えぬ日和

日々雑記。第二、第四土曜更新を守っているつもり。コラムを書き散らしています。

:雨天啓蟄

2019年03月09日 | コラム
 雨が降っていたのでタクシーを使った。金を支払い早足で玄関へ向かう途中、分にも合わない悲鳴を上げていた。足の裏から平たい水風船を踏んだような感触がじみじみとやってくる。恐る恐る足をあげて地面を見ると、手のひらより二回りは大きいがまがえるが雨の路上に蹲っていた。鞄から携帯の懐中電灯を取り出してこわごわ照らす。幸い胴体ではなく手足の水かきを踏んだようで、一見してカエルは無事な様相だった。この近所には蛙が出る。

 近所のどこかに池でもあるのだろうか、何年かおきに見かけている。夏場の夜にぼんやりと散歩をしていると、公園の砂場を取り巻く草むらで向こうさまもぼんやりと電灯を見上げていたりする。背中の毒のおかげで野良猫の牙からは免れているようだ。昼間に見かけることはない。どこかで寝ているらしいが、昼間に見かけたことはないのでわからない。とにかく道路を平然とのし歩きながら近所の土のある庭を住処にしているのは知っていた。三月にしては温かかったせいだろう。今年は二月も温かかった。春雨にふさわしくぬるい雨だった。そうして冬眠から覚めたのだろう。

 懐中電灯に照らされた蛙はしばらくぼおっとアスファルトに座っていたが、そのうちにのそのそと歩き出して数センチほどの段差を億劫そうに乗り越えて近くの家の門の隙間からその家の庭へと這っていった。

 とりあえずは安堵して踵を返そうとすると、かかとを見上げるように先のやからよりも大きいもう一匹のガマガエルがどっかりと座り込んでいた。

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