のら猫の三文小説

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次平の敗北 No.17

2012-12-17 08:44:27 | 次平の敗北

お妙、医者になる。



やがて、お妙は次平から医学を教えられていた。次平には、お純に医学を教えるべきだったとの悔いがあり、小さい頃からお妙に基礎的な学問を、そして早々と医学を教えていた。次平には、残された時間がもう少ない。自分は敗北しても、お妙に夢を託したいとの痛切な思いがあり、お妙に教える事に情熱を捧げた。

次平も年なので、そんなに手術はしなかったが、お妙には、次平の手術を見せていた。お妙は、次平や純子の天分を受け継いでいた。そして次平の最後の情熱を受けた。お妙は純子譲りで、男への関心も強かったが、男を知る前に、次平から医術をたたき込まれた。

次平から見ると、お妙にはまだ学ぶ所もあると思っていた。しかし時代は年少であっても、腕のいい外科医を必要としていた。お妙には、天才的な手を持っていた。そして直ぐに医者になった。次平は夢を託せた事を満足して、やがて亡くなった。



次平の各医院は、象徴的な存在を失って、分裂していったというより、各地域の事情で経営形態を変えていった。松江や萩は早くから製薬会社の協力で、病院として独立していったし、福岡や長崎は規模は比較的大きいものの、その傾向は強くなっていった。



東京の医院と医学校は、洋介が経営的な中心となり、規模が拡大していたし、大阪はみどりの夫の一太郎が、みどりと共に支えていた。各地の医院は、鉄平の製薬会社への傾斜を強めていた。一方 功一の機械や工作機器の会社は、既に独立していた。



これを支えていたのは、鉄平と次平との間での資本や土地等の交換作業であった。東京と大阪以外の医院は、製薬傘下に入っていた。



鉄平とお香は、話していた。

鉄平「次平が先に死ぬとは、思わなかった。 結局 次平も俺も失敗したのかもしれない。

お香「人のする事に、永遠なんてないわ。」

鉄平「それはそうだが、次平がやろうした寄付だけによる診療も続かなかったし、俺の薬種問屋も消えていった。

お香「次平先生は幾つかの病院と医学校を残し、みどりさんは一太郎さんと大阪の病院と医学校を、洋介さんは東京の病院と医学校をしているじゃないですか? それに最後には、お妙を育て、自分の夢を託していった。失敗ではないわ。夢は続いているのよ。薬種問屋は、製薬会社になり、一平さんが大きくしている。一つの夢が終わったけど、新しい夢の挑戦が続いているのですよ。

鉄平「お前に任せた始めた物産問屋は、商会になり、輸入や輸出もするようになり、事業部門は幾つかの大きな会社になった。」

お香「商会に変えて、大きくしたのはお恵だし、事業会社も鉄一や功一さんが大きくした。あのお純も紡績までやるような大きな会社にし、天才経営者とも呼ばれている。はじめこそ見守るために会社によくいってたけど、今は行く必要かなくなったわ。お純のやり方はあんたに似ているかもしれない。人に任せる事がうまい。お恵も、思いがけない妊娠出産もあって、純子に商会も見て貰ってたら、うまくやっているので、そのまま任せているよ。」

鉄平「あれには驚いたよ。突然の妊娠だったからね。久しぶりの孫で、しかも曾孫まで又出来た。長生きしてよかったよ。」

お香「純子の子よりも年下。あのお恵が恥ずかしがっていたね。でもお純がうまくやってくれて。」

鉄平次平がお純の可能性を知らせてくれた。次平は悔やんでいたよ。お純を医者にしとけばよかったと。洋介など足下にも及ばない医者になって、多くの人を助けただろうし、私が出来なかった事も出来たかもしれない。洋介の面子だけ考えしまった。親バカだった。お純の可能性を知りながら、お恵さんに頼んでしまった。私がやればよかった。お妙には少し早いと思ったが、私は最後の情熱をかけて教えた。私の果たせなかった夢をお妙は実現してくれるかもしれない。その後で洋介さんは、父は、私たち、自分の子どもには構わなかったのに、お妙には情熱をもって教えこんでいたとこぼしていた。」

お香「洋介さんも名医になったのに。」

鉄平「洋介さんがここで話していたけど、お純に対抗意識あった時もあったが、今は素直に応援してる。お純は常人ではない。お純の夫である事を誇りに思っている。お妙の可能性も信じたい。俺たちには曾孫も出来ている。時代の流れはあっと云う間だった。みんな、多くの人の力を借りて大きくしていった。」

鉄平「お恵やお純は、どうしようもない女になるかと心配していたが、もはや経営については俺を超えて、成長していった。頼りないと思った鉄一もなんとかやっているし、功一さんも珠代さんの病気で、気配りのできる人に変わっていった。」

お香「一人の夢はやがて消えていくけど、多くの夢を結びつけていくと、更に多くの人が夢を繋いでいけるわ。

鉄平「次平や俺の夢は消えていくが、子どもたちの夢が始まっているのかもしれない。」

お香「お純や鉄一や功一さんの夢も、やがて消えていくかもしれないけど、次の新しい夢がもう始まっているのよ。」





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