洋之助「結局、株は売らされる羽目になった。金にはなったけど、もう少し持っていたかった。
もう運用して荒稼ぎはする気もなくなったよ。長期的に運用していくよ。みんなにも聞かれたけど、そう言ったよ。山師気分は抜けたつもりだったが、なかなか抜けていなかった事を痛感したよ。お祖母さんはよく知ってたよ。」
美佳「この頃お義母さんも妙子伯母さんも家でのんびりしている事多いでしょう。お祖母さんの話も良く出るのよ。お祖母さんは、お母さんから、若い時から天分に溺れやすいから、注意しなさい、人間はどんな人でも悪の部分持ってる。天分を持っている人は、その悪の部分も強いから、注意しなさいと言われていたらしいの。妙子伯母さんもお祖母さんから言われたらしいよ。
私から洋之助さんにそっと注意しなさいって。」
洋之助「私は父から、何にも言われてないよ。」
美佳「お義父さんは、そんな部分あまりない人じゃない。元々生真面目な人だし、お祖母さんの愛の部分とかお祖母さんの言った事を忠実に守る人だしね。妙子伯母さんは、貴方の事気にしてたよ。でもこの頃真面目になってるから、私からさりげなく言っておきなさいと言われたの。」
洋之助「どうも、ここの家は、極端に別れやすい。私と兄は全然違うしね。姉もおとなしいし、健介さんといれば楽しいと言ってるよ。母は元々張りつめたような感じで父を愛していたので、姉もそんな傾向が強かったけど、健介さんは現実的だしね。その影響もあって、少し穏やかな雰囲気に変わっていったよ。私は家族の中では、いつも違和感持っていたし、時代も儲けやすかった。でもあのまま突っ走っていたら、今は大損してたかもしれない。美佳さんが止めてくれた。」
美佳「私は何も言わなかったわ。」
洋之助「美佳さんは、お祖母さんに似てるから、お祖母さんの言っていた事を思い出す事が出来た。美佳さんが、私の幸運の女神のような気がするよ。」
美佳「でも私は悪党の洋之助さんが好きよ。貴方は貴方よ。ただ自戒しておく事は必要だけど。妙子伯母さんも自分の悪も見ながらも、自分らしくと言ってたよ。私もそう思うわ。私はお義兄さんはいい人と思うけど、緊張するのよ。この間ついに本当に意味で、心臓手術ができたと言っていた。妙子伯母さんやお母さんと話してたわ。次平先生の夢は、やっぱり次平の時代に実現できたと興奮して話していた。次平先生の夢とはなんなの。」
洋之助「曾祖父の次平先生は、心臓の先天的な異常も手術で治したかった。ただ麻酔の方法や血液循環の問題もあって、心臓内の手術はなかなか出来なかった。でも人工心肺で血液循環を迂回させたり出来るようになってきた。妙子伯母さんは、医療装置や機械を使って、心臓の手術もできるようになるだろうと言っていた。一時的に人工心臓も使えるかもしれない。心臓の手術についても医療器械などの進歩で進んでいくと考えているみたい。」
美佳「洋之助さんは、商売と女の事以外も知ってるのね。循環器というのはなぜ? それに心臓手術は戦前にも行われていたのでしょう。妙子伯母さんもしたと言ってたよ。」
洋之助「お祖父さんもお母さんそして兄や姉も医者なんだよ。身体の中を血液は回っているだろ。美佳さんの身体の隅々にも血液は回っているんだ。循環させる臓器だから循環器と言うの。心臓は血液を循環させているから、他の臓器と違って、暫くお休みしてくださいという事が出来ないんだよ。戦前の手術は、心臓の表面や外部の傷を治していたけど、心臓は動いていたんだよ。胃とか腸も大切な臓器だけど、人間はいつも食べてる訳じゃない。ある程度はお休みもできるだろう。そこが心臓と違うんだよ。」
美佳「次平先生はどんな人でも医療出来る事も考えていたのでしょう。一度うまくいったと聞いているけど。」
