のら猫の三文小説

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新しい子猫たち No.1175

2017-06-18 00:22:18 | 次平の復讐

あの会社の社長は、臨時役員会を開いた。臨時と云っても、親会社兼任の役員もいるので、懇談会みたいなものだった


 


反対があっても押し切る積りだった


 


冒頭、総務部長から発言があって、この間の素行調査で訂正があります、以前配布した書類は、お渡しした人の責任で廃棄してください。この間の書類を他人に話はしていないとは思いますが、念のため申し上げます、極めて危険な情報ですから、万一外部に出ると、この会社と漏らした方の今後にも重大な支障が出るとご承知おき下さい


 


どっとドヨメキが出た。あの調査機関は日本では最大の信用力を誇る機関ではなかったか、警察とのルートも深いと聞いているがとの質問に


 


総務部長はこう答えた。


 


そうですよ、あの調査機関は、警察以上の正確さを誇っています、私もそれについて疑いは微塵も持っていません。それを訂正するのに誰かが来たと思いますか、調査関係の業界の重鎮にして、この調査機関の最高責任者ですよ、私風情に深々とお辞儀して、訂正を依頼してきました、皆さん、この状況を考えた時に、前の調査書類がどれ程危険なものかは、判ると思います。前の書類は間違っているだけでなく、とても危険と思って間違いがないと思います。


 


これで、あの若者の昇格に反対していた奴らにとっては、反対の根拠はなくなり、しかも従来言っていた事がとても危険と判った


 


社長の話には、役員会と云っても懇談会のようなものだが、全員一致の結論となって、若者の昇格に臨時株主総会まで直ぐに開かれて、娘婿の若者が 役員に昇格した。


 


次平の復讐 No.28

2012-11-30 10:30:55 | 次平の復讐

お香、次平に会う。



次平は江戸に来ると直ぐにお香に会いに来て、婚礼の祝いを言った。お香は始めて次平と会った。名医で官位も賜ったというのに、まだ若い純粋な青年だった。次平は、鉄平の嫁と言うだけで、私の過去も聞かず、気さくに、丁寧に話をしてくれる。 



こんな人が鉄平を変えたのだ。一人でも自分が直せるものならば、治したいと熱っぽく語るこの人は純粋と善意が、世の中の汚れを全く浴びず、大きくなったような人だ。鉄平はこんな人が、人を殺そうとしていたと言った。本当の事だろうか? おゆきも次平を慕い、細々と世話をしている純情そのもの若い娘と行ってもいい。純粋と純情の夫婦なのだ。

私は違う。世の中をうまく泳ごうとして、盗賊の手先にもなり、人には言えない事もしてきた女だ。付き合っていけるだろうか? お香は、思い直した。私は私なのだ。下品と言われようと、あばずれと言われようと、私は私なのだ。繕っても仕方ない。私なりに、鉄平と一緒に進んでいくしかないのだと、お香は思っていた。 



お香は、今までの髪結いを5年間の期限で、鴻池の指定する者に五百両で貸す事になった。これは、破格の条件であった。売ってもいいとお香はいったが、吉太郎は、お香さん自身の財布と資産を持っている事は大切だと言った。

鴻池の屋敷で、お香の選んだ着物と帯は呉服屋が持ってきた。素晴らしい出来上がりだった。お勘定といっても、結構です。次回はお買いあげ下さい。といって帰った。次ぎに買った時は相当高かった。初めの着物や帯は、鴻池が払ったのか、呉服屋が持ったのか、分からなかったが、お香は、大変な状況に置かれている事は理解した。 



鉄平とお香の式は盛大に行われた。江戸の店は内祝いといって各藩邸や得意先に色々な贈物を配っていた。忠助にとっては、これも商売の手段だった。馴染みの少ない薬屋や医者への販路拡大に利用していた。 



次平は、幕府から江戸での屋敷を賜った事もあり、直ぐに京に帰る事は憚れたし、鉄平夫婦の邪魔をする気もなかったので、鉄平には、創立後の大坂での薬種問屋を見るために、先に大坂に行く事を勧めた。 


