ソン・ウォンジェ|論説委員
尹錫悦大統領とキム・ゴンヒ女史が2日午後、全羅北道扶安郡セマングムで開催された「2023セマングム第25回世界スカウトジャンボリー」の開会式に参加している=大統領室写真記者団//ハンギョレ新聞社
尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権の「無能の三角形」が完成段階にある。まともだった船舶や航空機が突如として消えるというバミューダトライアングルのように背筋がぞっとする。韓国という共同体が光復 (クァンボク・独立)以降築いてきた成就と進歩が一挙に無力化しつつある。その間隙を埋めるのは旧時代の古くてみすぼらしい沈殿物だ。
経済と民生の墜落は無能の三角形の底辺を成す。国連貿易開発会議(UNCTAD)が韓国を先進国として公認したのは2021年だ。1964年のUNCTAD創設以来、発展途上国から先進国になった唯一の例だ。それからわずか2年で韓国経済は活力を失いつつある。経済規模は世界10位から昨年は13位に落ち、今年の経済成長率(国際通貨基金の推定では1.4%)は政治危機、国際経済危機、コロナ危機の時代を除けば過去最低水準になる見込みだ。
国民生活はすでに危機に直面している。1万ウォン札1枚では外で昼食をとるのが難しいほどだ。交通費、電気代、ガス代も高騰している。エアコンをつけるのはさらに気が引けるようになった。今年第2四半期の世帯実質所得は昨年同期より3.9%減少。同統計の集計が開始された2006年以降で最大の減少だ。政府はコロナ支援金が消えたという基底効果の影響が大きいと述べている。大したことではないという言い方だ。所得縮小と物価高騰に伴って深まった脆弱階層の苦しみは見えていないようだ。あらゆる富裕層減税で財政が萎縮しているため、真っ先に崖っぷちの国民生活に使うべき金を減らそうとしているのではないか。それが心配だ。
ジャンボリーの失敗があらわにした行政の無能、「前政権への責任転嫁」と「反国家勢力」レッテル貼りが生んだ政治の無能は、三角形の上の2つの辺に相当する。ジャンボリー事態は、2度の五輪とワールドカップを成功させた国の格と国民の自負心に大きな傷をつけた。問題は、わずか5年前の平昌(ピョンチャン)五輪を世界の人々の祭りにした国の力量が、どうしてこれほど惨めに崩壊したのかだ。その間に変わったのは大統領と政権以外にない。
尹大統領はジャンボリー開会式で、キム・ゴンヒ女史とともにスカウト隊員たちの歓迎を受けるという栄誉に浴した。しかし格好をつけただけで、実際のジャンボリーの準備と進行にはあまり関心を傾けなかったようだ。一度でも大統領室に関連省庁や全羅北道などを集めて猛暑対策などを講じたことがあるなら教えてほしい。平昌五輪では大統領府が自らタスクフォースを設置し、現場体験までして極寒対策を立てた。大統領が無関心なのだから関連省庁が素早く動くはずはない。主務省庁である女性家族部の長官は、「現場にとどまれ」という首相の遅まきながらの指示も無視し、18キロ離れた国立公園公団の辺山(ピョンサン)半島生態探訪院のエアコンの効いた宿舎に泊まった。一般国民のインターネット予約を全て遮断し、無料で探訪院を独占使用したと指摘されいる。
さらにあきれるのは、今回も指導部の誰も責任を取っていないということだ。大統領は謝罪も問責も我関せずだ。首相や長官たちは「有終の美」、「危機対応力」を云々しながら逃げ道ばかりを探している。与党は専ら前政権のせい、全羅北道のせいにして、長官を呼んで尋問すべき国会常任委は開催を阻み続けている。無能に続く無責任の宴だ。
国民の反発と怨嗟(えんさ)は野党への責任押し付け、分断で覆い隠そうとしている格好だ。尹大統領は光復節に民主化、人権、進歩勢力に「共産全体主義」のレッテルを貼った。耳にたこができるほど聞いた言葉だ。しかし、どんなものでも繰り返され続ければ嫌気がさすもの。エースリサーチと国民リサーチグループの最近の世論調査では、ジャンボリー失敗の責任は尹錫悦政権(54.4%)と女性家族部(6.7%)にあるとする回答が60%を超えている。
尹錫悦大統領と米国のジョー・バイデン大統領、日本の岸田文雄首相が18日(現地時間)、ワシントンDC近郊の米大統領の別荘「キャンプデービッド」で記念撮影を終え、韓米日首脳会談を行うためローレルロッジへと向かっている/聯合ニュース
三角形の頂点は外交・安保の無能が成す。キャンプデービッド韓米日首脳会談の結果は、中国・ロシアと対立し、日本に密着する尹錫悦印の価値観外交の決定版だった。尹大統領は「非常に特別な会議」だったと自画自賛を続けている。だが得たものが多い日米とは異なり、韓国は得たものはないのに米中衝突の最前線に立つという危険ばかりを抱え込むことになったという冷ややかな評価が相次いでいる。中ロを北朝鮮側に押しやることで、北朝鮮の核問題をさらにこじらせる恐れもある。実際に朝ロ軍事協力の強化で、北朝鮮の核の高度化のリスクはさらに高まるかたちとなった。外交においては国益が至上の価値だ。それを無視して原理主義の価値観を前面に押し出した政権の姿勢は、「尊明事大」ドグマに陥った朝鮮朝後期を思い起こさせる。
無能の水準と退行の速度は超現実的だ。見守る国民の「悲しみの三角形」(ストレスや老化で深く刻まれた眉間のシワ)も急速に深くなりつつある。
//ハンギョレ新聞社
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