香奈は、相場から撤退
香奈は、和子の脅しと諏訪の山荘に地下室を作った事に怯え、無条件降伏した。香奈は欧米では有名な投機筋にまで成長していたが、香奈は和子には弱かった。和子は甘い点もあるが、極めて強引な人だった。香奈もそれはよく知っていた。カナ筋と言われる程の投機筋にしては、和子には簡単に従う、不思議な人が香奈だった。
それに、和子は元々強引だったが、今度は強硬だった。香奈は、香奈オフィスの仕事も実業だけに整理し、アメリカの運用会社に預けていた分もばれるとこまるので、ケイマンに送り、香奈オフィスも当座に必要な分と云って、かなりのお金を置き、一部はシンガホールにこっそり送り、それでも日本には相当のお金が戻ってきた。
シンガポールは、香奈の金庫会社であるが、一応アジアや中東の情報の情報を集めていた。ケイマンは、名前しかない会社で秘密の財布会社であった。香奈は日本にも香奈オフィス以外に自分だけの会社を複数持っていた。色々大変な手続きを細かくして、香奈は日本に戻していた。
戻ってきたお金は、和子が香奈名義の預金にしたり、香奈名義で清美の運用会社に預けた。それでもこっそり残して置いた。徹も和子から云われ、諏訪で静養するのもいいかもしれないと更に香奈を脅した。
一方、由香も宏美たちも全面的に、ビルの仕事は恵に任せていった。お店では由香も宏美たちも名義は残していたので、恵は由香の考えや宏美の考え方も重視しながらも、ビルの管理は統合してやるようになった。宏美と満は新しく出店したお店に重点を置いていた。香奈と由香は、洋治に弟子入りして、健康的な栄養バランスを取った献立を考えていった。三家族とも健康的な食生活になっていった。
和子「香奈には日本にお金を戻さして、私が香奈名義の預金にしたり、清美さんの運用会社にも預けたの。大きな金額だったから、凄く儲けたと思っていたのよ。それでも何か怪しい素振りがあったから、問いつめたらまだお金持っていたのよ。
私名義の機械や貴金属の株を買せたり、私の管理会社に出資させたりしたの。それなのに、まだこっそり海外の会社にお金置いていたの。まったくどこまで稼いだのかね。でも資源開発や機械などが現地法人に出資する時に便利だったのよ。
アメリカも貴金属の会社やお店を出すのにも便利だった。ある程度は香奈の会社の出資にして巻き上げてやった。あの馬鹿は、健康も考えず、又金儲けとか云って相場をやる奴だから。献立も結構、香奈風に変えてるみたいだよ。子供たちにも評判いいわよ。魚料理も焼き魚以外に、グリルとか刺身も考えているわよ。」
美佳
「洋治も香奈さんや由香さんのアレンジを聞いてね。幅が出来たと言っているわ。」
真智子
「確かに健康的な食事になったわ。恵さんはお肉減ったと言ってるけど、夜ももっと頑張れると喜んでいるわ。清彦さんも、和風は食べやすいみたいなの。」
洋之助は、化学も紡績も商会も治部レーヨンも、社長を辞めて、会長になったが、紡績の後継社長には、洋太郎に指名せず、化学でも洋治を後継として指名しなかった。それでも洋太郎は、暫くすると社長になり、洋治も化学で副社長になった。
洋太郎は紡績をそんなに大きくせず、上場もしなかった。「会社は利益を求める組織ではない。人を愛し、人を育て、人の役に立つものでなければならない。利益は存続するために必要なだけだ。」と言うようになった。
化学は関連会社も含めて大きくなったが、洋治は「共存なくして繁栄はない。」と言うようになった。二人とも回りは手を焼いた。化学には利益重視の人も結構いたが、紡績にはそんな人は少なかった。
洋之助には、もっと紡績の社内から、会社の利益率の向上と社内留保の拡充を気を配るように求める意見が来るようになった。洋之助は笑って、「困ったもんだ。お父さんに似た人が二人も出来てしまった。」と言っていた。
ホテルを充実させた俊子か洋服事業を拡大させた有希の紡績入りを望む声も出てきた。洋之助は中小企業の経営指導を自分の個人事務所で行うようになった。利益至上主義の有希も、ご主人様の意向もあって、中小企業の利益を確保しながら、各種製品の普及に努めた。法律問題などは清香がやるようになった。美佳は、デザインなどは後継にほとんど任せ、保育所、託児所、幼児教育や子供病院の運営などに重心を置いていた。
和子「恭助が言っていたよ。洋之助さんの所は、一番うまく行った。」
美佳「洋之助さんは、和子さんの会社はみんな大きくなったし、お金も一杯持っていると言ってるよ。」
和子「私もお金なら結構あるよと言ったけど、恭助はそんな事じゃなしに、洋之助さんは若い頃はお金を儲けたけど、今はみんなの為に働いている。事業も大きくしただけでなく、内容も充実させた。それが一番なんだと言ってたよ。香奈にも儲けるだけじゃなしに、世の中の役に立つ事を考えなさいとお説教していたよ。」
真智子「恭助さんも良いこというね。恵さんでも、この頃は、若い女の子たちの相談にのってるよ。」
美佳「洋之助さんも私も、そんな気はなかったんだよ、洋之助さんは、清香の手助けのために考えたら、いつの間にか、中小企業の相談にのっていたし、清香も勝ち気だから、負けたくないから、頑張っていたら、中小企業の相談おばさんになっていたとぼやいていたよ。
有希さんは自分の趣味で、広げただけだし、私も、自分の我が儘から保育所を広げただけだしね。紡績は又愛の会社になって、どうしようと悩んでいるわ。今時、愛とか人を育てるのは時代遅れと言う人もいるのよ。」
