号の「受信」に該当するというべきである。そして,上記「有線電気通信の送信」の主体が被控訴人であることは明らかである

 しかるところ,控訴人らは,原判決が採用するベースステーションにおいて受送信を行っている主体は各利用者であるとの論法を前提とするならば,本件サービスにおいて,被控訴人は,各利用者が利用する受信装置であるベースステーションまで本件放送を送信しているのであるから,本件サービスにおける被控訴人によるアンテナからベースステーションまでの間の送信行為は,「公衆に直接受信されることを目的と」するものであると主張する
 そして,上記2(原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2 事実認定」の(3))のとおり,平成19年7月29日現在の本件サービスの利用者は74名であり,被控訴人の事業所内に設置されているベースステーションの台数も74台であるところ,仮に各ベースステーションで上記アナログ放送波を受信する主体が各利用者であれば,上記人数に徴して,テレビアンテナから各ベースステーションへの上記アナログ放送波の送信は,特定多数の者(すなわち公衆)によって受信されることを目的とする有線電気通信の送信であるということができる。

 しかしながら,上記2(原判決「事実及び理由」欄の「第4 当裁判所の判断」の「2 事実認定」の(1),(3))のとおり,ベースステーションは,テレビチューナーを内蔵しており,対応する専用モニター又はパソコン等からの指令に応じて,テレビアンテナから入力されたアナログ放送波をデジタルデータ化して出力し,インターネット回線を通じて,当該専用モニター又はパソコン等にデジタル放送データを自動的に送信するものであり,各利用者は,専用モニター又はパソコン等から接続の指令をベースステーションに送り,この指令を受けてベースステーションが行ったデジタル放送データの送信を専用モニター又はパソコン等において受信することによって,はじめて視聴等により本件番組の内容を覚知し得る状態となるのである。
 すなわち,被控訴人がテレビアンテナから各ベースステーションに本件番組に係るアナログ放送波を送信し,各利用者がそれぞれのベースステーションにおいてこれを受信するだけでは,各利用者(公衆の各構成員)が本件番組を視聴等することによりその内容を覚知することができる状態にはならないのである。


 そうすると,被控訴人の上記送信行為が「公衆によって直接受信されること」を目的とするものであるということはできず,したがって,これをもって公衆送信(有線放送)ということはできないから,控訴人らの公衆送信行為の主張Bは失当であるといわざるを得ない。

公衆送信行為の判断事例A(アンテナから遠隔地の利用者まで)

2009-01-02 11:46:26 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10059
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官  石原直樹

4 争点3(本件サービスにおいて,被控訴人は本件著作物の公衆送信行為を行っているか)について
(1) 控訴人らは,本件サービスにおいて,被控訴人は,①多数のベースステーションを被控訴人の事業所に設置した上で,②これら多数のベースステーションに電源を供給,起動して,ポート番号の変更などの必要な各種設定を行い,③テレビアンテナで受信した本件番組をこれら多数のベースステーションに供給するために,被控訴人が調達したブースターや分配機を介した有線電気通信回線によってテレビアンテナとこれら多数のベースステーションを接続し,④被控訴人が調達し,被控訴人において必要な設定を行ったルーター,LANケーブル及びハブを経由して,被控訴人の調達した接続回線によりこれら多数のベースステーションをインターネットに接続し,⑤以上のような状態を維持管理する行為を行っており,被控訴人による上記①ないし⑤の行為により実現される本件番組のテレビアンテナから不特定多数の利用者までの送信全体は,公衆によって直接受信されることを目的としてなされる有線電気通信の送信として,公衆送信行為に該当すると主張し(以下「公衆送信行為の主張A」という。),
・・・

 著作権法23条1項は,「著作者は,その著作物について,公衆送信(自動公衆送信の場合にあっては,送信可能化を含む。)を行う権利を専有する。」と規定するところ,控訴人らの公衆送信行為の主張A,Bは,被控訴人の上記行為が,本件番組についての控訴人らの同項所定の権利(公衆送信権)を侵害するというものである。

・・・

 しかるところ,控訴人らの公衆送信行為の主張Aが,ベースステーションから利用者までの送信に着目して,「自動公衆送信」である公衆送信行為に当たるとするものであれば,上記3で説示したとおり,本件サービスにおいて個々のベースステーションは自動公衆送信装置に当たらず,また,本件サービスに係るシステム全体を一つの「装置」と見て自動公衆送信装置に当たるということもできないのであるから,本件サービスにおける各ベースステーションからの送信が「自動公衆送信」である公衆送信行為に該当せず,各ベースステーションについて「送信可能化」行為がなされているともいえないことは明らかであり,控訴人らの公衆送信行為の主張Aは,失当である。

イ 仮に,控訴人らの公衆送信行為の主張Aは,本件サービスにおいて放送番組を利用者に送信している主体が被控訴人であることを前提として,本件サービスを,被控訴人が,テレビアンテナで受信した本件番組を,ブースター,分配機,ベースステーション,ハブ等を経てインターネットにより,多数の利用者に対し送信するものと捉え,これが「有線放送」である公衆送信行為に当たると主張するものであるとしても,以下のとおり,控訴人らの公衆送信行為の主張Aは失当である。

