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知財判決 徒然日誌

論理構成がわかりやすく踏み込んだ判決が続く知財高裁の判決を中心に、感想などをつづった備忘録。

新規事項の追加を認定した事例

2011-07-31 23:52:25 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10373
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年07月21日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

2 取消事由1(法17条の2第3項に関する判断の誤り)について
(1) 「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」の技術的意義について
ア 特許請求の範囲の記載
 本願発明の特許請求の範囲には,デジタル商品カタログを受信した受信者が,デジタル商品カタログの受信データをデジタル画像として自己が所有する画像システムのモニタに表示した上で「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」,その画像中の送信に伴い色変わりしている基準色画像部分の色調を,情報の受信者が自己が所有する基準色画像の色調に合致した色調に色補正することによって,この補正と同一条件でかつ同時にモニタ表示画像の基準色画像部分以外の他の部分の色調も補正することが記載されている。

 このことから,特許請求の範囲の文言上は,商品カタログの基準色画像部分以外の他の部分が基準色画像部分と同一条件でかつ同時に色補正されるように,商品カタログの受信者が基準色画像の色補正を「自己のシステムにおける選択機能」を機能させずに行うことは特定されているものの,この「自己のシステムにおける選択機能」の意義は明らかでない

イ 発明の詳細な説明の記載
 ・・・
ウ 「自己のシステムにおける選択機能」の意義
 ・・・
エ 「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」の意義
 また,「機能させずに」は,文字どおり,上記のような「自己のシステムにおける選択機能」を機能させないことを示している。
 そうすると,基準色画像を「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」色補正するとは,受信者所有のパソコンのような「自己のシステム」に含まれた「選択機能」である「選択ツール」により編集操作の対象として画像の一部又は全部を選択する機能を機能させないで色補正をすることを意味するものである。すなわち,選択機能を機能させて色補正するものと,上記選択機能を機能させずに色補正するもののうちの,後者を特定して記載したものである。

オ 原告らの主張について
 原告らは,本件追加事項にいう「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」における「選択機能を機能(させる)」とは,画像の一部の処理の場合のみを意味し,画像全体の処理の場合を含んでいないと主張する
しかしながら,発明の詳細な説明を参酌しても,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」との文言が,上記②の「画像の全部」を選択する機能と区別された,上記①の「画像の一部」を選択する機能を機能させないことを表現したものであると解することはできない。
 ・・・
 よって,「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」(【0024】)につき,本件ユーザーガイド(甲8の2)においても「画像の一部」を選択する機能と「画像の全部」を選択する機能とを技術的に区別することができないから,その区別を前提に,画像の一部を選択する機能を選択しないことが本件追加事項であるかのようにいう原告らの主張は採用できない

(2) 本件補正の適否
 ア 新規事項か否かについて
 本件補正の適否については,本願当初明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,本件追加事項の追加が,新たな技術的事項を導入しないものであるか否かを判断することによって,適法な補正か否かを判断すべきである。
 イ 本願当初明細書の記載
 本願明細書(【0024】)の記載内容は,審査審判段階を通じて補正されていないから,本願当初明細書等の記載においても,「公知のコンピューター画像処理手法」を用いた「色補正処理」においては,「画像の一部」を選択する機能を「画像の全部」を選択する機能から区別することができず,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」に対応する技術的事項が記載されていない。そして,本願当初明細書等の他の箇所を併せて検討しても,これを含むように一般化された技術的事項を導くことはできない。

 そうすると,「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項は,本願当初明細書等に明示的に記載されていない。のみならず,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項ということもできない。
 したがって,本件追加事項(「自己のシステムにおける選択機能を機能させずに」という事項)は,本願当初明細書等に記載された全ての事項を総合することにより導かれる技術的事項とはいえず,本件補正は,法17条の2第3項に違反するものといわざるを得ない。

(筆者メモ) 原告が「自己のシステムにおける選択機能」は通常画像補正装置に備わる周知の(一部・全部にこだわらない)選択機能を指し、「選択機能を機能させずに」とはその選択機能とは関係なく(すわなち必然的に画像全体の補整処理を行う)ということであると主張したらどのように判断したのだろうか。

法17条の2第4項4号の解釈-「明瞭でない記載」とは、拒絶理由に示す事項に限る意義

2011-05-29 11:03:20 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10325
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成23年05月23日
裁判所名 知的財産高等裁判所  
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(1) 補正事項1は法17条の2第4項各号に該当するか
ア 法17条の2第4項4号につき
(ア) 法17条の2第4項4号は,「明りょうでない記載の釈明(拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る。)」と規定している。
 ここで「明りょうでない記載」とは,それ自体意味の明らかでない記載など,記載上不備が生じている記載であって,特に特許請求の範囲について「明りょうでない記載」とは,請求項の記載そのものが文理上意味が不明りょうである場合,請求項自体の記載内容が他の記載との関係において不合理を生じている場合,又は請求項自体の記載は明りょうであるが請求項に記載した発明が技術的に正確に特定されず不明りょうである場合等をいい,その「釈明」とは,記載の不明りょうさを正してその記載本来の意味内容を明らかにすることをいうものと解される。

 ところで,補正事項1は,前記のとおり,本願に係る発明のうち,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載を削除するものである。したがって,補正事項1が「明りょうでない記載の釈明」に該当するためには,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載が上記明りょうでない記載と認められ,それを削除することによってその記載の本来の意味内容が明らかになるものであることを要する

 しかし,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」の記載のうち,「僅かに」の部分を除く・・・記載は,生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度と混練温度との高低の関係をいうものであることが明白であるから,その記載自体の意味は明りょうであって,当該記載を除くことが,特許請求の範囲について明りょうでない記載をその記載本来の意味内容を明らかにするものであるとはいえず,むしろ,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」全体を削除すると,生分解性天然樹脂(A)と生分解性合成樹脂(B)との「混練」に関し,補正前発明と本件補正後の発明とではその実質に相違が生ずる可能性があると認められる。
 したがって,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」との記載全体を削除することを内容とする補正事項1は,そもそも「明りょうでない記載の釈明」を目的としたものと認めることはできない