和子「有希さんを役員に入れて、洋太郎さんにもう少し機敏に動くようにさせるのでしょう。俊子さんはなんで断ったの?」
美佳「俊子さんは洋太郎に意見が出来ないのよ。顔見ると何も言えなくなると言って。有希さんは洋治以外では強気なの。その代わり俊子さんには、不動産の会社を見て貰うの。こんな事になるなんて予想もしなかったわ。みんな好き勝手にやっていたのよ。」
和子「それがよかったんだよ。私も恭助や香奈に言ったのよ。一時的な儲けに走らずに、自然に振る舞っていく事が大切だし、人の為とか世の為ではどうしても無理が出るし、飾る気持ちや表面だけ繕うのもいけないと思うよ。恭助もそれはそうだと言っていたよ。」
真智子「自分の仕事の中でやっていくしかできないものね。私も本当は清彦さんとのんびりしたいとも思うけどね、私は医者しか出来ないから、まだ少し、出来る範囲でやっていきたいと思っているわ。」
実は俊子と有希は、話し合い、有希に紡績の役員になって貰った。洋服事業に根強い生地が高すぎるとの意見と紡績の本家意識との融合を考えていた。有希はそんなに深刻には、考えていなかった。紡績と化学の合弁会社からも化学繊維入りの素材の提供も受けていたし、第一高級素材なら高く売ればいいし、中級素材ならデザインやアイディアが勝敗を分けると思っていた。心を込めた生地も一つのポイントだと思っていた。
それよりはシーズン性に甘えを持った販売体質の方が問題だと思っていた。有希は洗濯も出来ないような服も利益が上がれば売りかねない人だったが、ご主人様のお客様大事の意向に背けば、抱いてくれない恐怖もあり、修繕やサイズ直しのサービスも始めた。利益など上がらないと思っていたが、結構利益も上がっていった。洋治は一杯突いてくれたし、有希も満足した。俊子は観光事業やリゾート開発も少し視野に入れていたし、敷地内の土地だけなく、各地の土地の調査も必要だった。
洋洋太郎はそんなに馬鹿ではないが、やはり最高級の品質を維持していく事が生き残る道と考えていた。それにはむしろ、今の路線を維持して、社員の志気を高くしていく事が必要と考えていた。洋治は本気で、共存する事が繁栄の道と信じていた。コンサルティングビジネスがこれからの主流になると考えていた。みんなの夢を結びつけるのが、素材メーカーの営業だと思っていた。
香奈も単に投機だけしていた訳でもなく、香奈オフィスも単に資源の利権だけではなく、資源産出国で民生事業にも少し出資していた。それは利権獲得時の条件だったり、有利に展開するための道具だった。幾つかの産業機械を機械に斡旋したり、プラント業者と手を組む事もあった。
ただ政治体制や規制が突然変わる事も知っていたので、慎重に進めていた。
真理と香奈はこっそり話し合い、思いがけず子供が出来た若い女の子のために、一時的に子供を預かり、どうしてもの時は里親を探す運動を、有志の産婦人科医たちと展開して、資金援助していた。
「小さい命は貴方のものではない。」とのスローガンでこっそり進めていた。香奈は若い女の子に対する啓蒙活動にも興味があった。婦人科検診を進める運動にも参加したし、「やる前につけよう、ゴム。」とか「やったら後は、検診を定期的に」とか言っていた。恵は若い女の子の相談に乗るうちに、若い女の子への啓蒙活動を知るようになり、その活動で香奈と会った。香奈と恵は不思議にも気が合い、恵とは話し合うようになり、共同で活動をして、悩んでいる女の子や若い母親には、少しは役に立っていた。恵はこっそりゴムをあげる事までやっていた。
真智子は、娘もそしてその息子たちの嫁ももっと単純だった。したい、やりたいだけで生きてきた。手厚い託児や保育所などに支えられて、自分の可能性を引き延ばす事ができた。
子供は女だけでは出来ない。妻と子供たちを置いて逃げても、保護責任者遺棄にはならない。旦那と子供たちを置いて逃げても同じだが、なぜか女が逃げ遅れる。サポートする筈の人も責任は問われない。そんなどこかの国とは違い、この家では、お金があるからでもあるが、赤ちゃんや子供を預かり、保育するシテスムが完備していた。そうしたシステムのお陰で、真智子や恵も由香も、本来の能力を発揮する事が出来た。そして一族は、出産する女の自立性を保護していた。そうして、そうした女たちに支えられて、一族は栄えていた。
洋之助は当初思っていた程の莫大な財産にはならなかった。堅実な経営方針の紡績の成長に努力し、頑迷な社内を取り纏め、化学などと合弁会社を作り、発展させていった。それに中年過ぎに、金儲け以外の調整や利益が上がりにくい保育所などの幼児教育、病院関係そして中小企業の振興に時間が取られた。むしろ和子の方が、功一の妻の珠代の遺産も多く、和子自身も事業も広げて儲けていた。
稼いでいた香奈も途中から、「小さい命を救おう」運動や女の子の啓蒙活動を行うようになり、実業やこんな活動に時間が取られた。真理も貴金属の会社を大きくしたが、「小さい命を救おう」運動にも時間が取られた。
もう昔ほど、いい事だけを貫いて行く事が出来ない時代、そして何がいい事かもはっきり分からない時代ではあった。ただ洋之助や和子たちにとって、愛は自分を救ってくれたし、その子たちも守ってくれていた。それは信じていた。子供たちもそれに従って欲しかった。
最初に構想していた粗筋は、ここまでなんですが、これ以降の展開は、少し時間を戻して、香奈が主人公となり、猫のコシロも絡んでくるストーリーになっていきます。