 すなわち,「有線放送」とは「公衆送信のうち,公衆によって同一の内容の送信が同時に受信されることを目的として行う有線電気通信の送信」をいうものである(著作権法2条1項9号の2)。しかるところ,上記2(・・・)のとおり,本件サービスは,利用者をして希望する本件放送を視聴できるようにすることを目的とし,利用者は,任意にベースステーションとの接続を行った上,希望するチャンネルを選択して視聴する放送局を切り替えることができ,上記3の(1)のとおり,ベースステーションからの送信は,各利用者の指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してなされる(・・・)ものである。被控訴人において,個別に各利用者の専用モニター又はパソコンに対してデジタルデータを送信するかどうかを決定することがないことはもとより,各利用者によるその決定に関与することもない

 そうすると,被控訴人の事業所内にある各ベースステーションから対応する各利用者の専用モニター又はパソコンに対するデジタルデータの送信の有無は,完全に各利用者に依存しているものである。・・・

 したがって,控訴人らの公衆送信行為の主張Aは,その「公衆送信行為」が有線放送を意図するものであるとしても,失当であるといわざるを得ない。

送信可能化行為を行っているかどうかの判断事例

2008-12-31 20:34:39 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10059
事件名 著作権侵害差止等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官  石原直樹

3 争点2(本件サービスにおいて,被控訴人は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について
(1) 著作権法において,「送信可能化」とは,①・・・された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体として加え,若しくは情報が記録された記録媒体を当該自動公衆送信装置の公衆送信用記録媒体に変換し,又は当該自動公衆送信装置に情報を入力すること,②・・・されている自動公衆送信装置について,公衆の用に供されている電気通信回線への接続を行うことをいう(2条1項9号の5)。

 このように,「送信可能化」とは,自動公衆送信装置の使用を前提とするものであるところ,控訴人らは,本件サービスにおいて,ベースステーションが自動公衆送信装置に当たると主張する

 しかしながら,「自動公衆送信装置」とは,公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置をいうものであり(著作権法2条1項9号の5イ),「自動公衆送信」とは,「公衆送信」,すなわち,公衆によって直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信を行うことのうち,公衆からの求めに応じ自動的に行うものをいうのであるから(同項7号の2,9号の4),「自動公衆送信装置」は,「公衆送信」の意義に照らして,公衆(不特定又は特定多数の者。同条5項参照)によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置でなければならない

 しかるところ,上記2(・・・)のとおり,・・・ものである。すなわち,各ベースステーションが行い得る送信は,当該ベースステーションから特定単一の専用モニター又はパソコンに対するもののみであり,ベースステーションはいわば「1対1」の送信を行う機能しか有していないものである。

 そうすると,個々のベースステーションが,不特定又は特定多数の者によって直接受信され得る無線通信又は有線電気通信の送信を行う機能を有する装置であるということはできないから,これをもって自動公衆送信装置に当たるということはできない(・・・)。

(2) ・・・

(3) 控訴人らは,ベースステーションを含めた被控訴人のデータセンター内のシステム全体が,一つの特定の構想に基づいて機器が集められ,それらが有機的に結合されて構築された一つの「装置」となっているから,本件システムは,被控訴人事業所内のシステム全体が一つの自動公衆送信装置を構成しているものであり,被控訴人がこれを一体として管理・支配しているものであるところ,被控訴人が,本件システムを用いて行っている送信は,被控訴人に申込みを行い,ベースステーションを送付してくる不特定又は多数の者(利用者)に対して行われているものであるから,送信可能化行為に該当するとも主張する

 しかしながら,上記のとおり,本件サービスにおいて,利用者の専用モニター又はパソコンに対する送信は,各ベースステーションから,各利用者が発する指令により,当該利用者が設置している専用モニター又はパソコンに対してのみなされる(・・・)ものである。

 そうすると,本件システムにおいて,各ベースステーションへのアナログ放送波の流入に関わるテレビアンテナ,アンテナ線,分配機,ブースター等,また,各ベースステーションからのデジタル放送データをインターネット回線に接続することに関わるLANケーブル,ルーター等は,それぞれが本来は別個の機器であるとしても,その接続関係や役割に有機的な関連性があるということができ,これらを一体として一つの「装置」と考える契機がないとはいえない。
 しかしながら,本件サービスに係るデジタル放送データの送信の起点となるとともに,その送信の単一の宛先を指定し,かつ送信データを生成する機器であるベースステーションは,本件システム全体の中において,複数のベースステーション相互間に何ら有機的な関連性や結合関係はなく(・・・),かかる意味で,個々のベースステーションからの送信は独立して行われるものであるから,本来別個の機器である複数のベースステーションを一体として一つの「装置」と考える契機は全くないというべきである。

 したがって,控訴人らの上記主張は,複数のベースステーションを含めて一つの「装置」と理解する前提において失当というべきである。

・・・

共通点が抽象的なアイデアや創作性のないありふれた表現にある事例

2008-12-07 21:29:06 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10058
事件名 損害賠償等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

