次平一家、長崎に到着
船旅にも、おゆきも子どもも大変喜んでいた。長崎に着くと、石部と鉄平の長崎店の番頭が待っていてくれた。福岡の福田から連絡を受けておりました。長旅ご苦労様です。数日ごゆっくりしてください。鉄平さんが港を見晴らせる屋敷を準備しておられます。そこでお休みくださいと言って屋敷まで案内してくれた。
道中で、長崎の医院は問題ないかと聞くと、「先生が居なくなって、その上何人も抜けた時は大変でした。今は各地から医師も来るし、なんとかやってます。先生今度はゆっくり滞在されるとの事で喜んでおります。」
案内された屋敷は、長崎の港を見渡せる庭園もある広い屋敷であった。管理人によって掃除はされていた。料理店から食べきれないほどの料理も届いた。おゆきは、おいしいと言って食べているこどもたちを見ていた。
次平の長男は功一と言って、17才になっていた。次平に似て、頭がよいが、医術にはあまり関心がなく、算学やよくわからない難しい本を読んでいる。ただ身体はそんなに頑丈とは言えない。注意しないと本ばかり読んでいる。2番目の子は、もう15才になり、女の子だったのに、次平の側にいつもいたがる。医術が好きか次平が好きなだけか分からないが、次平の話を良く聞いている。自分の小さい時とそっくりだ、父上の側がいいといつも言っている。話では、お香さんの子どものお恵さんは、はきはきして思った事をそのまま言うそうだ。この子は、言葉つきまで、次平に似た口調で喋るし、なかなか思っている事も言わない。三番目の子の洋介は、11才になった。まだまだやんちゃで、この頃は木刀を振り回している。身体も頑健で病気した事もない。お腹が一杯になると、子どもたちは旅の疲れもあったのか早くに休んでいた。
みどりだけはまだ次平の側にいたがっていたが、功一がもう寝ようと言うと何か言いかけたが言わず、ついていった。なんか私みたいとおゆきは思っていた。子どもが休むと、次平は庭を歩こうと言って、おゆきと一緒に長崎の港を見晴らせる庭園を歩いた。次平はおゆきに話かけた。
次平「この町で、自分の夢を追いかけ始めた。新しい医術を知って少しでも早く病気の人を直せるように、病気の人が心配なく治療が受けられるに、そしてお金も心配なく受けられるように、質の高い医療を受けられるように、夢を追いかけて挑戦してきた。
鉄平さんは私の夢に共鳴して私を支えてくれ、良質で安くよく効く薬を提供してくれた、そして病気の人に合う食事を、食事の心配なく治療が受けられるように、そして病気が治った人が心配なく仕事がつけるようにと夢をつないでくれ、同じように挑戦してくれた。お前も私を支えてくれている。
お香さんも鉄平さんと一緒に夢を追いかけてくれている。私は、自分の夢を他人に聞かせ、そして巻き込んできた。そして多くの人が支えてくれた。
鉄平さんも同じように多くの人を巻き込み、夢を追いかけてくれている。 お香さんは少し違う。私や鉄平さんと一緒に夢に挑戦してくれているが、私たちは自分の夢を追いかけ、他人を巻き込んでいるが、お香さんは他人に夢を語らせながら、私たちの夢と結びつけて、夢を大きくしてくれた。だからもっと多くの人を巻き込んでいく事が出来た。」
おゆきは、先生がこんなに熱心に話す事を見たことがなかった。
おゆき「先生は挑戦し、夢を実現した。それをあの子たちが、継いでくれますよ。鉄平さんたちの子どもたちも、鉄平さんやお香さんの夢を継いでくれますよ」
次平「いや、まだ挑戦中ですし、いつか多分私たちの挑戦は負けるような気がしています。」とそして言いづけた
次平「今なんとか寄付で維持していけている。始めの数年は寄付が多く集まり、それを鉄平さんに相談すると、お香さんが色々な所で、色々な両替商に預けたり、色々と運用してくれている。
各医院が足りなくなると、それで補充することにしました。江戸の医院では、はじめ大きな寄付が多く、余剰金が最も多かった。それが段々大きな寄付も減り、運用資産の利益から補填するようになりました。
