我が家としては珍しく封切り初日に観賞しました♪
…というのも、WBCのドキュメンタリー映画「憧れを超えた侍たち」を観に行った際に
「ミッション・インポッシブル」「リトル・マーメイド」などと共に、この映画の予告編も流れていて
「春に散る」というタイトルがスクリーンに現れた途端に「あっ!沢木耕太郎さんの…」となり…って
以前に、このブログでも触れさせて頂いたんですが
かつて、甲斐さんが「今、一番会いたい人間」とおっしゃったり
「最近、一番嬉しかったこと」を訊ねられた時に
「沢木耕太郎が甲斐バンドのライブを観に来たこと」とお答えになったということで
学生時代の奥さんが、沢木さんの著書「敗れざる者たち」を手に取って以来
「沢木耕太郎」というノンフィクションライターの方のお名前は、特別なもの(笑)と定着していたトコへ
我が家の購読紙に、沢木さんの「小説」が連載されるようになり
しかも、それは「敗れざる者たち」に収録されている「クレイになれなかった男」
その続編で、沢木さんの代表作の1つである「一瞬の夏」で取り上げられた
プロボクサー・カシアス内藤さんの半生というノンフィクションと「対になる」ボクサーものと
沢木さんご自身がコメントなさっていた作品であり
毎日、夢中になって読み続けていたので「ついに映画化か!」と食いついた次第です(笑)
更に…「40年ぶりに日本の土を踏んだ、元ボクサー・広岡仁一」には佐藤浩市さん
引退を決めたアメリカで事業を興して成功したものの、突然に帰国するトコから物語は始まり
不公平な判定負けに怒り、一度は辞めたボクシングを
ふとしたことで知り合った広岡に「教えて欲しいと頼み込む若者・黒木翔吾」に横浜流星さん
…って、この作品を元に、高倉健さんのために書かれた映画のシノプシス(あらすじ)もあったそうだけど
「自分が演じるのは無理だ」と言われたらしいという話を聴いていたせいで
元ボクサー役は、健さんのイメージが強かったのが
実際に映画を拝見すると「佐藤浩市さん以外には考えられない!」状態に…(笑)
そして、甲斐さんが、そのアクションを大絶賛なさっていた横浜流星さんも
空手チャンピオンでいらしたという高い身体能力を活かされ
見事に「怒れる若者」ボクサーを演じておられたし
…って、この作品のために受けられたプロテストに合格なさったんですよね?
その流星さん演じる若者の対戦相手のボクサー役を務められた窪田正孝さんも
掴みどころのない…というか、今どきの若者風ながら孤高のチャンピオン…といった難しい役柄に
ガチにしか見えないくらい成りきっておられました
ただ、前述の「予告編」の中に、窪田さん主演のホラー映画の予告も含まれていて
その2本の予告に登場なさる窪田さんのキャラクターが、全くの別人みたいで
「ナンか、これを続けて見せられても…」といった気分になり(苦笑)
奥さんがよく、シリアスなドラマに引き込まれていた最中にCMが入った途端
そのドラマの役柄とはかけ離れた、明るい笑顔の俳優さんが爽やかに出て来られると
「ナンだかなあ…」と言ってる気持ちが、ちょっと判ったような気が…(笑)
ともあれ、原作者の沢木さんは、この映画のパンフレットの中で…
「人は、どのように生き切ればよいのかということが、心に浮かぶようになったとき
初めて自分はどのように死に切ればいいのかと考えるようになるのかもしれない
私はこの『春に散る』という小説で、ひとりの初老の男に、生き切り、死に切れる場を提供しようとした
それは、ある意味で、同じような年齢に差しかかった私たちにとって
人生の最後の、ひとつの理想の日々を描くことでもあっただろう
私は、映画の制作スタッフに『春に散る』というタイトルと
広岡という主人公の名前を貸すことに同意した
しかし、同時に、それ以外のすべてのことを改変する自由を与えることにも同意した
というより、むしろ、私がその一項を付け加えることを望んだのだ
文章の世界と映像の世界は、目指すところの異なる二つの表現形式である
映画の制作スタッフが、広岡をどのように生き切らせ、死に切らせようとするのか
あるいは、まったく別のテーマを見つけて提示してくれるのか
楽しみにしている」…とコメントなさっているんですが
「ロクヨン」「糸」「護られなかった者たちへ」「ラーゲリより愛を込めて」などを手掛けられた
瀬々敬久監督は、沢木さんのノンフィクション作品の愛読者でいらっしゃるみたいで
「かつて読んだルポルタージュの要素も含めて
『THAT'S SAWAKI』のような映画を撮りたい」とか
「『敗れざる者たち』の『人間は、燃え尽きる人間と、そうでない人間と、
いつか燃え尽きたいと望み続ける人間の、三つのタイプがある』という一節もテーマに取り入れたい
決して、勝つことだけがスポーツではない
格闘技の中にある勝ち負けを超えた世界も描いてみたかった」と話されていたそうです
ちなみに…谷村新司さんが、アリス最大のヒット曲となった「チャンピオン」をお書きになったのは
「作家の沢木耕太郎さんと雑誌の企画で対談した後
誘われて下北沢の金子ジムへ、カシアス内藤のスパーリングを見に行ったんです
その夜のうちに感じたことを書いたのが『チャンピオン』でした」と明かされたことを知って
我が家では、当時「チャンピオン」の歌詞が、1番で「立ち上がれ」と言ったそばから
2番では「立たないで」になっていることにツッコミを入れていらした方々に
是非とも「クレイになれなかった男」と「一瞬の夏」を読んで欲しいと話したことを思い出しました