(2) 判断
 前記(1)のとおり,原告書籍の第1ないし第9の各部分と被告書籍1の第1ないし第7,第9の各部分,原告書籍の第1,第5,第8の各部分と被告書籍2の第1,第5,第8の各部分は,表現上の共通点はなく,また,共通点があったとしても,それらは抽象的なアイデアにおける共通点や創作性のないありふれた表現の共通点にとどまり,被告書籍各部分は,原告書籍各部分の複製又は翻案に該当しない

 したがって,その余の点について判断するまでもなく,被告Yが被告書籍1及び2を著作したこと,被告Yの許諾により被告講談社が被告書籍1を発行したこと,被告Yの許諾により被告テレビ朝日が被告書籍2を発行したことは,原告が原告書籍について有する複製権又は翻案権を侵害するものではないというべきである

アイデアに同一性が認められる事例

2008-11-04 06:52:50 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)25428
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年10月23日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

以上によれば,原告教材と被告教材又は被告教材試作品とは,いずれも,著作権法によって保護されない,表現それ自体でないアイデア又は表現上の創作性がない部分において同一性が認められるにすぎず,被告教材又は被告教材試作品を作成し,東京外大公式サイトに掲載する行為が,原告教材について原告らが有する翻案権及び同一性保持権を侵害するということはできない。

著作隣接権と著作権

2008-11-02 21:37:27 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)9613
事件名 実演家の権利侵害差止請求事件
裁判年月日 平成20年10月22日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

第3 当裁判所の判断
本件レコード1が,原告A,同C及び同Dらの演奏を固定したものであり,本件レコード2が,原告らの演奏を固定したものであること,並びに被告が,本件レコードを製造,販売していることは,いずれも当事者間に争いがない

したがって,原告らは,被告に対して,実演家の録音権(著作権法91条1項)及び譲渡権(同法95条の2第1項)を侵害するものとして,同法112条1項により,本件レコードの製造,販売の差止めを求めることができる

2 これに対して,被告は,原告らの差止請求は認められない旨主張するので,以下,被告の主張について検討する。

(1) 被告は,まず,単なる演奏家は,当該楽曲の著作権者の意向に反して,演奏契約上の顕著な違反又は人格権の侵害がない限り,著作隣接権の行使として,演奏を固定したレコードの製造の差止めを求めることはできず,原告らも,被告に対して,被告の意向に反して行使できる実演家の著作隣接権を有しないと主張する

しかしながら,著作隣接権と著作権とは別個独立の権利であり,レコードに固定された演奏についての実演家の著作隣接権の行使が,当該レコードの楽曲についての著作権により制約を受けることはないのであるから,実演家は,当該楽曲の著作権者等から演奏の依頼を受けて演奏をした場合であっても,当該楽曲の著作権等に対して,当該演奏が固定されたレコードの製造,販売等の差止めを求めることができることは明らかであり,被告の上記主張は失当である。

旧著作権法における映画の著作者及び著作名義の解釈

2008-08-05 07:37:21 | 著作権法
事件番号 平成19(ネ)10082
事件名 著作権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日 平成20年07月30日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中信義

1 映画の著作物の保護期間に関する我が国の法令の概要
(1) 旧著作権法は,映画の著作物の保護期間を,独創性の有無(22条の3後段)及び著作名義の実名(3条),無名・変名(5条),団体(6条)の別によって別異に取り扱っていたところ,独創性を有することにつき争いがない本件映画の保護期間については,本件映画の著作名義が監督等の自然人であるとされた場合にはその生存期間及びその死後38年間(3条,52条1項)とされるのに対し,映画製作者の団体名義であるとされた場合には,本件映画の公表(発行又は興行)後33年間(6条,52条2項)とされることになる。

(2) 旧著作権法は,昭和46年1月1日施行の新著作権法により全部改正された。新著作権法は,映画の著作物及び団体名義の著作物の保護期間を,原則として,公表後50年を経過するまでの間と規定する(54条1項)とともに,その附則2条1項において,「改正後の著作権法(以下「新法」という。)中著作権に関する規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法・・・による著作権の全部が消滅している著作物については,適用しない」旨の,また,附則7条において,「この法律の施行前に公表された著作物の著作権の存続期間については,当該著作物の旧法による著作権の存続期間が新法第2章第4節の規定による期間より長いときは,なお従前の例による。」と定めた。
・・・

(3) 平成15年改正法が平成15年6月18日に成立し,平成16年1月1日から施行された。これにより,映画の著作物の保護期間は,原則として公表後70年を経過するまでの間と延長される(上記改正後の54条1項)とともに同改正法附則2条は「改正後の著作権法・・・第54条第1項の規定は,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が存する映画の著作物について適用し,この法律の施行の際現に改正前の著作権法による著作権が消滅している映画の著作物については従前の例による。」と定めた。