(イ) 法17条の2第4項4号括弧書き該当性
 法17条の2第4項4号に該当するためには,補正事項が「拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限る」(同項4号括弧書き)ところ,同括弧書きの意義は,拒絶理由通知で指摘していなかった事項について「明りょうでない記載の釈明」を名目に補正がされることによって,既に審査・審理した部分が補正されて,新たな拒絶理由が生じることを防止するために,「明りょうでない記載の釈明」は最後の拒絶理由通知で指摘された拒絶の理由に示す事項についてするものに限定されるという趣旨と解される。
 前記3の本件出願の手続の経緯のとおり,
 最後の拒絶理由通知(甲2の4)においては,まず,
 [理由1]において,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」混練する旨は当初明細書等(甲1)に明示的に記載されていないし,自明でもないと指摘して,法17条の2第3項に規定する要件を満たしていないとし,さらに,
 [理由3]において,「(2) 請求項1における『僅かに』なる記載は多義的に解され不明瞭である」として,「僅かに」という記載に限って法36条6項2号に規定する要件を満たしてない旨指摘していることが認められる。

 以上によれば,最後の拒絶理由通知において明りょうでないと指摘された記載は,文中の「僅かに」という記載のみであることは明らかであるから,「前記生分解性天然樹脂(A)の熱分解温度よりも僅かに低い混練温度で」という記載全体を削除する本件補正は,審査官が「拒絶の理由に示す事項」の範囲を超え,むしろ[理由1]で指摘された新規事項の追加についての拒絶理由を回避するためになされたものと認めるのが相当である。

 したがって,補正事項1は,法17条の2第4項4号括弧書きの「拒絶の理由を示す事項についてするもの」に該当しないというべきである

新規事項の追加であるとされた事例

2011-01-10 21:20:57 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10110
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟

1 取消事由1(本件補正の適否に係る判断の誤り)について
 本件補正は,本願発明の特許請求の範囲(請求項1)について,
「該材料のペアによって,前記トラクションシーブの表面の被覆材が失われた後に,前記巻上ロープは前記トラクションシーブに食い込むことを特徴とするエレベータ」を
「該材料のペアは,前記トラクションシーブの表面の被覆材が失われた場合,該トラクションシーブが前記巻上ロープによって少なくとも部分的に破損して該巻上ロープを把持する材料の組み合わせであることを特徴とするエレベータ。」
とするものである。
 そこで,本件補正における付加変更された部分が,旧特許法17条の2第3項所定の「明細書又は図面・・・に記載した事項の範囲内」であるか否かについて判断する。

(1) 当初明細書等には,以下の記載がある。
・・・
 そして,上記(1)の「トラクションシーブは,トラクションシーブ材料にロープを効果的に食い込ませる材料で作られる。」,「巻上ロープの材料より柔軟で,巻上ロープをトラクションシーブに食い込ませる材料より柔軟な材料をトラクションシーブに使用すると,巻上ロープを保護する効果が得られる。巻上ロープ自体が損傷を受けることはまずないため,巻上ロープはその特性を維持しながらトラクションシーブ材料に食い込む。」などの詳細な説明部分を前提とするならば,当初明細書等に記載された「前記巻上ロープは前記トラクションシーブに食い込む」とは,せいぜい,巻上げロープがトラクションシーブの内部に,入り込むことを意味するものであって,トラクションシーブを欠損させたり,亀裂を入れたり,傷つけたりするなどの態様で変化させることを含む意味として,説明されていると理解することはできない。

 そうすると,本願補正において「該トラクションシーブが前記巻上ロープによって少なくとも部分的に破損して」と付加変更された部分は,巻上ロープがトラクションシーブを部分的にこわすことを意味し,トラクションシーブが欠損したり,亀裂が入ったり,こわれたりする状態に至ることを含むものと理解すべきであるから,本件補正は,本件補正前の明細書又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものというべきである。

明瞭でない記載の釈明として補正が許される場合

2010-12-19 23:06:49 | 特許法17条の2
事件番号 平成22(行ケ)10188
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年12月15日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

(2) 原告は,上記(1)②の補正部分につき,図形模様と構造体とは一体のものであって,図形模様を30度回転させるということは,構造体を30度回転させることと実質的に同一であるので,変更には当たらないとした上,「構造体」を「図形模様」に補正することは,図柄の組合せ状態を明確にしたものであって,明瞭でない記載の釈明に該当するものであると主張する。

(3) しかしながら,法17条の2第4項は,拒絶査定不服審判を請求する場合において,その審判の請求と同時にする特許請求の範囲についてする補正は,同項1号ないし4号に掲げる事項を目的とするものに限ると規定しているのであって,明瞭でない記載の釈明として補正が許されるのは,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものに限られるところ(法17条の2第4項4号),
 平成20年7月4日付け拒絶査定(乙11)の理由となる同19年10月1日付け拒絶理由通知(乙7)は,引用文献との関係で進歩性の欠如を指摘するものであって,上記(1)②の補正部分の補正前の規定について指摘するものではなく,同部分の補正は,拒絶理由通知に係る拒絶の理由に示す事項についてするものではないから,明瞭でない記載の釈明に該当するということはできない

* 拒絶査定も「拒絶理由通知」(法17条の2第4項4号)に当たるのではないか?
事件番号 平成18(行ケ)10055
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成19年09月12日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

課題と解決手段及び周知技術を総合して考慮し新規事項の追加でないと判断した事例

2010-06-27 21:15:42 | 特許法17条の2
事件番号 平成21(行ケ)10303
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年06月22日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 塚原朋一