さて、ここからは、更に映画のパンフレットを参考に、色んなエピソードをご紹介して参りますので
ある意味「ネタバレ」する部分もあるやも知れず
これから観賞を予定なさっている皆さまは、ご注意下さいませ…m(__)m
この瀬々監督のコメントを紹介なさった星野秀樹プロデューサーも
「春に散る」が出版されるや、すぐに出版社へ映画化したい旨の連絡なさったらしいんだけど
それは、星野さんも沢木さんのファンでいらした上に
「春に散る」で描かれている疑似親子や師弟の関係が
星野さんの「映画を製作するにあたって軸にしているテーマ」だったことと
小説の中の「心を残す場所があったということ。
もしかしたら、人は、それを幸せと呼ぶのかも知れない」という件に感銘を受けられ
「心を残す家族や仲間がいる幸せを、
観る方にも味わってもらえるような映画を作りたい」と、強く思われたからなんだとか…
星野さんが、沢木さんとお会いになった際には、前述の「コメント」と同様に
「小説と映画は異なる表現形式だから」と沢木さんから要望や意見が提示されることはなく
「任せる」と託されたとのことですが
この企画が正式にスタートするまでには、かなり時間がかかったようで
それは「人間ドラマとボクシングという、通常の映画の2本、
あるいは3本分の準備が必要だった」ためらしく
「結果的に6年近くも粘れたのは、それだけ作品に魅力を感じていたからだ」とおっしゃってます
実際に、脚本には何度も改稿が加えられたみたいで
流星さん演じる「黒木翔吾」という若者は、原作では、ボクシングジムの会長の息子だったけど
この映画の中では「物語を人間ドラマの方向へ大きく動かすために
幼い頃に父親が出て行き、母親に育てられた」という設定になっていたり
小説のキーパーソンだった「広岡佳菜子」も「広岡の会ったことのなかった姪っ子」に変わり
佳菜子には、父親(広岡の兄)の介護をしているという境遇が与えられていたり…って
これは、広岡が日本を出て、アメリカへ行った40年前はバブル時代だったのに
久しぶりに帰国したら、兄だけではなく、日本という国そのものが年老いて弱っていることで
広岡が故郷を見る目に、決して郷愁だけではない複雑な想いを滲ませる効果をもたらしたようです
また、沢木さんの「テロルの決算」の中で、17歳の少年が呟く
「立つなら今しかなく、いつだって今しかないのだ」という言葉を翔吾のセリフの中に取り入れ
「若者の一瞬で燃え尽きたいという気持ちと、老齢に差し掛かった者の気持ちを
『永遠の一日』のように対比させようと思った」んだとか…
「人間ドラマ」の部分については、いったん置いといて(笑)
「ボクシング」の部分に関しては、大きな3つの試合シーンと
広岡の古巣のボクシングジム「真拳ジム」でのスパーリングシーン
そして、広岡と翔吾が知り合うきっかけになった「ケンカ(笑)」のシーンがあるんだけど
そのボクシング指導と監修を依頼されたのが、松浦慎一郎さんで
「あゝ、荒野」「ケイコ 目を澄ませて」などでボクシング指導を担当なさったほか
俳優さんとしても活躍されている「日本映画界における唯一無二」の方らしく
瀬々監督も「松浦さんが現れて、日本のボクシング映画は変わったんじゃないですか」と絶賛なさってます
その松浦さんも、沢木さんの作品の愛読者で
NHKのオーディオドラマ「春に散る」に出演されたそうですが
「原作を読んだ時、映像化は難しいと感じた」らしく
瀬々監督には、一番最初に「世界タイトルマッチという、ボクシング界で最高峰の試合で
誰もがテレビで見慣れている設定の難易度」を説明なさったみたいです
確かに、現在は特に「モンスター」井上尚弥選手のタイトルマッチのチケットが瞬殺になるくらいだし
あまりボクシングに興味がない方でも、そのニュース映像を目になさったり
1度くらいは「ロッキー」や「あしたのジョー」をご覧になったことがおありなんじゃないかと…?
ただ、松浦さんは、流星さんから「今まで松浦さんが作ったことのないボクシングシーンにして下さい
そして、プロから見てカットでごまかしてると思われないようにして下さい」と頼まれたことを
「現場に行く度に思い出して気合いを入れました」と明かされ
流星さんの「空手のパンチを、力を抜いてスピードに乗せて打つコンビネーションパンチに変え
蹴りは封印されるため、間合いや重心の位置の変化」を指導なさったり
「ある男」で共演され、撮影後に松浦さんから個人的にトレーニングを受けていらした窪田さんには
「それまでの練習に、ボディの鍛練やスパーリングを入れるなどして強化」され
「プロに匹敵する厳しい特訓」を課されたそうだけど
窪田さんは「流星くんに遠慮されたくない」と耐え抜かれたらしい(汗)
…って、かつて松浦さんが、ミットトレーナーを務められた
元WBA世界スーパーチャンピオンの内山高志さんが、松浦さんに依頼されて、指導に駆けつけられ
内山さんをリスペクトなさっていた窪田さんは
「内山さんに、役者がやるボクシングって、こんなものかと思われたくない」と奮起なさったんだとか…
また、M・アントニオ・バレラさんや村田諒太さんなど、多くのチャンピオンを育てられた
世界的な名トレーナーでいらっしゃる田中繊大さんも参加され
「エキストラボクサー集め」…って、元チャンピオンの山中慎介さんや亀海喜寛さん!?…や
広岡が使うミット、WBAの世界チャンピオンベルトの手配を担当なさったと知ってビックリ!
そこまでリアルを追求されていたとは露知らず(苦笑)
うっかり見逃したお宝映像をチェックするため、もう一度、観賞しようかと迷っております(笑)