(4) 本件映画の著作者及び著作名義が映画監督,すなわち黒澤監督であるとした場合には,その生存期間及びその死後38年間,すなわち,当事者間に争いのない黒澤監督が死亡した平成10年の翌年から起算して38年後の平成48年までの間となる(・・・)。
これに対し,上記映画につき,映画製作会社の著作名義であるとした場合には,団体名義の著作物として公表後33年間,すなわち昭和58年までの間となるが,附則2条1項により新法を適用し,公表後50年の保護期間とした場合は,本件映画が公表された昭和25年の翌年である同26年から起算して50年経過後の平成12年となるところ,附則7条により,保護期間の長い平成12年までの間となる。


(5) したがって,本件における法解釈上の主要な争点は,旧著作権法の解釈として,本件映画の著作者及び著作名義をどのように考えるべきかである


2 本件映画の著作者について
(1) 旧著作権法における著作者の意義
ア 新著作権法は,著作物を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(2条1項1号)と定義するが,旧著作権法は,「・・・」(1条1項)と規定するものの,著作物とは何かを示す定義規定を設けていない。

しかしながら,旧著作権法下においても,著作物とは,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現たることを要す」(大審院昭和12年11月20日判決・法律新聞4204号3頁参照),「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白であって,客観的存在を有し,しかも文芸,学術,美術の範囲に属するもの」(東京地裁昭和40年8月31日・下民集16巻8号1377頁参照)などと解されており,これらは,実質的に見れば,新著作権法における著作物の定義と同義であり,また,新著作権法の立法過程において,旧著作権法に比し著作物の意義が変更されたことを窺わせるに足りる事情もないことからすれば,旧著作権法の保護対象とされる著作物は,新著作権法のそれと同義であると解するのが相当である

 そして,著作者が著作物を創作する者であることは,新・旧著作権法において変わりがないものと解され,前記の裁判例にみられるように,「著作者の精神的所産たる思想内容の独創的表現」,「精神的労作の所産である思想または感情の独創的表白」という事実行為としての創作行為を行うことができるのは自然人であることからすれば,旧著作権法において著作者となり得るのは原則として自然人であると解すべきである

イ もっとも,新著作権法は,法人等における著作物の創作の実態等から,一定の要件の下に法人等の被用者が職務上作成する著作物についてその著作者を当該法人等とする職務著作の規定(15条)を設け,前記原則の例外を規定している。
すなわち,・・・こと等の法人等における著作物の創作の実態や当該著作物の利用の便宜の必要性等を考慮し,新著作権法は,一定の要件の下に法人等が著作者となることを認めている。

新著作権法15条は,同法の施行前に創作された著作物には適用されない(新著作権法附則4条)が,旧著作権法6条は,「・・・」と規定するところ,同条は,後記のとおり団体著作物の保護期間を定めた規定であると解されるが,更に法人等の団体が著作者となり得ることを前提とした規定であると解する余地もないわけではなく,新著作権法における職務著作の規定の実質的な根拠とされた上記の法人等における著作物の創作実態及び利用上の便宜の必要性等の事情は,旧著作権法の下においても程度の差こそあれ存在していたものと推認することができることからすれば,旧著作権法においても,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備える場合には法人等が著作者となり得る場合があるものと解するのが相当である(東京高裁昭和57年4月22日判決・無体裁集14巻1号193頁参照)。

(2) 旧著作権法における映画の著作物の著作者
 本件映画のような劇場用映画は,概ね,映画製作会社の委託を受け,・・・など多くの者の協同作業により製作されるものと認められ(・・・),映画の著作物の創作行為については多数の者が関与していることから,新著作権法は,著作者となるべき者を明確にするため,16条において「映画の著作物の著作者は,その映画の著作物において翻案され,又は複製された小説,脚本,音楽その他の著作物の著作者を除き,制作,監督,演出,撮影,美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。」と規定したが,同条は新著作権法の施行前に創作された著作物には適用されず(新著作権法附則4条),また,旧著作権法は,その22条の3前段において映画の著作物について,「活動写真術又ハ之ト類似ノ方法ニ依リ製作シタル著作物ノ著作者ハ文芸,学術又ハ美術ノ範囲ニ属スル著作物ノ著作者トシテ本法ノ保護ヲ享有ス」と規定するのみで,映画の著作物の著作者を定めた規定は存在しない。

 しかしながら,前記(1)で説示したとおり,著作者となり得る者は原則として自然人であり,これを前提として上記の劇場用映画の製作実態を踏まえて旧著作権法の下における映画の著作物の著作者となるべき者を検討するならば,少なくとも制作,監督,演出,撮影,美術等を担当して映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者は,当該映画の著作物の著作者であると解するのが相当であり,新著作権法附則4条の規定もこのような解釈を妨げる趣旨のものではないというべきである

(3) 本件映画の著作者
 そして,黒澤監督は本件映画の監督を務め,脚本の作成にも参加するなどしており,本件映画は黒澤監督の一貫したイメージに沿って製作されたものであると認められる(甲第1,2号証,第11号証,乙第22~24号証)から,黒澤監督は本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者であり,著作者の一人であると認められる。