鉄平とお香、大坂へ行く。



鉄平は江戸では、お香との話も十分取れず、大坂の薬種問屋や物産問屋を見に行く事を名目に、お香と二人で大坂に向かおうとしていた。忠助は、それは困りますと言って、連絡役と荷物持ちを付けた。連絡役は、宿場についたら、必ず居場所と今後の予定について江戸の店に連絡するようにと厳命されていた。 


次平、京に戻ろうとする。



鉄平夫婦が大坂に去った後、江戸の医院で患者を診たり、江戸城に行ったり、御殿医などとも意見交換したりしていた。田宮と共に黒田公の若君である黒田道直の診察をしていた。

開胸して調べる事は出来ないものの、道直の心臓の異状はほとんど感じられなくなっていた。外科的処置が必要と思ったのに、これはどういう事だろうか、試行錯誤で様々な薬を使用してきたが、田宮と色々と話をした。いくつかの仮案を考えて、試案ではあるがとの前提で各医院と京二と中山に連絡した。

人間の身体の可能性は我々の考えているよりも多様で不思議なものである事を決して忘れてはならないと付記しておいた。江戸の医院で、かなりの青年が医師を志すために医院を訪れ、医院で働き、有為の青年に医学を勉強させるために、長崎に派遣した事もあった。もう長崎だけが西洋への窓口とは言えないものの、青雲の志を持った青年医師には希望の扉を開けておく方が良いのだ。

江戸医院は石原の元に、効き目のある鉄平の薬を使い、医師を増やし、病院は大きくなっていた。病人に取っては命がけの選択なのだ。医師はその思いを受け止められる技術と志が必要なのだ。、各医院でもいくつかの試みをしてみようと思った。

次平自身も再び長崎に行ってみよう。石部との約束の三年は守られそうにないが、やはり行ってみようと思った。禁裏にも帰らなくてはいけない。良庵や医事方筆頭にも了解を取り、おゆきとともに旅に出る事にした。田宮と江戸の医院の筆頭である石原は、相談して長崎行きを希望していた若い医師を1人付けて、次平先生の手助けと連絡先を必ず江戸の医院にするようにと厳命していた。 


空に雲が浮かんでいた。



おゆきと医師2人、荷物役などをつれて旅に出た。途中伊豆の海岸を歩いている時に、海に早苗の顔が浮かんだように思えた。次平は、胸の中で言った。「早苗の敵はこの手で討てず、申し訳ない。こんな事でお前の恨みは晴らせないかもしれないが、その代わり、一人でも多くの患者が助ける事を、私は考えてきた。それしか私には出来なかった」、早苗の顔が頷いたように、次平には思えた。おゆきが怪訝そうにこちらを見た。

すると早苗の顔が急に怒ったような顔になっているように思えた。「ごめんね」と誰に聞かせるともなく、次平はつぶやいた。 



次平の挑戦に続く。


次平の復讐 No.27

2012-11-29 18:28:22 | 次平の復讐

お香、藤一に会う。



鉄平は、お香をつれて、向島の料亭に入った。奥まった離れに座敷が設けられていた。「鉄平さん お香さんでしたね おめでとう御座います」と言って、光次が現れた。「鉄平さんあの人形どうですか。」鉄平と光次はカラクリ人形について話をし、光次は下がっていった。 



料理が運ばれ、料理を食べながらお香は言った。「光次さんと言うのはもしや開かずの藤一では?」

鉄平は言った。「勝二も藤一はもういない。人は変わる。いい様にも悪い様にも。」 



お香は、「物産問屋の話は、何なの? 丹波屋の件とは何なの?」と聞いた。

鉄平は言った。「医院を次平のために作った。薬については、次平が指定する薬を探すのは、大変だし、薬種問屋では混ぜ物や良質でないものもあり、薬代も高かった。それで薬種問屋をやりだした。各地での薬種問屋は、次平の使う薬には、珍しい薬もあるし、今の段階では秘密にしておきたい薬もあり、次平が治療する時には必要だった。

