えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

・平穏な町

2020年08月22日 | コラム
 帰宅すると軽く吐き気を覚える。むくんだ足から靴を外してマスクを口から剥がし、冷房の効いた部屋に寝転がると口から吐く息がようやく冷える。八月の終わりにも関わらず町中の人々はマスクをつけており、中には色染めの手ぬぐいや模様の入った布で作られたものを服と合わせている洒落た人もいる。人通りの多い商店街やショッピングモールではマスクをしていない人がいないほど感染症の予防は親炙した。併せて七月一日から予定通り開始されたレジ袋の有料化のおかげで、手ぶらで歩く人も減った。皆かばんや薄いショッピングバッグを持って歩いている。

 買ったビニール袋をぶら下げて帰る途中のスターバックスの席が空いていたので、数か月ぶりに店先でコーヒーを飲むことにした。見た目にも涼しそうなレモン味の氷を乗せた水出しコーヒーは売り切れていたのでモカシロップを加えてもらう。甘いものが欲しかった。透明なプラスチックの壁ごしからコーヒーとストローを渡された時、少しだけ違和感を覚えたがそのまま席に着いた。ストローの包み紙を剥がすと、中からボール紙の棒が現れた。

 以前は確かに深緑色のプラスチックのストローだったものが無印良品の紙バッグのようなボール紙の筒に代わっていた。プラスチック削減のための苦肉の策らしい。透明なカップや暖かい飲み物のための蓋を守るためにストローをボール紙に変えることで削減には成功しているものの、ではスターバックスがストローを無くすためにかかった費用や時間に見合ったものは与えられるのか、と考えると、やらなければ罰則や悪評判に晒されるという消極的な理由のほかに見当たるものはない。ストローを口につけると段ボールの味がした。

 町は何事もなくマスクをつけてマイバッグに買い物を詰め込んでせわしなく行き交う。店先には消毒用のアルコールが設置され、その前に一度立ち止まり手を消毒してから買い物や食事をする。コップへじかに口をつけてジンジャーエールを飲み、ボール紙のストローで冷たいコーヒーを喉に流し込む。明確に訪れた変化の町中に張り巡らされている薄い緊張は弾けることもなく、新しい日常として浸透する。

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