(4) 当審における控訴人の主張に対する判断
 控訴人は,映画製作の実態及び新著作権法の立法過程からすれば,旧著作権法の下においては,映画は映画会社などの映画製作者の単独著作物であると解釈すべきであると主張するが,以下の理由から,控訴人の主張を採用することはできない。

ア 前記(1)で説示したとおり,映画の著作物の著作者は,原則として,事実行為としての映画の創作を行う者と解すべきであり,映画製作の実態を見ても,そのような創作行為を現実に行う者は,監督,演出,出演,撮影,美術等を担当する自然人であって,映画会社等の映画製作者ではないから,新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を備える場合でない限り,映画製作の実態から映画が映画製作者の単独著作物であると解釈すべき理由はない。

 そして,本件映画は旧大映が製作したものであるところ,黒澤監督又はそれ以外の者で本件映画の全体的形成に創作的に寄与した者が旧大映の被用者として,その職務上本件映画を作成したことなど旧大映が本件映画の著作者となるための新著作権法15条1項所定の要件と同様の要件を具備するとの点については,控訴人の主張立証がない

 したがって,映画製作の実態からみて,本件映画を映画製作者である旧大映の単独著作物であると認めることはできない。
・・・

裁判傍聴記の著作物性

2008-07-20 11:04:26 | 著作権法
事件番号 平成20(ネ)10009
事件名 発信者情報開示等請求控訴事件
裁判年月日 平成20年07月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 著作権
裁判長裁判官 飯村敏明

第3 当裁判所の判断
1 争点1(原告傍聴記の著作権法2条1項1号の著作物性の有無等)について

 著作権法による保護の対象となる著作物は,「思想又は感情を創作的に表現したもの」であることが必要である(著作権法2条1項1号)。
 以下では,本件に即して言語により表現されたものの著作物性の有無について述べる

 著作権法2条1項1号所定の「創作的に表現したもの」というためには,当該記述が,厳密な意味で独創性が発揮されていることは必要でないが,記述者の何らかの個性が表現されていることが必要である
 言語表現による記述等の場合,ごく短いものであったり,表現形式に制約があるため,他の表現が想定できない場合や,表現が平凡かつありふれたものである場合は,記述者の個性が現われていないものとして,「創作的に表現したもの」であると解することはできない。

 また,同条所定の「思想又は感情を表現した」というためには,対象として記述者の「思想又は感情」が表現されることが必要である。言語表現による記述等における表現の内容が,専ら「事実」(この場合における「事実」とは,特定の状況,態様ないし存否等を指すものであって,例えば「誰がいつどこでどのようなことを行った」,「ある物が存在する」,「ある物の態様がどのようなものである」ということを指す。)を,格別の評価,意見を入れることなく,そのまま叙述する場合は,記述者の「思想又は感情」を表現したことにならないというべきである(著作権法10条2項参照)。

 以上を前提に,原告傍聴記の著作物性の有無について検討する。
・・・

(2) 判断
ア 原告傍聴記における証言内容を記述した部分(・・・)は,証人が実際に証言した内容を原告が聴取したとおり記述したか,又は仮に要約したものであったとしてもごくありふれた方法で要約したものであるから,原告の個性が表れている部分はなく,創作性を認めることはできない。

イ 原告傍聴記には,冒頭部分において,証言内容を分かりやすくするために,大項目(・・・)及び中項目(・・・)等の短い表記を付加している。しかし,このような付加的表記は,大項目については,証言内容のまとめとして,ごくありふれた方法でされたものであって,格別な工夫が凝らされているとはいえず,また,中項目については,いずれも極めて短く,表現方法に選択の余地が乏しいといえるから,原告の個性が発揮されている表現部分はなく,創作性を認めることはできない

ウ この点について,原告は,原告傍聴記は本件ノートに基づいて作成したものであり,本件ノートと対比すればその「分類」と「構成」に創意工夫がされているから,原告傍聴記に創作性が認められるべきであると主張する。
 そして,具体的には,
① 原告傍聴記2の証人の経歴に関する部分は,主尋問と反対尋問から抽出していること,
② 原告傍聴記1の「○クラサワコミュニケーションズとの株式交換も計上していることを口頭で説明した」,「■堀江被告は何も言わなかったが,分からないときは質問するので,説明を理解していたと思う」の記述及び原告傍聴記2の「○大学卒業後,未来証券に新卒入社」,「■個人投資家からの株式売買受託やベンチャー企業の資金調達に携わる」,「■1年半弱で退社」の記述は,実際に証言された順序ではなく,時系列にしたがって順序を入れ替えたこと,
③ 原告傍聴記2において固有名詞を省略したこと等を創意工夫として例示する。

 しかし,原告の主張する創意工夫については,経歴部分の表現は事実の伝達にすぎず,表現の選択の幅が狭いので創作性が認められないのは前記のとおりであるし,実際の証言の順序を入れ替えたり,固有名詞を省略したことが,原告の個性の発揮と評価できるほどの選択又は配列上の工夫ということはできない。原告の主張は採用できない。

著作権法で保護の対象になる美術性

2008-07-14 06:36:49 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)19275
事件名 損害賠償等請求事件
裁判年月日 平成20年07月04日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官阿部正幸