食事が適切でなかったり、又激しい仕事をして、再び病気になる人がいたので、料理屋と口入れ屋などもやり始めた。ただそれでも限界がある事に気づいてきた。

それは仕事の調整だけであって仕事そのものを作りだす必要があると気が付いた。

大坂や江戸での物産問屋をやれば、長崎、福岡、萩、松江など各地での仕事を作り出す事が出来るかも知れない。大坂でやり始めたばかりで、まだどうすればいいのか分からない。

しかしやがて江戸での物産問屋も必要となるだろう。大坂で鴻池と協力して、異なる見方や情報が大切な事もよく分かった。お香の目を役立ててくれないか? 」と言い、丹波屋の件については説明した。「そんな大変な事を私が出来るかしら。光次さんのカラクリ人形はどうなの?」とお香はいった。

カラクリ人形はまだ道楽でしかないが、あんな細工物も今後何か役立つかもしれない。色々な人の経験や意見を纏めてやっていけばいい。善意の人、才能のある人や努力する人と付き合うと自分も少しつづ変わっていく。俺はそれを強く感じている。 

お香 江戸の番頭の忠助は、他の江戸の薬種問屋で働いていた。俺がはじめ送り込んだ長崎の五平は、江戸に馴染めず、忠助を引き抜き、さっさと長崎に帰ってしまった。 各店間の融通や利益配分については、以前からしていた事だが、これほど緻密ではなかったのが、忠助が考え、得意先や店の主立ったものからも出資金を出してもらい、江戸の店は大きくなった

もっとも忠助の取り分はかなり多いが、多くの人から出資してもらっているので、今の店の状況についても誰にでも説明できるようになった。それでみんな頑張れるし、色々と意見も出てくるようになった。江戸がうまくいけば、俺の出資金への利益配分金の一部を使って各店や江戸の医院への出資金とし、それを江戸の店へ出資金とすれば、各店や江戸の医院の経営が安定できると言ってきた。」

お香「でもあんたの取り分は減るんだよ。悪く考えればあんたへの払いを減らすだけかもしれないと考えないの?」
鉄平「厳しく追及しても意味はない。ある程度は仕方ない。それに松江や萩や福岡などの店では、今後はその利益配分で助かる事が出来るし、江戸の医院も安定してきた。江戸はまったく忠助に任していたのに、こんなに大きくなっている。任せる時はみんな任せないと、うまくいかないよ。」
お香「ふーん。あんたも本当に変わったね。あんたの薬種問屋は良質で他より安い事も有名だが、店のものがよく働き、薬屋や医者がよく使うのは、そうした利益配分も効いているのかもしれないね。それに店の状況がはっきりわかる事は良いことだね。次平先生の医院もいいお医者がいるし、薬も良く効くし、貧乏人も治療してくれると評判だよ。もっとも次平先生やあんたの事は知らなかったけど。」

鉄平とお香は、光次の店で何度も話し合った。これからの自分の苦労を思うと、一度決意したが、逃げだそうと思う気持ちを押さえるように、鉄平を求めた。鉄平が自分の中に入っている時の満足感が、鉄平と歩く決意を固めさせた。鉄平は、そんなお香の気持ちを汲み、光次に暫く離れを借りる事を頼み、光次は、黙って離れを貸してくれていた。鉄平を自分の中に入れ、淫らな自分を見せて、自分で動いて、あえでいた。お香は、鉄平に言った。「私は、こんな女だよ。それでもいいんだね。下品な女だよ。それでもいいんだね。」

鉄平は、「そんなお香が好きだよ。」お香は、鉄平に抱きつき、自分の中の鉄平が、お香の身体が、お香の決意を固めさせた。お香は思っていた。「こいつと離れている間に、何人の男と寝た。技を持っている男もいた。だがこんな充実感はなかった。 もうこいつとは離れられない。」 