(4) 補正事項ハ)について
 ここでは,「電源キーとは異なるキー操作により通信機能を停止させる指示が入力される」場合に,本願発明の「複数の機能は動作可能とした」を,「時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,スピーカによる電気信号を音声に変換する機能を含む複数の機能はそのまま動作可能とした」と補正することの適否が問題となる。

 前記1の段落【0006】ないし【0011】及び【0015】によれば,本願発明は,・・・,携帯電話端末での通信が禁止されている場所でも通信以外の機能を使用可能として利便性を向上させ,また,エリア外における無駄な電力消費を防ぐことができる携帯電話端末を提供することを目的とするものである。

 そして,本願発明は,上記目的を達成するため,使用者の要求により,通信機能のみを停止できるようにし,無線信号の発着信が禁止されている場所においては,通信とは無関係の機能を使用できるようにして利便性を向上させ,また,エリア外における消費電力を低減することができるようにするものであると認められる。

 ・・・

 そして,上記の通信機能が停止中の動作及び作用・効果に関して,「通信機能のみを停止させ,電話番号帳,電子手帳,時計等の通信とは無関係の機能を使用できるように」する(前記1の段落【0015】),「病院等の無線通信禁止区域において,通信機能のみを停止させて電子手帳機能や電話帳機能等はそのまま用いることができるため,利便性を向上させることができ,また,通信機能を停止させて消費電力を低減することができる。」(前記1の段落【0040】)と記載されているから,上記「等」の記載に基づくと,「時計機能」及び「電話帳機能」は,通信とは無関係の機能の例示であって,この両者の機能のみが使用可能となることを意味するものではなく,むしろ,「通信機能のみ」を停止させるとの記載によれば,無線信号の発着信を行わないすべての機能は使用可能になっていると解するのが自然である

 そうすると,無線部を含めて携帯電話端末のすべての構成部分に電力が供給された通常の動作状態においては,携帯電話端末の有する機能のすべてが使用可能状態にあり,その状態から,電源線20及び21の電力供給のみを停止し,無線部2及びベースバンド処理部3の動作のみを停止させるのであるから,継続して電力供給がされている制御部10は,引き続き,使用可能な状態が維持されるものと認められる

 このように,通信機能を停止させた際にも,制御部10は電源線22から電力供給されて動作可能な状態となっているから,通信機能停止処理中であっても,制御部10は,電源が供給されている中央処理装置4,記憶部5,入力部6,表示部7及び停止認識部13と協働して適宜必要な動作を実行するものと認められるところ,前記1の図1を参照すると,「マイク8」及び「スピーカ9」は制御部10に接続されているから,前記(3) で検討したとおり,接続先の本体部(制御部10)に電源が供給されていれば,「マイク8」及び「スピーカ9」も使用可能となり,協働して音声入力及び出力動作を実行し得るものと解される。

 以上のように,当初明細書等に記載された本願発明の課題とその解決手段及び周知技術を総合して考慮すると,本願発明の携帯電話端末において通信機能を停止した場合にそのまま使える機能としては,少なくとも時計機能,電話帳機能,マイクによる音声を電気信号に変換する機能,及びスピーカによる電気信号を音声に変換する機能が含まれるものと解される。

平成6年改正法36条5項の下での法17条の2第3項の趣旨-当初記載のない数値限定を認めた事例

2010-02-06 21:46:07 | 特許法17条の2
事件番号 平成21(行ケ)10175
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成22年01月28日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

 特許法17条の2第3項は,・・・旨を定める。同規定は,出願当初から発明の開示を十分ならしめるようにさせ,迅速な権利付与を担保し,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するとともに,出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が不測の不利益を被ることのないようにするなどの趣旨から設けられたものである
 そして,発明とは,自然法則を利用した技術的思想であり,課題を解決するための技術的事項の組合せによって成り立つものであることからすれば,同条3項所定の出願当初明細書等に「記載した事項」とは,出願当初明細書等によって開示された発明に関する技術的事項であることが前提になる。
 したがって,当該補正が,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入したものと解されない場合であれば,当該補正は,明細書,特許請求の範囲の記載又は図面に記載した事項の範囲内においてされたものというべきであって,同条3項に違反しないと解すべきである。

 ところで,特許法36条5項は,特許請求の範囲には,「・・・特許出願人が特許を受けようとする発明を特定するために必要と認める事項のすべてを記載しなければならない」と規定する。同規定は,特許請求の範囲には,「・・・特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載」すべきとされていた同項2号の規定を改正したものである(平成6年法律第116号)。従来,特許請求の範囲には,発明の構成に不可欠な事項以外の記載はおよそ許されなかったのに対して,同改正によって,発明を特定するのに必要な事項を補足したり,説明したりする事項を記載することも許容されることとされた。そこで,これに応じて,特許請求の範囲に係る補正においても,発明の構成に不可欠な技術的事項を付加する補正のみならず,それを補足したり,説明したりする文言を付加するだけの補正も想定されることになる。
 したがって,補正が,特許法17条の2第3項所定の出願当初明細書等に記載した「事項の範囲内」であるか否かを判断するに際しても,補正により特許請求の範囲に付加された文言と出願当初明細書等の記載とを形式的に対比するのではなく,補正により付加された事項が,発明の課題解決に寄与する技術的な意義を有する事項に該当するか否かを吟味して,新たな技術的事項を導入したものと解されない場合であるかを判断すべきことになる。