著作権法2条1項1号は,同法により保護される著作物について,「思想又は感情を創作的に表現したものであって,文芸,学術,美術又は音楽の範囲に属するもの」と規定し,同条2項は,「この法律にいう美術の著作物には,美術工芸品を含むものとする。」と規定している。これらの規定は,意匠法等の産業財産権制度との関係から,著作権法により著作物として保護されるのは,純粋美術の領域に属するものや美術工芸品であり,実用に供され,あるいは産業上利用されることが予定されているものは,それが純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を備えている場合に限り,著作権法による保護の対象になるという趣旨であると解するのが相当である。

原告商品は,小物入れにプードルのぬいぐるみを組み合わせたもので,小物入れの機能を備えた実用品であることは明らかである。そして,原告が主張する,ペットとしてのかわいらしさや癒し等の点は,プードルのぬいぐるみ自体から当然に生じる感情というべきであり,原告商品において表現されているプードルの顔の表情や手足の格好等の点に,純粋美術や美術工芸品と同視することができるような美術性を認めることは困難である。

職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨

2008-06-29 17:27:43 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)33577
事件名 販売差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月25日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 清水節

『(2) 我が国の著作権法が職務著作の規定(著作権法15条1項)を設けた趣旨は,著作権法自体が,登録主義を採用する特許法等と異なり,創作主義を採用しているため,著作物を利用しようとする第三者にとって,法人等の内部における権利の発生及び帰属主体が判然としないこと,法人等の内部における著作活動にインセンティブを与えるために,資金を投下する法人等の使用者を保護する必要があること,従業者としても,法人等の使用者名義で公表される著作物に関してはその権利を法人等の使用者に帰属させる意思を有しているのが通常であり,その著作物に関する社会的評価も公表名義人である法人等の使用者に向けられるという実態が存することなどから,著作権及び著作者人格権のいずれについても,個別の創作者による権利行使を制限し,その権利の所在を法人等の使用者に一元化することによって,著作物の円滑な利用・流通の促進を図ったものであると理解すべきである

 そして,職務著作が成立するためには,当該著作物が,
①法人等の使用者の「発意に基づき」,
②「その法人等の業務に従事する者」により,
③「職務上作成」されたものであって,
④「その法人等が自己の著作の名義の下に公表するもの」であること

が必要とされる(著作権法15条1項。以下,各要件を「要件①」,「要件②」等と表記する。)ところ,上記のような規定の趣旨に照らせば,要件①の「発意」については,法人等の使用者の自発的意思に基づき,従業員に対して個別具体的な命令がされたような場合のみならず,当該雇用関係等から外形的に観察して,法人等の使用者の包括的,間接的な意図の下に創作が行われたと評価できる場合も含まれるものと解すべきである。

 また,要件③の「職務」についても,同様の観点から,法人等の使用者により個別具体的に命令された内容だけを指すのではなく,当該職務の内容として従業者に対して期待されているものも含まれ,その「職務上」に該当するか否かについては,当該従業者の地位や業務の種類・内容,作成された著作物の種類・内容等の事情を総合考慮して,外形的に判断されるものと解すべきである。

(3) 上記(1)の認定事実及び上記前提となる事実等によれば,原告教本については,次のとおり,職務著作の各成立要件をいずれも充足するものというべきである。

ア 要件①(原告の発意)
 原告教本は,原告の前身である京西テクノスの時代から原告設立後に至るまで,そのエンジニア教育・育成サービスの事業のうちの教育事業のため,京西テクノスないし原告の従業員である講義担当講師らが,その講義の補助教材として作成したものが基本となっているのであるから,少なくとも,使用者である原告の包括的,間接的な意図の下で創作が行われたと評価することができ,①原告の「発意に基づき」作成されたものというべきである。

イ 要件②(原告の業務に従事する者)
 原告教本を作成したのは,当時原告の従業員であったAらであるから,要件②の原告の「業務に従事する者」を充足している。

ウ 要件③(原告の職務上作成されたもの)
 原告の従業員である講義担当講師らは,原告の業務としてエンジニア教育・育成のための講義において用いることを目的として,原告教本の基本となる講義資料を作成したものであり,前記⑴エで認定したその内容も考慮すれば,同講義資料は,上記従業員らが講義において行う説明と一体となるものであり,講義の内容と離れて上記従業員らの興味,関心に従って作成されたものではないと認められる。また,当該講義の内容自体,上記目的に照らして,上記従業員らの興味,関心に従って行われるものではないと認められることから,例えば,大学教授が,大学での研究の過程で講義案や教科書を執筆し,それを講義で用いるような場合とは異なり,上記従業員らによる当該講義資料の作成は,上記従業員らの行う職務の範囲に含まれると認められる
 したがって,このような講義資料をとりまとめて作成された原告教本は,③原告の「職務上作成されたもの」ということができる。

エ 要件④(原告の著作の名義の下での公表)
原告教本は,その表紙において,原告を表す「KYOSAI」という表示が付されていることから,要件④の原告が「自己の著作の名義の下に公表するもの」を充足している。
⑷ したがって,本件においては,原告教本について職務著作が成立し,その著作権及び著作者人格権が原告に帰属するものと認められる。』