江戸の店に帰ると、番頭の忠助が待っていた。「旦那 奥の座敷を見てください。松江藩、長州藩、福岡藩、防府藩の江戸屋敷と田宮先生と次平先生の江戸医院と良庵先生から婚礼のお祝いが、届いて居ます。私もちゃんと説明して出来ないし、きちんとした応対が出来ないと店の者には責められるし、薬種問屋のご同業からも問い合わせが続いて、大変でした。良庵先生からは、御殿医筆頭には連絡しておいた。婚礼の日がきまったら直ぐに連絡して欲しいと脅されています。各店には飛脚を出していますが、案内しないと大騒ぎになりますよ。」 

鉄平はお香に言った。「明日でも式をあげようか」、お香「あいよ。」と返した。番頭が慌てて「そんな馬鹿な事を言っては困ります。でも早急にした方がよいかもしれません。一番早い日はいつになるか明日から検討させます。式の出席者についてはあたしに任せてください。一々旦那の確認はとりませんよ。次平先生には早急に連絡してください。」お香は言った。

「この貸衣装 いつ取りにきますか?」番頭は即答した。「既に買い取りました。奥様のお見回りの品は既に運び込みました。」 



「どちらにしても次平先生には、もう一度江戸に来て貰わなければならない。次平先生は今は京に滞在している。早急に手紙を出そう。」と鉄平は言った。 



鉄平は次平宛に手紙を出して、各藩や幕府からの意向や良庵との会談結果などを伝えた後、お香と婚礼を上げるので、江戸に出るように依頼した。その後各店からの連絡を読み、短い返書とお香を嫁として、各店に行き、ゆっくり滞在したい旨を付け加えた。 



結局 鉄平の婚礼は、1カ月ほど後になった。次平は、禁裏の近従にも医事方相談役の就任について内諾をとり、1週間前に江戸に着き、幕府からの屋敷と医事方相談役についてお礼を述べた。松江、長州、福岡各藩については、医事方相談役については、了解し、各城下での屋敷には医学生を置く事の了解を得た。 




次平の復讐 No.26

2012-11-29 08:25:36 | 次平の復讐

お香、鉄平の知人や大物たちと会う。




お香は、覚悟を決めて髪を直していると、番頭が貸衣装屋をつれて来た。

「奥様 取りあえず貸衣装ですが、袖を通した事のない新品を持ってこさせました、お好きなものを選んでください。」と言った。お香は番頭に礼を言って、服を着替えた。ほどなく駕籠が到着し、鉄平とともに、駕籠に乗った。

各藩邸では次平にそれぞれ屋敷を用意している。それぞれ城下に来て遠慮なく使って欲しい。ついては、医事方の相談役になってもらえるように、鉄平から言って欲しいと云うものであった。鉄平はお香を紹介し、私の妻です。よろしくお引き回し下さいと紹介した。

長州や福岡藩では、藩主や若君までぜひ会いたいと言って出てきた。田宮は、次平が幕府から屋敷を賜り、医事方相談役を賜った事についての各方面への挨拶や今後の江戸の医院の運営について意見を交換した。次平の江戸医院も、幕府から何人かの研修生を受け入れる必要があると田宮が言うので、「それは良いことですね。」と言った。

お香を紹介すると、「次平先生はご承知ですか」と言われたので、「次平先生には手紙を書いておきます。」と答えた。田宮も、次平先生も鉄平さんも結婚した。私もいい人をみつけようといった。 



良庵には、次平が幕府から屋敷を賜り、医事方相談役を賜った事について礼を申し上げた。良庵は、今回の決定に至る裏方での動きと今後の動向についての注意などを話してくれた。

お香を紹介すると、良庵は、これで鉄平さんは二人分動けますねと言った。鉄平は「暫くお香とは離れませんので、それは難しいと思います。」と答えた。良庵は「お熱い事ですが、お香さん 貴方は鉄平さん以上になりそうですね。良庵を宜しくお願いします。」と言った。お香は「おからかいにならないで下さい。私は何もわかりません。宜しくご指導下さい。」と言った。 お香は鉄平が、良庵の屋敷に行く前に鉄平の店から届いた「反物と小判」を、こっそり良庵に届けていた事を見ていた。 


