コシロが死んだ!
香奈は、神太朗がジブトラストに入り、ジブトラストも益々安定的になってきたので、ゆったりとした生活をおくっていた。神子も、大学を卒業した後はジブトラストに入る予定だった。神子は、カミカミで株式投資をして、好調な成績を上げていた。神太朗は若いのに、国内の支援や出資を、良くまとめており、香奈も安心していた。
正子も、神子の株式投資の予測を信頼して、先物にゆっくり取り組んでいた。香奈は、コシロとジブトラストに行き、海外チームの報告を見て指示し、全体的な話を決定して、家にコシロと一緒に帰り、お昼を食べ、コシロと一緒に香奈オフィスからの報告を読み、たまには画廊の人とお不動さんのコレクションの話をしたりしていた。
奈津実たちも大きくなり、奈津実は大学を卒業し、大学院に入った。晩ご飯の食卓も賑やかであった。晩ご飯の後、コシロと一緒に、スイスのコッソリートからの連絡をみながら、チャンスがあれぱ短時間取引して、海外の動向も入手していた。海外のジブトラストも順調だった。
香奈オフィスも瑠璃が上手に運営して、鉱山や油田の利権も取り、安定していた。香奈は、冗談を言って、雑談する程度であった。香奈は益々元気だったし、コシロも不死身のように元気だった。香奈にとっては、穏やかな日々が続いていた。ある日、コシロは、ジブトラストの会長室にかけてある青不動さんに向かって、にゃーにゃーと言って、ジブトラストから香奈と一緒に帰り、何度も振り返った。
青不動さん
「コシロ、いよいよ明日の早朝だよ。こっちの世界に来る事になったよ。今日の晩は香奈とゆっくりしなさい。」
コシロ
「色々とありがとう。今日は香奈とゆっくりするよ。長い間ありがとう、もう会えないね。」
青不動さん
「こっちではいつも会えるよ。お前の子供たちが出来ているよ。又香奈と一緒に暮らすよ。香奈はまだこの世でなすべき仕事が残っているんだよ。コシロもこっちから見ているといいよ。」
コシロが死んだ。やっぱり不死身ではなかった。前日は元気で、香奈に、にゃーにゃーと普段無口なコシロなのに、いつになく声をかけていた。人嫌いで香奈だけには寄ってきたが、抱かれる事はない猫なのに、その晩は香奈に長い間、抱かれて甘えていた。
ジブトラストに一緒に行く時間になっても玄関に来ず、不審に思った香奈が、コシロの部屋に行くともうコシロは、お不動さんの絵の裏でもう冷たくなっていた。コシロは眠るように死んでいた。
香奈は、コシロのお葬式を挙げ、ショックのあまり、ジブトラストを1週間も休んでしまった。香奈とコシロは、60年以上の付き合いであった。香奈は海外によく出かけたが、家に帰るとコシロがいた、香奈にとっては空気のようなコシロだった。そのコシロが突然いなくなった。お不動さんの絵の裏を何度も眺め、涙が出てきた。とても取引や支援の話をしている気持ちにはなれなかった。
予め予定された出張とは異なり、ジブトラストの重要な決定は延期され、いくつかの来客の訪問も延期され、急ぎの話は、正子が取引が済むまでじっと待って、承認を貰う羽目になった。正子は取引の時は静寂な環境の中で、お香を焚いて心を静めて取引しており、さながらお寺の中のような雰囲気の社長室であった。緊急の事で、話できるのは香奈程度であった。
漸く会っても、正子は細かく色々と質問した。正子は神掛かり的な取引をしていたが、やはり天才的な先物ディラーであり、そして自己責任を重視し、他人の弱さや間違いを大目に見る事はなかった。要するにボンクラを相手にしなかったし、失敗や間違いを大目に見る事は出来ない人だった。人にも厳しく、自分にも厳しい人だった。
香奈は人に任せると細かい事は言わなかった。細かい間違いを指摘する事もなかった。文書も何回も書き直して、やっとの思いで、正子の了解をとっても、香奈の意向を確認してねと最後に言われ、管理セクションの常務は、毎日香奈の家に行き、コシロにお線香をあげ、香奈の意向を聞き処理した。これ以上香奈が出てこないと仕事にも影響が出そうだった。親しかった恵に、香奈を慰めるように依頼した。香奈の家でも、香奈は黙って、部屋にいて、みんな言葉もかけられなかった。瑠璃や徹彦も恵に頼んでいた。香奈には、青不動さんも夢の中に出てきて香奈を慰めていた。
恵「香奈さん、大丈夫なの。猫で60年以上生きれば、信じられない程の長生きだよ。本当の大往生だよ。」
香奈「なんと言っても長い付き合いだからね。私とは徹さん以上に長いのよ。歳に不足はないけど、やはりショックだよ。前の晩は、いつも触られるのが嫌な猫なのに抱きついて、ゴロゴロと鳴いていたのよ。いつもいる存在が突然いなくなるのよ。徹彦や瑠璃よりも付き合いは長いのよ。」
恵
「生き物だから、いつかは死ねよ。私たちもそうだよ。」
香奈
「それはそうかも知れないね。コシロの分も頑張るよ。青不動さんにも、猫でも一生懸命、生きたのだからお前も頑張れと言われたよ。」
恵
「そうだよ。頑張るしかないのよ。」
コシロは天才の孤高な猫だった。コシロの助言は香奈にしか判らなかった。コシロの偉大さも香奈しか実感していなかった。そしてコシロは長い間香奈を見守り、香奈オフィスそしてジブトラストも見守っていた。神の子たちが生まれ、大きくなるまで香奈と一緒に
ジブトラストを大きくしてきた。そして神の子たちがジブトラストに入りだして、より一層安定してきた時に、コシロの役割が終わった。まだ猫が世界を支配していると云う事はけっしてなかった。