洋之助「それは一時的で、限定的なものだよ。日本でも、アメリカでも、寄付で無料診療している所もあるでしょう。でも一部の人だけの力では限界がある。お金持ちでもいつもお金有る訳じゃないし、多くの人が助け合う事ができれば、可能になるかもしれない。本当に困っている人もいるけど、中には狡い人もいるでしょう。本当に困っている人を考えていても、狡い人が悪用するかもしれない。厳しくすれば狡い人の悪用を防ぐ事を多少できるけど、本当に困っている人が利用出来なくなる事の方がずっと多いのにね。」
美佳「誰とは言わないけど悪党もいるしね。」
洋之助「僕は、自分なりに、鉄平さんや純子お祖母さんそして多くの人の夢に挑戦していかなければならない。運用したり、株とかの売買で金儲けるだけではなくて、多くの人に仕事と夢を与えるようにしていかなくては。父はいい人だけど、僕も自分の考えを入れて、いい人だけじゃなしに多くの人を巻き込んで、夢を実現していくつもりなんだ。」
美佳「悪党もいい人を助けるのね。」
洋之助「僕はいい人とは言わないよ。でもお祖母さんは悪党の部分も、いい人の部分も持っていた人なんだ。僕は混乱期に金を儲けたよ。でもお祖母さんなら、もっと儲けながら、人を助けてかもしれない。それは分からない。お祖母さんは、大儲けした後の怖さも知っていた。僕は頭では分かっていたけど、実際には抜けきれなかった。美佳さんを好きになったり、偶然にもそうする事が出来ない状態に追い込まれてやっと冷静になれた。美佳さんは私にとって、救いの女神かもしれない。」
美佳「私も夢が出来たのよ。」
洋之助「美佳さんの洋服は僕が広めていくよ。」
美佳「それもそうだけど、別の夢も出来たの。私はあの保育所もおかげで助けられた。もしなかったら、私は大変だった。慶子さんにも話をしたの。私は自分の夢を追いかけるため、そして悪党との生活を楽しむための我が儘だったけど。 今後は、働く女の人がもっと出てくるわ。
夢を追いかける人もいるし、生活のための人もいるし、自分だけの事情を持っている人もいるでしょう。そんな人のために、あの保育所を少し大きくしたいの。私は我が儘な女だから、そんな崇高な思いはないの。でも少しずつ幾つか増やしていきたいの。慶子さんも手伝ってくれると言ってくれた。まだまだ判らない事も一杯あるから、無理をしないで、少しずつやっていきたいの。決して利益にはならないと思うけど。悪党も助けてね。」
洋之助「私も出来るだけの事はするよ。でも女の人が赤ちゃんを、子どもを育てるのは、当然と思う人はいるよ。それに赤ちゃんや小さい子どもを預かるのは、大変だよ。利益にはなりにくいし、難しい仕事だよ。そんな金なら私が稼ぐよ。」
美佳「お金の為じゃないのよ。私のためなのよ。世の中の半分近くは女なの。女だけでは子どもは出来ないわ。子どもが夜泣きしても、どれほどの男の人が世話しているの。少しでも女の人を助けるのは大切よ。今は、この一族のための託児所や保育所でしょ。この一族は女の人も働いてきたわ。働く女の人を助けたいのよ。私は、昔の自分の為に、そして自分と同じように働いていく人の為に、何かしたいのよ。まだどうするかもはっきり判らないけど、どうすればいいか考えていきたいのよ。」
洋之助「美佳さんも単なる不良ではいやになったと言う事か?人にふさわしい服装を考える事も大切だと思うけど。」
美佳「それはやっていきたいのよ。しかし私も何かしたいの、自分のために。託児所や保育所は色々と問題は多いと思う。家の近くになければならないしね。でも私は助かった。一人でもそんな人を応援したいのよ。少しずつしか出来ないけどね。」
洋之助「僕も妙子伯母さんやお母さんとも話をしてみるよ。でも美佳さんがそんな事考えているなんて。」
美佳「やりたいたけの女とでも思っていたの。」
洋之助「そんな事はいってないよ。ただ商売だけで、僕は考える癖があるから、子どもを一杯集め、保育料を高くとれば、儲かるよ。でも子どもの数は安定しないし、緊急の用意もいるしね。ここの施設は結局、乳母や子守の延長だからね。多くの人の子ども預かるのは、大変と思うよ。」