お香、鴻池の当主と会う。



最後に夕刻、鴻池の別邸に、お香と共に伺い、お香を控えの間に待たせ、挨拶しようとすると、「鉄平さん、いつ口説いたですか、よくそんな時間がありましたね。親父には早速連絡しておきました。ぜひ紹介して下さい。なぜすぐここにつれてこないんですか?」 



お香が頭下げて、挨拶しようとすると、
「お香さんですね。江戸堀で髪結いをやっておられた様ですが、鉄平さんが髪結いの亭主になれなくて残念ですね。鉄平さんは今は人を助ける仕事をしておられます。鉄平さんを助けてあげて下さい。鴻池吉太郎です。よろしくお願いします。」
と気さくに挨拶された。

お香は、この人は何でも知っていると一瞬絶句したが、「ひもにするつもりが大変な事になりました。何も分かりません。宜しくご指導下さい。」とだけ答えた。「鉄平さんがひもか、さすが鉄平さんの奥さんだ。この人は鉄平さん以上の人になるかもしれません。次平先生は可憐な奥様を御貰いだそうで、鉄平さんはお香さん。これはよくお似合いだ。ご婚礼の日取りがきまりましたら、ぜひお知らせ下さい。次平先生は、帝の賜り物もあり、商人風情の出る幕はありませんでしたが、鉄平さんは商人。今後のお付き合いも宜しくお願いします。」と言われた。

その後鉄平とは大坂の店は順調でなによりだが、鴻池は何も言わないので、出資比率は維持してくれるように確認した。隠居は鉄平の大坂店内で、結局鴻池からの2千両出資されているが、千両はまだ使用しないで残っているし、このままでは初年度から、利益分配金は出資金の2割程度となりそうだし、鴻池の協力なしでも十分やっていけるし、金の無駄遣いになるという声が出ている事が気になっていた。

鉄平は「物産問屋の今後を考えても鴻池との協力は大切に思っている。大坂店の余剰金については、今後の様子を見ながら、運転資金を十分に取り、それでも残る余剰金の相当部分は、その運用は、別途鴻池さんに任せる事で考えている。いずれ源三とも話をしたい。江戸での物産問屋についても鴻池さんと協力して話をして行く事で検討していきたい。ただ手前共の各店では、急に大きくなって人の育成が追いついていない。次平先生の人柄を慕ってきた人と次平先生の治療に協力して大きくなった事を忘れてはいけない。暫くお香と一緒に各店をゆっくり回って考えたい。」と答えた。 



吉太郎はいった。「私もそれはやりたいですよ。鉄平さんに人の育成といわれると返す言葉がない。丹波屋の件はまことに申し訳ない。その上 その後のご配慮には、親父も感心していた。お香さん 髪結いのお仕事は、5年間居抜きで私どもに任せて頂けませんか?今 働いている方には悪いようにはしません。身の回りの運送も私どもに任せてください。明後日にも人をやります。」 

お香は「万事 お任せします。私は明日みんなに説明します。今働いてもらっていく人の身の立つようにお願いします。」と即答した。 



吉太郎は人を呼んで人形を持ってくるようにいい。何か別の用事を言いつけた。「お香さん。仕事の話はこれまで。ちょっと鉄平さんとカラクリ人形の話をします。お香さんには、呉服屋を呼んでますので、暇つぶしして下さい。」といった。 


丹波屋の件



丹波屋の件というのは、大坂の物産問屋での運送で、鴻池の指定した丹波屋という運送屋が、ある物を市価の倍ほど運送料を請求してきた。物産問屋が、うまく行っているのは、鴻池のおかげといわんばかりの態度で、請求してきた。

