のら猫の三文小説

のら猫が書いている、小説です。
質問があれば
gmailのnaosukikan
まで連絡ください

次平の敗北 No.13

2012-12-15 08:33:51 | 次平の敗北

珠代は必死の勉強の成果が実り、翻訳家としても認められるようになっていた。  



功一は、興味ある本は一杯買ったけど、読めない本もあった。珠代は英語も勉強して、専門語は功一に聞いて、訳して整理していった。功一は会社でも思い出した事があれば、珠代を会社に本を持ってきてもらったりしていた。珠代も次第に機械の知識が身についてきた。会社の研究の人もやがて、珠代の要約を見るようになっていった。



功一郎も功二郎もそんな環境で育っていた。珠代は少し手が空くと、新しい本を探していたが、その内に小説なども読んでいた。行きつけの書店の主人と知り合いになり、少しつづ翻訳などもするようになっていった。



功一は仕事で会社にいる時以外は、いつも珠代が側にいた。会社にも珠代は呼ばれる事もあったし、珠代が差し入れを社員に持ってくる事もあった。仕事は、順調だった。機械会社は、そんなに需要も少なかったが、商会の努力もあり、少しずつ増えていった。明治維新後は、各地で機械の需要も高まり、仕事は急激に伸びていった。今まで手作りに近く感覚で1台ずつ作っていたが、同じ仕様の機械を何台も作るようになっていった。

純子からの依頼で紡績用の機械を作り、産業用の機械の増えていった。いつしか鉄一の総括会社の制約も外れ、商会の傘下に直接入っていた。

功一には、自分の研究や技術が進められれば、そんなに問題ではなかった。販売は全部商会に任せていたし、経理の人も商会にから来て貰ったりしていた。商会での運営の主体は長い間、恵子がやっていた。その後やがて、純子に代わると、直接相談する事も出来た。恵子は同年輩だったし、抵抗が少しあったが、逆に純子は年が離れていたので、冷静に自分とは異なる異才と認める事が出来た。弟の嫁でもあるし、頼みやすかったし、純子の商才も天才のものと認めていた。



やがて、功一は、純子に、機械もこれからもっと忙しくになるよと言われ、水も綺麗な諏訪に大きな新しい工場を作る事になった。功一も時より視察にいった。珠代は子ども達と留守をしていた。最初は片山の両親なども呼んでいたが、出かける功一を見送る視線が変わってきた。ついに功一は珠代と一緒に行き、珠代を諏訪湖近くの宿に泊めるようになった。子どもたちも大きくなっていたので、女中がいれば問題なかった。最初の数台は東京近くの本社工場で作っていたが、量産化するには、新工場で作るようになった。

功一の出張は多くなった。多くは珠代もついていくようになった。珠代は諏訪湖が気に入っていた。諏訪湖の湖畔に大きな家を建てた。鉄平と香は、機械会社を次平、おゆきそして功一の名義に少しつづ、変えていった。功一は、趣味は仕事と珠代だった。珠代は専門の洋書も読んでくれるし、珠代も色々な本もよんでくれるようになった。治部家の名義が増えて、次平とおゆきは功一の名義に換えていった。



功一郎も功一にて、機械いじりが好きな青年になった。功二郎は、医学が好きで、父次平の医学校に通っていたが、血を見るのが嫌な優しい青年だった。そのため、旧制高校に入り直して、理学部で物理を勉強していた。功一郎は父の手伝いをするため、工学部の機械を出ると、会社に入って、功一の助けをして研究を手伝った。


みどりの想い



次平の娘であるみどりは、医者になり、同じく医者である一太郎と一緒に大坂の医院で働いていた。みどりは次平の側にいるのが好きだった。次平が忙しくなるとみどりは、父の匂いがした一太郎と一緒になった。次平は、家に帰ると本を読んでいる事が多いのだ。いつしか みどりも本を読む事ができるようになったが、熱心に本を読んでいた一太郎の姿が次平と似ていた。その上 話し方も似ている気がして、一緒になった。

一太郎はいつしか大坂の医院よりも医学校で教える事が多くなった。みどりは、一太郎との夜はさほど期待しなかった。ただ寝ている姿は、若いときの父に似ていた。結婚 5年目にして、もう諦めあけている時に、妊娠している事が分かった。次平は東京にいってしまった。子どもの公太郎は可愛かったが、医学書を読んでいると父が側で話しているように思えたので、よく本を読んだ。一太郎と子どもを見ながら、本を読んで、医学の事を話していると、みどりは子どもの頃に、父と一緒にいるような気がしてきた。



公太郎が三歳の時、高熱を出してしまった。風邪をこじらせた。解熱剤を与えて、みどりは一心に看病した。熱は直ぐに下がり、公太郎には問題は無かった。その時以来、みどりは、公太郎を注意してみるようになった。公太郎も、みどりにまとわりつくようになっていった。

一太郎とみどりは本を読み、みどりは子どもを時々見いていたが、これは洋介が幼い時に母がしていた光景だ。そして洋介は剛健で病気した事もなかった。

今では、一太郎は本を読んでいても、みどりは、子どもの公太郎と遊んでいる事が多かった。これはみどりの記憶にはない光景だった。

母上は功一兄さんにも、公太郎のように遊んでいただろうか?みどりは、突然分かった。
私は、もう父に側にいつも居たがる女の子ではなく、公太郎の母なのだ。
公太郎にはこれが頭に残る光景になるのだ。一太郎は私の父ではなく、私の夫であり、公太郎の父なのだ。そしてここが私の家庭なのだ。なぜか新鮮な思いがして、周りを見回していた。





コメントを投稿