・・・
 ところで,「熱損失係数が1.0~2.5kcal/m ・h・℃の高断熱・高気密住宅」との構成について,本件発明全体における意義を検討すると,形式的には,数値を含む事項によって限定されてはいるものの,・・・,むしろ,本件発明における課題解決の対象を漠然と提示したものと理解するのが合理的である。
 本件補正の適否についてみてみると,仮に本件補正を許したとしても,先に述べた特許法17条の2第3項の趣旨,すなわち,①出願当初から発明の開示を十分ならしめ,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性の確保,②出願時に開示された発明の範囲を前提として行動した第三者が被る不測の不利益の防止,という趣旨に反するということはできない。
 そうすると,本件補正は,本件発明の解決課題及び解決手段に寄与する技術的事項には当たらない事項について,その範囲を明らかにするために補足した程度にすぎない場合というべきであるから,結局のところ,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入していない場合とみるべきであり,本件補正は不適法とはいえない。
・・・

請求項の用語を制限的に解すべきでないとした審決を否定した事例

2009-09-06 15:47:49 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10329
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年09月01日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣


『〔被告の主張〕
(1) 目的要件の充足性
ア 原告は,・・・,上記記載に係る補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであると主張する。

イ しかしながら,特許請求の範囲の記載に用いられる用語は,権利範囲を確定するために用いられるものであるから,制限的に解されるべきものではないところ,当初明細書に記載のない「印刷データの言語の種類と関係がない」との表現が用いられれば,対角的な「印刷データの言語の種類と関係がある」との意味内容も問題となり得る。
 そうすると,これらの意味内容の別を明記していない当初明細書の記載から,「印刷データの言語の種類と関係がない」との表現の追加により特定される内容がいかなるものかを把握することはできない
というべきである』

『第4 当裁判所の判断
1 取消事由1(本件補正を却下した判断の誤り)について
(1) 目的要件の充足性
 本件審決は,本件補正における「前記拡張装置は,印刷データの言語の種類に依存しない,自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フィニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれかである」との記載を追加する補正事項のうち,「印刷データの言語の種類に依存しない」との記載は,「本件の出願当初の明細書又は図面になく,如何なることを意味するのか,その内容が明確ではない…から,本件補正後の特許請求の範囲(請求項1,16)の記載は明りようでなく,特許請求の範囲の減縮に当たるか否かを判断することすらできない。」(12頁15~29行)とし,本件補正は目的要件を充足しないと判断した。

 しかしながら,上記補正事項のうち,「拡張装置」については,「自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フィニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれか」と特定され,証拠(甲7,33~39)によると,本件特許出願時の当業者の技術常識として,これらの特定された拡張装置がいかなるものであるかは明らかであり,かつ,それらの機構や機能に照らし,上記拡張装置はいずれも印刷データを記述する言語の種類に影響を受けないことも明らかであると認められる。
 そして,本件補正の内容が上記第2の2(2)のとおりであることを併せ考えると,本件補正は,補正前の請求項に記載された認識手段による拡張装置の接続状態の認識について,記録装置の電源が投入された場合に,拡張装置と繰り返し通信することにより,繰り返して行われるものに限定し,「第一のデバイスID」及び「第二のデバイスID」については,情報処理装置においてプリンタドライバを使用可能とするために用いられるものであることを明示して,そのようなものに限定するとともに,「拡張装置」については,自動原稿給送装置,ソータ装置,両面印刷ユニット,ペーパーカセット,フイニッシャ及びスキャナのうちの少なくともいずれかのものに限定した上,これらが印刷データを記述する言語の種類に影響を受けないものに明示的に限定したものであるということができる。

 また,上記「認識手段」,「第一のデバイスID」,「第二のデバイスID」及び「拡張装置」はいずれも本件補正前の特許請求の範囲の請求項1記載の発明を特定するために必要な事項であって,本件補正発明の産業上の利用分野及び解決しようとする課題が本件補正前の発明と同一であることは明らかである。

 そうすると,本件補正は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものというべきであるから,本件補正が目的要件を充足しないとの本件審決の判断は誤りである。』

補正前後の請求項の対応関係の判断事例

2009-08-31 00:00:01 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10432
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年08月20日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

・・・
 以上,要するに,本件審決は,本件補正が自動装着機の発明についての旧請求項5を同じく自動装着機についての新請求項5及び6とするものであることを前提としているのに対して,原告は,新請求項6は,旧請求項5を補正したものではなく,旧請求項7を補正したものであると主張していて,ここに本件補正についてのとらえ方の相違がある。
・・・

(2) 手続補正書の記載からみた新旧請求項の対応関係
ア ・・・
 また,本件補正に係る手続補正書と同時に提出された補正対象を審判請求書とする「手続補正書(方式)」(甲9の2)には,補正の根拠として,「a.・・・。/b.・・・。/c.請求項5,7は,請求項1に基づき補正をしました。」との記載がある

イ 上記アの記載によると,旧請求項の数は9つであり,新請求項の数は7つであるところ,旧請求項1ないし4と新請求項1ないし4とは,いずれもそれぞれ自動装着機の作動方法についての発明,旧請求項9と新請求項7とは,いずれもシステムについての発明であるから,それぞれが対応する関係にあるものと認められる。
 したがって,さらに対応関係を検討しなければならないのは,旧請求項については5ないし8,新請求項については5及び6であるところ,前記「手続補正書(方式)」において,旧請求項8の発明特定事項である「コンポーネント(3,5,17)」を「装着ヘッド(5)」に限定した旨及び「請求項5,7」を補正した旨が記載されていることからすると,本件補正に当たっては,旧請求項6及び8が削除されているものと認められる

 そうすると,・・・,旧請求項の5及び7のいずれも削除されていないこと,その間の旧請求項6が前記のとおり削除されていることにかんがみると,旧請求項5が新請求項5に,旧請求項7が新請求項6に対応する関係にある,すなわち,その対応関係は原告主張のとおりのものであると認めることができる
 旧請求項7が新請求項6となっているのは,旧請求項6が削除されているため,その番号が繰り上がったものにすぎず,また,そうであればこそ,前記のとおり,旧請求項8が削除された後の旧請求項9が新請求項7と対応関係にあると認められるのである。新旧請求における番号の違いは,以上の対応関係の認定を左右するものではない。