最近は、多くの人を巻き込むお香さんの事業が拡大してきて、その人たちが寄付してくれているので、補填する事も少なくなりました。長崎では厳しくなりつつある。
最初から大きな寄付がない松江は、多くの人が少しつづ出してくれて、逆に持ち出す事が少ない。これは多くの人が支えてくれているからなのです。
大坂では鴻池が多大の寄付をしてくれるし、鉄平さんやお香さんの関係者も寄付してくれるが、普通の人からの寄付はそんなに伸びてない。
今はお殿様が支えてくれている萩や福岡も、永遠には続かない。今は私が巻き込んだ人と鉄平さんとお香さんが巻き込んでくれた人が中心に支えています。そしてはいつかやっていけなくなる気もしています。多くの人が、今よりももっと多くの人が、支え合う事が必要なんです。」
おゆき「そんな 先生は夢を実現し、鉄平さんもお香さんも私たちが見てきた通り、 多くの人に安い薬や食事を提供し、仕事を提供していますよ。」
次平「私は支えてくれる鉄平さんに出会い、おゆきに出会った。そして松江のお殿様、黒田のお殿様、毛利のお殿様そして先帝にも可愛がって貰えた。 そしてお香さんまで私たちの夢を追いかけてくれて、より多いの人を巻き込みながら支えてくれている。奇跡に近い事です。
だから今は実現できるているのですが、限定的なものでしかありません。人は永遠には生きられない。私達も鉄平さん達もいつか死ぬ。私たちの夢が、多くの人の夢とならない限り、実現しつつげる事はできない。多くの人が支え合い続ける事は難しい事なんです。一部の人だけが寄付してくれるだけでは、無理なんです。
多くの人が、もっと多くの人が支え合う事が出来なければこんな事はできない。私たちも、鉄平さんやお香さんも、今大きな寄付をしてくれる人もやがては、いなくなります。 それに私たちの子どもも鉄平さん達の子どもも、自分の夢を追いかけますよ。」
おゆき「悲しいですね」
次平「いやいつも挑戦しつづける事が大切なんです。 あの子たちに私の夢を語り、挑戦しつづけた事を話していきたいと思っています。そしてあの子たちも自分の夢に挑戦できるように育てよう。自分の夢に共鳴してくれる人を見付け、そして出来れば多くの人たちの夢を結びつけ大きな夢に出来るように、そしてそれに挑戦できるように。私は結局 あの子たちにお金や財産を残す事は出来そうもない。残せるのは、自分の夢に挑戦しつづけた事だけかもしれない。」
おゆき「しかし 私もお香さんも自分の夢は実現しましたよ。だって、今私は先生の側にいて、先生の心に触れているし、お香さんも今頃鉄平さんと生まれたままの姿で抱き合ってますよ。」と言って、次平の胸に飛び込んできた。
おゆきは、内心鉄平がこの屋敷を自分名義にしている理由が少し分かっていた。管理人が預かっていましたという行李の中にお金が入っていた事も知っていた。次平が先帝から賜った物を入れようとして気が付いた。鉄平からの手紙も入っていた。「次平先生には黙って、万一の時に使ってください。」と手紙だった。このお金は黙ってそのままにしておいた。
みどりは先生の後を継いで、医者になるもしれないが、みんなを説得したりするのは難しいだろう。功一は学者になるか、それともお香さんの事業にも関心があるみたいだ。どちらにしてもあの子には似合いそうだ。先生の後を継ぐ気はなさそうだ。洋介が医者になればとも思ったが、まだまだ分からなかった。あのお金は、先生にも黙って、あの子たちの為に取っておこう。
次平は、おゆきを抱きながら、
思っていた。
「心の病の外科的な手術も、より安全にやりたいと言う事は夢かもしれない。多くの人がお金を気にせずに、適切な医療を受けられ続ける事も夢かもしれない。しかし自分の夢を語り、挑戦していけば、たとえ自分の夢が、挑戦が、いつか負ける事があっても、だれかが、もっと大きな夢に挑戦していってくれると信じていた。
次平の敗北に続きます。