ロケーションフリーサービスの送信可能化行為の主体

2008-06-29 11:06:55 | 著作権法
事件番号 平成19(ワ)5765
事件名 著作権侵害差止等請求事件
裁判年月日 平成20年06月20日
裁判所名 東京地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 阿部正幸

『第4 当裁判所の判断
・・・
3 争点2(本件サービスにおいて,被告は本件放送の送信可能化行為を行っているか)について
(1)自動公衆送信装置
「送信可能化」とは,著作権法2条1項9号の5に規定されるとおり,同号のイ又はロに該当する行為により自動公衆送信し得るようにすることをいう

 上記イ及びロは共に「自動公衆送信装置」の存在を前提とする行為であり,「自動公衆送信装置」とは,「公衆の用に供する電気通信回線に接続することにより,その記録媒体のうち自動公衆送信の用に供する部分(以下この号において「公衆送信用記録媒体」という。)に記録され,又は当該装置に入力される情報を自動公衆送信する機能を有する装置」をいう(著作権法2条1項9号の5イ)。

 上記のとおり,自動公衆送信装置は,自動公衆送信する機能を有する装置であり,「自動公衆送信」とは,「公衆送信(公衆によつて直接受信されることを目的として無線通信又は有線電気通信の送信(電気通信設備で,その一の部分の設置の場所が他の部分の設置の場所と同一の構内(その構内が二以上の者の占有に属している場合には,同一の者の占有に属する区域内)にあるものによる送信(・・・中略・・・)を除く。)を行うこと」(同項7号の2)のうち,「公衆からの求めに応じ自動的に行うもの(放送又は有線放送に該当するものを除く。)をいう」(同項9号の4)。

 そして,同法2条5項が「公衆」には,「特定かつ多数の者を含むものとする。」と定めていることから,送信を行う者にとって,当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者であれば,「公衆」に対する送信に該当するものと解される

(2)本件サービスにおける送受信行為の主体
・・・
エ本件サービスにおける被告の役割
(ア)本件サービスにおいて,被告が行っていることは,
①ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションが稼働可能な状態に設定作業を施すこと,
②ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,放送を受信することができるようにすること
である


(イ)①の点について
 本件サービスを利用しなくても,利用者が,実際にテレビ視聴を行う場所(外出先や海外等)以外の場所(自宅等)に必要なアンテナ端子及びインターネット回線を準備してベースステーションを設置すれば,ベースステーションのNetAV機能を利用して,外出先や海外等においてテレビの視聴をすることが可能である。

 ベースステーションの取付け及び設定作業については,利用者自らが行うこともできるし,メーカーであるソニーの提供する設定サービス等を利用することもできる。アンテナ端子及びインターネット回線を準備し,ベースステーションとアンテナ端子及びインターネット回線とを接続してベースステーションを稼働可能な状態にすること自体は,本件サービスを利用しなくても,技術的に格別の困難を伴うことなく行うことができる

(ウ)②の点について
 前記のとおり,本件サービスにおいて,利用者は,自らが購入し,被告の事業所に設置保管されているベースステーションを所有しているものといえ,被告は,所有者である利用者からベースステーションの寄託を受けて,これを被告の事業所内に設置保管しているにすぎないといえる
 そして,本件サービスにおいて,利用者は,被告に対し,ベースステーションを稼働可能な状態で被告事業所内に設置保管することを求め,被告は,ベースステーションが稼働可能な状態において,これを被告の事業所内に設置保管する必要があるものの,このような義務を伴うからといって,被告によるベースステーションの設置保管が寄託の性質を失うものではない
 寄託の性質を有すると解される,いわゆるハウジングサービスにおいても,ハウジングサービス業者は,利用者からサーバを預かり,利用者のパソコン等とインターネット回線との接続によりデータの送受信をすることができるようにすることがあるのであるから(弁論の全趣旨),被告がベースステーションの設置,保管に伴い,ベースステーションとアンテナ端子やインターネット回線との接続を提供しているからといって,本件サービスが,いわゆるハウジングサービスとは,その性質を異にするものであるとはいえない(いわゆるハウジングサービス一般が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

 利用者は,本件サービスを利用しなくても,ベースステーションを東京都内のテレビ放送波の受信状態が良好である場所に設置すれば,外出先や海外等において本件放送を視聴することができるのであり,このようにすること自体は,技術的に何ら困難を伴うものではない

(エ)本件サービスは,メーカーの提供する設定サービス等と比べ,ベースステーションを被告の事業所に設置保管して,ブースター及び分配機を経由してアンテナ端子からベースステーションに放送波が流入するようにし,かつ利用者がプロバイダーと契約しなくてもベースステーションからインターネット回線への接続が行われるようにする点において相違するものの,それ以外は,利用者が上記設定サービス等を利用してロケーションフリーのNetAV機能を使用するのと異ならず,本件サービスを利用しなければ,本件放送を視聴することができないというものではない(メーカーの提供する設定サービス等が著作権法に違反するとの主張,立証はない。)。