ウ この点につき,被告は,旧請求項7記載の発明は,記憶装置がコンポーネントに直接接続されているメモリとして構成されていることを発明特定事項としていることが明らかであるのに対して,新請求項6記載の発明は,記憶装置がメモリとして構成されていることを発明特定事項としているものの,該記憶装置がコンポーネントに直接接続されていることについては発明特定事項とはしていないから,新請求項6が旧請求項7を補正したものであるということはできないと主張する。
 しかしながら,被告の主張は,新請求項6が旧請求項7を補正したものであること,すなわち,前記認定の旧請求項7と新請求項6との対応関係を前提として,補正の内容がその目的要件の1つである限定的減縮の場合に当たるということができない旨を指摘しているにすぎないのであり,このような主張は,旧請求項7と新請求項6との対応関係を否定した上で本件補正を却下した本件審決にはその前提となる補正内容の認定に誤りがある,との原告の取消事由1に係る主張に対する反論としては,当を得ないものといわざるを得ない。

拒絶査定不服審判における「特許請求の範囲の減縮」の判断事例

2009-05-29 22:02:26 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10394
裁判年月日 平成21年05月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 滝澤孝臣

イ補正事項3について
 原告は,補正事項3に係る補正が本願発明2の「押しピン」を限定する補正であるとして,この補正が法17条の2第4項2号にいう「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものではないとした本件審決の判断に誤りがあると主張するので,以下,検討する。

(ア) 本願発明2の理解
 本件補正前の特許請求の範囲の請求項2の記載は,前記したとおりである。
(イ) 補正事項3の位置付け
 これに対し,補正事項3は,補正前の請求項2においては,「押しピン」の構造が「使用時に…下部に設けられた孔部からピン部先端が外部に突出する」と記載されていたところ,補正後の請求項1においては,その構造に「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはなく,」という限定を付加して記載されているのであって,その記載内容を比較すると,本願発明2における「押しピン」の構造に上記限定を付加するものであると認められる

 そして,本願発明2の「押しピン」が特定の構造を有するものであることは前記で説示したところであるから,このような「押しピン」に上記限定が加えられることにより,使用しないときに手でいずれかの部分を触れればピン部が動く可能性があった本件補正前の「押しピン」が,本件補正後においては「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはな(い)」ものに限定されたということができ,本願発明2においては,「押しピン」も当該発明の対象となるものであることも前記ア(ア)で説示したとおりであるから,その構成が限定されることによって,特許請求の範囲は減縮されるものと認めることができる

 この点について,被告は,本願明細書の発明の詳細な説明に「使用しない時には…手にとってどの部分に触れてもピン部3が動くことはない」(段落【0006】)との記載があることから,本件補正前の請求項2に記載されていた「押しピン」はそのようなもの(補正事項3による補正後のもの)と理解されるから,補正事項3は本願発明2の「押しピン」を具体的に限定するものではないと主張するが,本件補正前の請求項2には,「押しピン」が「使用しないときには手でどの部分に触れてもピン部が動くことはな(い)」ものであることを示す記載は存在しないから,被告の主張は失当である。

・・・

(ウ) 以上によると,補正事項3に係る補正は,法17条の2第4項2号が規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものというべきである。


新規事項の追加を否定した事例、実験報告書を採用した事例

2009-04-21 19:11:43 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10358
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年03月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 本件補正の適否
 原告は,本件補正で本件特許の請求項1,4に加えられた記載(上記第3,1,(2)下線部分)は,特許請求の範囲について,これを「但し…を除く」などの消極的表現により記載したいわゆる「除くクレーム」の形式による特許請求の範囲の記載に当たるところ,この記載は本件特許の願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面には全く開示も示唆もされていない新規事項であり,本件補正は「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」なされものではないから,特許法(以下「法」という。)17条の2第3項の規定に違反し,法123条1項1号に規定する無効事由に該当すると主張するので,以下検討する。
 ・・・

イ すなわち,本件補正は,上記アのとおり,球状活性炭につき,X線回折法による回折角(2θ)が15°,24°,35°における回折強度の比(R値)が1.4以上であるものを除くとするものである。

 一方,前記記載のとおり,本件当初明細書に記載された発明は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これにより,ピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,有益物質に対する吸着が少なく尿毒症性物質の吸着性に優れるという選択吸着性が向上するという効果を奏するとするものである。

 そして,上記(3)ウのとおり,別件特許は,球状活性炭からなる経口投与剤につき,その細孔構造に注目して,直径,比表面積のほか,最も優れた選択吸着性を示すX線回折強度を示す回折角の観点からこれをR値として規定し,このR値が1.4以上であることを特徴としたものである。別件特許は,球状活性炭に関し,本件特許とは異なりフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を出発原料として特定せず,また本件特許では従来技術に属するものとされるピッチ類を用いても調整が可能であるとして,このR値の観点から球状活性炭を特定したものである。

 そうすると,球状活性炭のうちフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いた場合において,そのR値が1.4以上であるときには,本件特許に係る発明と別件特許に係る発明は同一であるということができる。そして,本件補正は,このR値が1.4以上である球状活性炭を特許請求の範囲の記載から除くことを目的とするものであるところ,上記本件当初明細書の記載内容によれば,本件補正は,当業者(その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者)によって,明細書,特許請求の範囲又は図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものではないと認めるのが相当である。そうすると,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではないから,補正要件違反の無効理由は認められない。

