やっと、本題に戻るが、ヨーロッパの偉いさんが、香奈に恩義を売ろうとしたのも、それなりの目論見もあった。あっさり言えば、ジブの金が目当てだった。噂では、膨大な金をジブが持っている。そしてジブとしての投資判断は香奈なら、即決で出来る。当然、やたらと見舞いににきた。
香奈とヨーロッパの偉いさんたちの密談
この会談では、ジブとしての新規投資が減っていたヨーロッパへの新規投資そして救済投資の話が進んだ。
ジブトラストとしては、海外のジブ法人で、多くの企業に出資しているし、傘下の企業では非上場にしてしまった会社もあった。ジブには金があり、上場して資金の融通を簡単にする必要はなかった。
聡美と神元の会社では、結構大きな会社を買収みたいにして非上場にしてしまっていた。上場のまま、売れなくなって保有している会社もあった。そんな各社にも資金で困れば、金を出し、増資する事も可能だった。
切人も、株式を多く保有している企業では、上場していると、ナンダカンダと情報提供しろとうるさいので、切人系の中核企業は非上場にしてしまっていた。切人は、周囲からアーダコーダといわれる事が嫌いな人だった。
勿論、ジブとして保有している上場企業の株式もあった。その会社が上場を望み、ジブが大した株式を保有していないなどはそうだった。相場で儲けたジブのくせに、上場する事にはそんなに乗り気ではなかった。
香奈特別基金は、まったくジブトラストグループとしての例外中の例外と言えた。正人が節税対策などで、やたらと株式を持ち、従来の経営陣の意向に任せたためだった。
香奈は基本的には、任せた人のやる事には、口出ししなかった。相談は受けるが、そんな事にイチイチ口出ししないのが、香奈流だった。
その頃は、何回目かのEUの危機の真っ最中だった。いつもEUは、小さい国の危機が、他の国に波及し、拡大しやすい体質があった。これは、主にドイツの我侭に起因する危機だった。元々、ヨーロッパでのドイツの経済力は、飛びぬけていた。
通貨統合するからには、ドイツが全面的にバックアップすれば、それで終わりの話なのに、他の国の浪費の後始末に、ドイツ国民の税金を使えるかと言っていた。それなら、通貨統合なんぞせずに、ドイツはマルクで通せばいいとは、誰も言えなかった。それはユーロの崩壊を意味したからだった。
しかし、ドイツは、そのユーロなる通貨を作り、拡大したヨーロッパを大きなドイツみたいなものにして、儲けていた。それにユーロが安くなると、ドイツ自身は、ヨーロッパ以外への輸出の時には、有利だと云う事もあった。いつも、単なる風邪みたいな軽い病気を、肺炎の手前まで悪化させ、ドイツ自身に被害がくるようになって、渋々色々なゴタクをさんざん言ってからでないと救済しない変な国だった。
日本を例にとると、東京で支払った税金を地方のために使うのに、文句を言うようなものだった。東京を支えていた人も企業も地方から吸い上げていたし、さすがの東京もそんな事はあまり言わなかった。
ドイツはヨーロッパで儲けていて、統一ヨーロッパなどと綺麗事をいいながら、他のヨーロッパの国のために金を出すのは惜しむ国だった。
それに欧州中央銀行なる銀行は、遠い昔のインフレをドーダコーダといい、リセッションの防止、景気浮揚、各国の信用問題などのために対応を取らない変な中央銀行だった。それは各国政府の責任とか言った。通貨発行権は、インフレ防止のためとしか考えていない中央銀行だった。
IMFとか世界銀行といった組織はあったが、所詮アメリカのポチみたいな存在だった。欧州で解決が出来る筈と逃げた。大体、債務問題が浮上して、リセッションがドーダコーダと言っている時に、財政再建と称して、国民負担を増やし、政府系支出を減らしていては、景気が上向く筈がない。景気が下がり、消費は更に落ち込み、更に税収が減り、財政状況は更に悪化すると云うスパイラルに入っていた。そのため、事態はいつも相当悪化してから、みんなで慌てて、なんとか処理して、また浮上するといったサイクルを繰り返していた。