オ 上記アないしエで述べたベースステーションの機能,その所有者が各利用者であること,本件サービスを構成するその余の機器類は汎用品であり,特別なソフトウェアは一切使用されていないことなどの各事情を総合考慮するならば,本件サービスにおいては,各利用者が,自身の所有するベースステーションにおいて本件放送を受信し,これを自身の所有するベースステーション内でデジタルデータ化した上で,自身の専用モニター又はパソコンに向けて送信し,自身の専用モニター又はパソコンでデジタルデータを受信して,本件放送を視聴しているものというのが相当である

 要するに,本件サービスにおいて,本件放送をベースステーションにおいて受信し,ベースステーションから各利用者の専用モニター又はパソコンに向けて送信している主体は,各利用者であるというべきであって,被告であるとは認められない。

(3) 自動公衆送信装置該当性
ア 前記のとおり,自動公衆送信装置に該当するためには,それが(自動)公衆送信する機能,すなわち,送信者にとって当該送信行為の相手方(直接受信者)が不特定又は特定多数の者に対する送信をする機能を有する装置であることが必要である。

 前記のとおり,本件サービスにおいて,ベースステーションによる送信行為は各利用者によってされるものであり,ベースステーションから送信されたデジタルデータの受信行為も各利用者によってされるものである。

 したがって,ベースステーションは,各利用者から当該利用者自身に対し送信をする機能,すなわち,「1対1」の送信をする機能を有するにすぎず,不特定又は特定多数の者に対し送信をする機能を有するものではないから,本件サービスにおいて,各ベースステーションは「自動公衆送信装置」には該当しない

イ 原告らは,被告が本件サービスに供している多数のベースステーション,分配機,ケーブル,ハブ,ルーター等の各機器は,有機的に結合されて一つのサーバと同様の機能を果たすシステムを構築しているものであり,一つのアンテナ端子からの放送波を,このようなシステムに入力して多数の利用者に対して送信し得る状態にしているから,上記システムを全体としてみれば,一つの自動公衆送信装置として評価されるべきものである旨主張する

しかしながら,上記(2)のとおり,各ベースステーションによって行われている送信は,個別の利用者の求めに応じて,当該利用者の所有するベースステーションから利用者があらかじめ指定したアドレスあてにされているものであり,個々のベースステーションからの送信はそれぞれ独立して行われるものであるから,本件サービスに関係する機器を一体としてみたとしても,不特定又は特定多数の者に対する送信を行っているということはできないというべきである。
したがって,上記システム全体を「自動公衆送信装置」に該当するということはできない。
・・・

ウ 以上のとおりであるから,本件において,ベースステーションないしこれを含む一連の機器全体が「自動公衆送信装置」に該当するということはできず,ベースステーションから行われる送信も「公衆送信」に該当するものということはできない。

エ したがって,被告がインターネット回線に接続されたベースステーションとアンテナ端子を接続したり,アンテナ端子と接続されたベースステーションをインターネット回線に接続したりしても,その行為が著作権法2条1項9号の5イ又はロに規定された送信可能化行為に該当しないことは明らかであり,本件サービスにおける被告の行為は,原告らの有する送信可能化権(著作権法99条の2)を侵害するものではない。』

現行用紙の著者表示に法14条の推定を認めた事例

2008-06-21 08:13:06 | 著作権法
事件番号 平成18(ワ)3174
事件名 著作権持分確認請求事件
裁判年月日 平成20年06月19日
裁判所名 大阪地方裁判所
権利種別 著作権
訴訟類型 民事訴訟
裁判長裁判官 田中俊次

『3 著作権法14条の適用の有無について
著作権法14条は,「著作物の原作品に,又は著作物の公衆への提供若しくは提示の際に,その氏名若しくは名称(以下「実名」という。)又はその雅号,筆名,略称その他実名に代えて用いられるもの(以下「変名」という。)として周知のものが著作者名として通常の方法により表示されている者は,その著作物の著作者と推定する。」と定める。本件質問項目が掲載されている現行用紙には「著者」として,P3及びP4と並んでP1の氏名が表示されているところ,被告らは,この表示はあくまでYG性格検査用紙についての著作者の表示であって,YG性格検査についての著作者の表示ではないと主張する。
しかし,現行用紙は,本件において著作権(持分権)の帰属が問題となっている著作物である本件質問項目を掲載したものであるから,本件質問項目は,現行用紙がYG性格検査の被験者等の公衆に対して提供又は提示される際に,これに伴い公衆に対して提供又は提示されるものである。したがって,現行用紙に「著者」として表示されている者は,現行用紙自体の「公衆への提供若しくは提示の際に」その実名が「著作者名として通常の方法により表示されている者」であると同時に,著作物である本件質問項目の「公衆への提供若しくは提示の際に」その実名が「著作者名として通常の方法により表示されている者」ということができる。よって,現行用紙に「著者」としてP1の氏名が表示されている以上,P1は本件質問項目の著作者と推定される(著作権法14条)』