大坂の物産問屋の内部では、激怒して物産問屋の番頭の理平もさすがに抗議すると言っていたのが、源三にも伝わってきた。源三は人のふりみて自分の鏡とせよと言って、抗議も大人げないし、いいなりにお金を払うようにした。

むしろ、理平から知った鴻池側の河内屋が驚き、ご隠居と相談して調査した。この倍額請求は丹波屋の番頭が自分の金がいるので、密かに倍額にして請求して、差額を手に入れたものであった。そこでその番頭に暇を出し、丹波屋の主人に源三に謝りに行かせた。

その数日後 源三が河内屋に抗議した。「私共の調査では、倍額請求した番頭の子どもが病気に掛かり、医者代がかさみ、鴻池が出資している相手先なら問題ないだろうと倍額請求したもので、私共では高額請求していた医者から子どもに詳しい良心的な医者を紹介して、変えさせた。子どもさんは病状も安定し、番頭さんも差額分を返し、後悔している。そんな事をさせては私共に対して遺恨が残る。手前共は次平先生の治療に役立てる為に、少しでも安価で良質な薬を提供しようと旦那が作った店である。こんな事が手前どもの旦那に知れたら、私が叱られる。もしこのままであれば、私どもであの番頭さんを雇いたい。」 

河内屋は、ご隠居と話し、丹波屋は反省神妙であるとして、暇を取り消して、雇い直したと言うものであった。 



お香は、鉄平の店の番頭といい、吉太郎といい、心配りが尋常でない。こんな人たちと付き合うようになった鉄平に驚いていた。そして鉄平を変えた次平にも会いたくなった。 



お香はそう思いながら、鉄平に恥をかかせない程度の着物も持っておこうと思い、改まった所に合う数点の着物と帯を選んだ。値はいかほどと聞いたが、呉服屋は、奥様のお好みのものを選んでいただければ結構ですと言って値段は決して言わなかった。 



鉄平と吉太郎はカラクリ人形の話をしていた。まるで少年のような顔をして話をしていた。お香は鉄平がより一層好きになった。吉太郎は、一緒に食事をしていきませんかと声をかけたが、鉄平は「まだ新婚なので」と言うと、吉太郎は「野暮でしたね」と言って送り出した。 




次平の復讐 No.25

2012-11-28 17:23:42 | 次平の復讐

鉄平とお香はの仲は急速に進んだ。



男と女の仲に戻り、お香と鉄平は、定期的に話を続けていた。鉄平は京に出かけていたり中断もあったが、お香の事もあり、直ぐに戻ってきていた。

「じゃ今や あんたはお金持ちなんだ。折角私のひもにしてあげようと思ったのに。」とお香は言った。

鉄平はお香に言った。「所帯を持とう。お前の髪結いは、人を雇ってやらせば、いい。そして 旅に出よう。あれの拘わっている事業はここ江戸だけじゃない。長崎、福岡、萩、松江そして大坂に広がっている。

単に金を儲けるだけで広げたのじゃない。困っている人を助けるのじゃなくて、もはや困る事が無いようにしたい。貧しい人には、当座の金をやるだけではだめなんだ。働き場所を斡旋したり、色々と相談に乗っている事も必要なんだ。病気の人には治療や薬が必要な事は勿論だが、病気している時の食事や家族の問題、そして病後の職や食事なども必要なんだ。」と熱っぽく言った。

お香はいった。「あんたは変わったね。」
鉄平は続けた。「人は変わる。いい方にもわるい方にも。おれは盗賊時分、稼いだ金を色々な所に隠して置いたし、地所や金はあった。ただ身体が悪くなり、金を取り出せないまま ほとんど無一文でのたれ死に寸前に、若い医者であった次平に助けられた。次平は善意が服を着て生きているように、俺には思えた。そこで助けて貰ったお礼に、医院を造り、贈った。ただ次平はそこでも、金がある人やない人を分け隔たり無く治療した。金には無頓着だった。そこで、おれは金を管理して、自分の金も追加したりして、薬種問屋を買い取り、薬を安く、自由に使えるようにした。そうしている内に、病気になっている人の飯や仕事が問題になった。そのため、料理屋や人入れ屋などもやるようになった。