美佳「そんな事は悪党も考えるのよ。利益なんか気にしてないけど、いつまでも赤字ではやっていけないから。」
妙子も洋次郎たちは、託児所や保育所は一時的なものと考えていた。結構経費もかかっていたし、知らない人に庭園の中に入るのも、好まなかった。ただ一族の中で、出産する人もこれからもありそうだった。取りあえず使用者を限定して、英才教育をする幼稚園との一体化を検討していくことになった。洋之助は自分の不動産会社の一つが都心の貸しビルを作り、家賃収入の三分の一を寄付する事にした。慶子も治部病院が内科、外科に深化していく過程で、小児科は置き去りになっていくようで寂しかった。美佳の小児科の専門病院の構想に共鳴して、治部病院と話をして、関連病院として治部小児科病院を洋之助と美佳の協力を得て作る事になった。洋之助は週数回ではあるが、小児科の医院も作り、保育所と幼稚園に併設する事にした。
洋之助「庭も減らされたり、金も要った。美佳さんも悪党だよ。」
美佳「私も、悪党かもしれない。悪党を好きになったから。でも二人で考えて行く事で道は開けるかもしれない。」
洋之助「補填するだけの事業は無理だよ。」
美佳「それは判ってます。でもこの一族の女には助かっているわ。株で損したと思ってよ。」
洋之助「僕は損した事まだないよ。」
美佳「いずれ、損するわ。百戦百勝は無理よ。いくら悪党でもね。」
洋之助「保育所に通う子どもをもう一人、作りたい。美佳さんは反対しないよね。」
美佳「悪党らしい発想ね。溜まってるの。」
洋之助「溜まってるよ。子宮直撃してあげるよ。僕は儲けないと、美佳さんを襲いたくなってくるようだ。」
その日の洋之助は、激しかった。美佳は突かれている内に、意識がなくなりかかった。そして、本当に子宮に直撃されている気がして、記憶が切れた。直ぐに意識が戻った。洋之助が電話を握っていた。
美佳「お義母さんに電話した?」
洋之助「これからかけようとしている所。」
美佳「もう大丈夫。」
洋之助「又泡吹いていたよ。本当に大丈夫。」
美佳「貴方が突きすぎているからじゃないの。本当に出来たような気がする。白い霧の中で鐘鳴ってたわよ。本当に悪い人ね。限度も考えてよ。壊さないで使ってね。いつまでも。」
洋之助「大切にするよ。僕の幸運の女神だから。」
二人は接吻して、抱き合って眠った。
初代の次平の残した各医院は、東京は大きくなっていたが、外科と内科に深化させていたので、総合病院には向かなかった。学校は、別の学校と併合して、新しい大学となった。大阪は、病院は新しい大学の付属病院となっていった。福岡は、製薬の援助で、大学と付属病院になった。それ以外の各地の医院は、製薬が病院としていった。
そして、二代目の次平が、心臓手術も行い、初代の夢は実現した。妙子はより安全な医療器械や医療用品の開発を進めていった。功一郎たちも応援してくれた。
美佳の考えていた保育所と幼稚園は、充実した設備をもつ、保育料が高く、一族及びそれに関係する人たち用が先行した。新しく、保育料を下げた託児所、保育所そして幼稚園を作っていった。美佳自身も服飾で忙しかったので、実際の運営は保育の専門家に任せていた。治部病院は内科と外科に特化していったので、慶子が洋之助や美佳らの支援を受け、作った治部小児科病院に専念していくようになり、結婚した女医などを雇いながら、乳児や幼児を預かる施設を訪問するようになった。
初代の次平の目指していた「だれでも、医療を遠慮なく、受けられるようにする。」そしして、鉄平たちの夢そしてお純の夢である「多くの人に仕事を与え、自分の能力にあって働いて貰い、個人の夢を叶えながら、社会の為に役立つ会社にする」事への挑戦はまだ続いていた。