ウ 原告の主張に対する補足的判断
(ア)  ・・・

(イ)  また原告は,本件補正後の本件発明には発明の実施例が全くないこととなり,本件発明は未完成であり,本件補正により除かれた後の発明は発明の詳細な説明のサポート(特許法36条6項1号にいう「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」)を欠き大合議判決の事案とは異なるものであると主張する。
 本件特許の明細書(甲9〔特許公報〕)に記載された実施例1~4は,上記(2)ア(ア)の本件当初明細書に記載された実施例1~4と同じであるところ,この実施例は,上記(3)イのとおり,別件特許の特許公報(甲5)と併せ読むと別件特許の実施例1~4とは全く同一のものであり,しかも別件特許の特許公報(甲5)には,実施例1~4のR値が記載されており(【表2】),いずれもR値は,1.68~1.71と1.4以上である。そうすると,本件特許公報に記載された実施例1~4は,いずれも本件補正後のR値を満たさないものしか記載されていないから,原告は本件発明の実施例が全くなく,また本件発明は未完成であり,発明の詳細な説明のサポートを欠くと主張するものである

 しかし,上記(2)ア(イ)で検討したとおり,本件当初明細書に記載された発明は,経口投与用吸着剤に用いられる球状活性炭について,熱硬化性樹脂,実質的にはフェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用い,これによりピッチ類を用いる従来の球状活性炭に比べて,選択吸着性が向上するという効果を奏するとするものであり,別件特許と異なりX線回折法による回折強度比(R値)の観点から球状活性炭を規定したものではない。

 なお,被告が平成18年5月15日付けで提出した実験成績証明書B(甲40の3)によれば,フェノール樹脂を炭素源として調整した参考例1,3~5において,R値が1.4未満でありながら従来の球状活性炭(ピッチを炭素源とした本件当初明細書記載の比較例1,2。選択吸着率0.7~1.7)に比して優れた選択吸着率を示しており(選択吸着率2.4~3.9),同じく平成18年5月15日付けで提出した実験成績証明書A(甲40の2)によれば,イオン交換樹脂を炭素源として調整した参考例1,2において,R値が1.4未満でありながら従来の球状活性炭(ピッチを炭素源とした本件当初明細書記載の比較例1,2。選択吸着率0.7~1.7)に比して優れた選択吸着率を示している(選択吸着率。3.1~3.4)ことが認められる。
 これらによれば,X線回折法による回折強度比(R値)の観点から本件発明をみても,本件発明が未完成であるということはできない。
また,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いて特許請求の範囲記載の直径,比表面積,細孔直径,細孔容積の条件を満たす球状活性炭を調整することについて,本件当初明細書(乙10)の発明の詳細な説明に記載されていたとおりであり,発明の詳細な説明のサポートがないとはいえない。
以上の検討によれば,原告の主張は採用することができない。

(ウ) 次に原告は,別件特許の特許公報(甲5)によれば,「R値が1.4以上であること」が選択吸着率の向上に意味があることを示しており,本件補正は,新規事項を追加するものであると主張する。
 しかし,上記(イ)で検討したとおり,実験報告書A・Bの記載によれば,R値が1.4未満であっても,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いることにより,従来の球状活性炭に比べて優れた選択吸着率のものが得られることが示されており,本件明細書に記載された選択吸着性の向上に関しては,フェノール樹脂又はイオン交換樹脂を炭素源として用いることによるものであり,R値によるものでないことが示されている。原告の上記主張は採用することができない。

除くクレームについて新規事項の追加の有無を判断した事例

2009-04-21 07:10:43 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10065
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年03月31日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘


2 取消事由1(新規事項の追加に当たらないとした判断の誤り)について
 原告は,請求項に「ただし,…を除く。」といった消極的表現(いわゆる「除くクレーム」)が記載された本件補正は,法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内」における補正ということはできない旨主張するので,以下検討する。

(1) 「除くクレーム」と法17条の2第3項との関係
ア 法17条の2は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の補正に関する法文であり,その第3項は,「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,…願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と定めているところ,本件補正は前記のような「除くクレーム」の形でなされているものの,法17条の2にいう補正であることに変わりはないから,その適否を判断する基準となるのは,上記法17条の2である

 ところで,特許権は発明について最初に出願した者に付与される(先願主義,法39条)のであるから,出願人が一旦なした不完全な内容の特許出願に対しその後その内容の補正を認める事実上の必要が生じたとしても,補正することができる物的範囲は上記先願主義との関係で自ら限界があり,発明の開示が不十分にしかされていない出願と出願当初から発明の開示が十分にされている出願との間の取扱いの公平性を確保するため,これを法は,上記のとおり,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならない」と規定したものである。
 そして,「明細書等に記載した事項の範囲内」か否かは,上記のような法の趣旨からすると,「明細書等に記載した事項」とは,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(当業者)を基準として,明細書・特許請求の範囲・図面のすべての記載を総合して理解することができる技術的事項のことであり,補正が,上記のようにして導かれる技術的事項との関係で新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は「明細書等に記載した事項の範囲内」であると解されることになる。
 したがって,本件のように特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合,付加される補正事項が当該明細書等に明示されているときのみならず,明示されていないときでも新たな技術的事項を導入するものではないときは,「明細書等に記載した事項の範囲内」の減縮であるということになる。
 また,上記にいう「除くクレーム」を内容とする補正は,特許請求の範囲を減縮するという観点からみると差異はないから,先願たる第三者出願に係る発明に本願に係る発明の一部が重なる場合(法29条1項3号,29条の2違反)のみならず,本件のように同一人によりA出願とB出願とがなされ,その内容の一部に重複部分があるため法39条により両出願のいずれかの請求項を減縮する必要がある場合にも,そのまま妥当すると解される。

イ 特許庁審査官が審査する際の審査基準は,上記にいう「除くクレーム」について,下記のように定めている(甲27)が,その趣旨は基本的に上記アと同一と考えられる(ただし,本文7行目「例外的に」とする部分を除く)。