暫くすると、おれが誰を助けているのではなく、俺自身が助けられている事に気づいた。それだけでない。善意の固まりと思っていた次平が、許嫁の復讐のために、人を殺そうと考えている事に気付いた。人を助けている人が、自分の手を血で汚そうとしている。

俺はなんとしてでもそれを防ぎたかった。俺が色々と工作している内に、そいつらは自滅してしまった。因果応報があると思うと同時に、悪い事をしてきた人間が助かる道は狭いが、善意の固まりのような人が、突然地獄に入るもしれない。地獄への道は広いと俺は思い知った。 お香 俺と一緒に狭い道に歩いてくれ。


鉄平とお香、結婚する。



お香は、暫く黙っていたが、「あんたは今は大店の旦那。何も知らない良家の娘を貰った方が得じゃないかい。幻の勝二として名前は知る人も、顔は知らない。お手配になった事もない。、あんたの昔を知っている年増の女じゃ後悔しないかい。私は結構焼き餅焼きかもしれないし、浮気は許さないよ」といった。鉄平は、「俺は焼き餅はすきだよ。じゃいいんだね。お前のひもにも魅力はあるが、髪結いは人に任せてくれ。」と言った。お香は直ぐに言った。「人にやったっていいんだよ。お前に一緒になれるなら。」 と鉄平にしがみついた。その晩はお香と共に過ごした。 



鉄平は、お香をつれて、江戸の店に戻った。番頭は走ってきた。

「旦那探してました。松江藩、長州藩、福岡藩のお留守居役様、田宮先生、御殿医の良庵先生、鴻池のご主人からも直ぐに連絡が欲しいそうです。用向きは旦那様以外には言えないようで、書簡をおいて行きました。次平先生や大坂の源三さんからも飛脚が届いていますし、各店からの連絡が届いています。幸三の所の飛脚屋からは、返事を貰いに今朝早くきましたが、旦那様が戻っていないので、返しました。光次さんから人形が届いています。なんですかあの人形は?連絡先を知らせて貰わなくては、困ります。」と強い口調で言った。鉄平は、言った。

「私の嫁になる人を口説いていた。昔付き合っていた人とばったり会った。多少の事は辛抱してくれ。これが私の嫁のお香だ。仲良くしてやってくれ。」と意ってお香を紹介した。

お香は、「お香です。宜しくお願いします」と言った。番頭は絶句していたが、「こちらこそ宜しくお願いします。」と言ったものの、鉄平に「旦那の婚礼は大変な事です。至急準備しますが、それぞれの店にとっても浮沈に拘わる事ですよ。そんなに簡単な事じゃない。少しは前もって話して下さい。私から各店に連絡して置きます。」と言って、手代に、幸三の飛脚屋の番頭をすぐに呼ぶように言った。 



鉄平は、お香をつれて奥に行き、溜まっていた書簡や手紙を読め始めた。お香は所在なげにしていたが、やがて光次からの人形を見ていた。 


溜まっていた書簡や手紙を読んでいた鉄平は、手代や丁稚を何人か呼んで、それぞれ用事といいつけていた。お香に言った。「鴻池というとあの鴻池なの? そんな人と付き合っているの。」

鉄平は、「人は変わるものだよ。お香。俺達も変わらなくては。 俺は色々と挨拶に行かなくてはならない。俺と一緒について来てくれ。」と言った。 



お香は鉄平の店の丁稚に、お香の店に今日は急用が出来て店に行けない旨連絡を頼んだ。鉄平は、鴻池の別邸に人形を2台届けるようにいいつけてから、番頭に言った。

「松江藩、長州藩、福岡藩の江戸屋敷、田宮先生、良庵先生、鴻池の別邸に行く。帰りは遅い。飛脚屋にはあす午前中に来るようにいってくれ。駕籠は買い切りで2丁用意してくれ。来たら呼んでくれ。奥で返事を書いている。」