「(4) 除くクレーム
・・・。」

ウ (ア) 以上に対し原告は,特許庁の審査基準を挙げつつ,いわゆる「除くクレーム」による補正は,法にこれを許容する明文の規定が存しない以上,当初明細書に記載がない限り許されないと解すべきであるし,仮にこれを認めるとしても極めて限定的に解すべきである旨主張する。

 しかし,上記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許されるか否かは,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるか否かという問題であって,法の定めを超えた例外を許容するものではない。「除くクレーム」とする補正のように補正事項が消極的な記載となっている場合においても,補正事項が明細書等に記載された事項であるときは,積極的な記載を補正事項とする場合と同様に,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入するものではないということができるが,逆に,補正事項自体が明細書等に記載されていないからといって,当該補正によって新たな技術的事項が導入されることになるという性質のものではないからである。

 したがって,「除くクレーム」とする補正についても,当該補正が明細書等に「記載した事項の範囲内において」するものということができるかどうかについては,明細書等に記載された技術的事項との関係において,補正が新たな技術的事項を導入しないものであるかどうかを基準として判断すべきことになるのであり,「例外的」な取扱いを想定する余地はないというべきである。原告の上記主張は採用することができない。

(イ) また原告は,知財高裁大合議判決のような法29条の2が問題とされた事案と異なり,出願人である被告自身が出願当初から先行技術との重複を知り又は知り得たような本件においては,いわゆる「除くクレーム」による補正により救済すべきでないと主張する

 しかし,前記のとおり,いわゆる「除くクレーム」による補正が許容されるのは,例外的な「救済」といった性格のものではなく,当該補正が法17条の2第3項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内において」するものであると認められるからである。
 そうである以上,その際考慮されるべきは明細書の記載といった客観的な事情であるべきであって,出願人の認識ないしその可能性といった主観的事情により補正の可否が左右されるべきものではない
 また,同一出願人による同日出願の場合であっても,特許請求項の範囲の記載は,その後発見した公知文献や拒絶理由通知等により変化し得るものであるほか,特許請求の範囲に複数の請求項を記載する場合もあり,出願当初からそれらすべての場合を想定し,請求項の範囲の記載を重複しないようにすることは実際上困難である。さらに,法39条2項の適用があるのは必ずしも同一出願人同士の出願に限られないことや,法は29条の2と同法39条2項のいずれについても出願人の主観的事情を特許の要件とはしていないことを併せ考慮すると,法29条の2が適用される場合に比して,同一出願人間で同法39条2項の適用が問題となる場合にのみ,殊更に法17条の2第3項の要件を厳格に解釈すべき必然性を見出すことはできない

特許請求の範囲に限定を付加する補正の新規事項の判断

2009-03-02 06:33:46 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10270
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成21年02月26日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 田中信義

 ところで,特許法17条の2第3項は「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は図面について補正をするときは,・・・願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面・・・に記載した事項の範囲内においてしなければならない。」と規定するところ,補正が,当初明細書等の記載によって開示された技術的事項に対し,新たな技術的事項を導入しないものであると認められる限り,同項にいう「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に・・・記載した事項の範囲内において」するものであるというべきである。
 もっとも,当初明細書等に記載された事項は,通常,当該明細書等によって開示された技術的思想に関するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的として,特許請求の範囲に限定を付加する補正を行う場合において,付加される補正事項が当初明細書等に明示的に記載されている場合や,その記載から自明である事項である場合には,そのような補正は,特段の事情のない限り,新たな技術的事項を導入しないものであると認められ,「願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に・・・記載した事項の範囲内において」するものであるということができる。

特許請求の範囲の用語の認定と、特許請求の範囲の減縮(限定的減縮)

2008-12-14 22:48:08 | 特許法17条の2
事件番号 平成19(行ケ)10350
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年12月10日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 中野哲弘

(2) 補正却下の当否
ア 審決は,「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」と補正したことに関し,「雄型ルア先端」を「雄型ルアカニューレの少なくとも一部」とすることは,特許請求の範囲を一部拡張し,また不明確にするものである(4頁下15行~下6行)として,本件補正を却下したものである

 上記補正部分は,雄型ルアないし雄型ルアカニューレを本願発明に係るルア受け具に挿入する場合の当該雄型ルアないし雄型ルアカニューレ・スリット・隔膜の各構成を特定するものであるが,審決の上記判断は,基本的には,「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア」とが同じものであるとの理解を前提とするものと理解することができるのに対し原告及び参加人は,「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア」とは同じものではなく,むしろ「雄型ルアカニューレ」と「雄型ルア先端」とが同じである旨主張するので,以下,両者の関係について検討する。

・・・

エ 以上によれば,本願明細書においては,・・・雄型ルアないし雄型ルアカニューレを特定する用語としては,「ルアカニューレ(カニューレ)32」と「ルア先端32(832,932)」とが混在して用いられていることが認められる。

 そうすると,本願明細書においては,上記機能ないし性質を有するものとして指称する場合,「雄型ルアカニューレ32」と「雄型ルア先端32」とは同一のものを意味すると認められる。・・・

 そして,本件補正における,「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」との表現は,雄型ルアカニューレ32における上記機能が実現する場面を表現したものであることは明らかであるから,ここでの「雄型ルアカニューレ」というのは,ルア受け具に挿入されるルアコネクタの構成全体を指称するものではなく,「雄型ルア先端32」に相当する雄型ルアカニューレの先端部分である「ルアカニューレ32」を意味するものと理解することができるし,「雄型ルアカニューレの少なくとも一部」というのも,「ルアカニューレ32」に相当する部分がスリットを介して隔膜内に挿入される場合に,これが隔膜と接触している範囲を指すものであることは容易に理解できるところである。

 そうすると,本件補正において,「前記雄型ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して該隔膜の内部に挿入できる」とあるのを「前記雄型ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」と変更することは,実質的に同じ構成を言い換えたにすぎないものであるから,これにより何ら特許請求の範囲を一部拡張するものではないし,不明瞭とするものでもない

したがって,この点に関する審決の前記判断は誤りといわざるを得ない。

オ この点,被告は,仮に「雄型ルア先端」と「雄型ルアカニューレ」が同じものであったとしても,本件補正前には「雄型ルア先端」なる用語で表される部分全体が隔膜内部に挿入されていたものが,本件補正により「雄型ルア先端」なる用語で表される部分の一部で足りることになるから,本件補正による変更は特許請求の範囲を拡張するものである旨主張する。

 しかし,本件補正前の本願発明においては,「ルア先端が前記隔膜の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介し該隔膜の内部に挿入できる」として,挿入されるのはルア先端とするだけで,「ルア先端の部分全体」が隔膜の内部に挿入されるとは記載されていない。そして,上記(1)のとおり,補正発明の意義は,雄型ルアとルア受け具が係合されることにより,ルアロックコネクタの先端が隔膜内に貫入することを利用して医療流体を移送するというものであり,ここで雄型ルアの先端部分が隔膜内に貫入される態様は,医療流体を移送できる程度であることは必要とされるものの,それを超えてその全部が貫入されることは必須の要素でないことは明らかである。

 そうすると,本件補正前の本願発明においても,挿入される部分はルア先端の一部又は全部と解さざるを得ないのであって,これを本件補正により「ルアカニューレの少なくとも一部が前記上側部分の上面及び前記スリットの少なくとも一部を介して前記隔膜の内部に入り込む」として,挿入される部分がルア先端の一部の場合だけでなく全部が挿入される場合があることを明示することは,実質的にみて何らの変更を加えるものではないから,特許請求の範囲を拡張するものではない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。

カ なお被告は,特許法旧17条の2第4項2号「特許請求の範囲の減縮」にいう「減縮」とは,発明を特定するために必要な事項を「限定する」ことであり,これに該当するといえるためには,補正後の一つ以上の発明を特定するための事項が補正前の発明を特定するための事項に対して,概念的に下位になっていることを要するものであると主張するところ,同主張は,補正が「特許請求の範囲の減縮」(特許法旧17条の2第4項2号)に該当するためには,これに該当する個々の補正事項のすべてにおいて下位概念に変更されることを要するとの趣旨を含むものと解される
しかし,特許請求の範囲の減縮は当該請求項の解釈において減縮の有無を判断すべきものであって,当該請求項の範囲内における各補正事項のみを個別にみて決すべきものではないのであるから,被告の上記主張が減縮の場合を後者の場合に限定する趣旨であれば,その主張は前提において誤りであるといわざるを得ない。
また,特許請求の範囲の一部を減縮する場合に,当該部分とそれ以外の部分との整合性を担保するため,当該減縮部分以外の事項について字句の変更を行う必要性が生じる場合のあることは明らかであって,このような趣旨に基づく変更は,これにより特許請求の範囲を拡大ないし不明瞭にする等,補正の他の要件に抵触するものでない限り排除されるべきものではなく,この場合に当該補正部分の文言自体には減縮が存しなかったとしても,これが特許法旧17条の2第4項2号と矛盾するものではない

新規事項が追加された事例

2008-11-30 11:23:21 | 特許法17条の2
事件番号 平成20(行ケ)10168
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年11月27日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明


(3) 判断(その2--新規事項の追加の有無について)
 前記(1),(2)で認定判断したとおり,本件出願当初明細書には,ケースそのものを目印として使用することの記載ないし開示はない。すなわち,ケースは,本来的には,物品などを収容するためのものであるのに対し,目印は,外部から視覚を通じて区別するための手段であるから,両者はその意義及び機能において相違するところ,本件出願当初明細書及び図面のいずれにおいても,ケースの形状や色彩等を,視覚を通じて区別する機能を有するものとして使用することを記載,示唆する記載はない。
 したがって,本件出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項によっても,ケースそのものを目印として用いるとの事項は,新たに導入された技術的事項というべきである
したがって,本件補正は新規事項の追加に当たるとした審決の判断に誤りはない。

新規事項の追加であるとの判断を「新基準」で行った例

2008-07-20 10:08:42 | 特許法17条の2
事件番号 平成19(行ケ)10432
事件名 審決取消請求事件
裁判年月日 平成20年07月17日
裁判所名 知的財産高等裁判所
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
裁判長裁判官 飯村敏明

・・・
 以上のとおり,本願において,「ばね掛けに係合されたラッチばねの端部を耐摩部片に掛け止める」との構成における「掛け止められる」は,「引っ掛けて離れないようにする,固定する」との意味に理解するのが相当であるが,そのような構成が付加されることは,例えば,ラッチばねの横ずれ防止効果や「はずれにくくする」との効果やラッチとラッチばねの設置の位置関係の自由度の拡大効果など技術的な観点から新たな事項が付加されるものと解される余地が生ずる

 ところで,上記のとおり,本件出願当初明細書には,ラッチばねで付勢させた平板状のラッチを備えたダイヤル錠において,「『高分子材料から成る耐摩部片』を用いること」,及び「『金属材料製のラッチ本体』と『高分子材料から成る耐摩部片』との固着方法」についての記載はあるものの,専らその点の開示に尽きるのであって,「ラッチばねの端部」と「耐摩部片」との位置関係について開示又は示唆する記載がないことはもとより,図3においても,「ラッチばね」のラッチ本体側の端部が「ばね掛け」(ばね止め)の周囲に位置することが示されているが,「ラッチばね」のラッチ本体側の端部と「ばね掛け」(ばね止め)との位置関係,係合の有無,態様は何ら示されていない

 そうすると,「ばね掛けに係合させたラッチばねの端部を耐摩部片に掛け止める」との構成は,本件出願当初明細書及び図面のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との対比において,新たに導入された技術的事項であるというべきである。