【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

1年後/『丘の上の牧師館』

2009-01-26 18:28:38 | Weblog
 私が就職を考えていた時代には、“就職活動解禁”は大学4年のたしか春か初夏の頃でした。ところが今では大学3年の冬あるいは秋にすでに就活が始まっているのだそうですね。で、大体きちんと決まるのが4年の春頃。
 ということは、企業は1年後の景気を睨みながら採用計画を立てなければならないわけですが、今のようなご時世ではそれはとっても難しい決断ですねえ。学生の方も、こんなに早く決めてしまって、それから卒論を書くわけですか。
 なんだか、もうちょっと双方によい方法はないかしら。

【ただいま読書中】
丘の上の牧師館』シルヴィア・ウォー 著、 こだまともこ 訳、 佐竹美保 絵、1997年、1553円(税別)

 等身大の生きている人形メニム一家の物語は、基本的に「いかに人間たちに知られずに人形たちが自分たちの生活を維持するか」がテーマとなっていました。しかし、第4巻で一家は全員“死”に、そして復活したらこんどは話が逆転気味となってしまいました。こんどは人間がメニム一家をどうやって受け入れるか、が重大なテーマとなってしまうのです。
 しかし、生きている人形が死んだら(あるい死んだふりをしたら)ただの人形にしか見えない、というところで私は大笑いをしてしまいました。いや、実に当たり前のことなんですけどね。
 生き別れというか死に別れになっていたスービーも一家に合流し、一家は“再出発”のため活動を開始します。まずは自分たちが生きていることを人間に悟られないようにして、それから自分たちの新しい屋敷探しです。
 他方、メニムたちの存在を受け入れようと苦闘する人たちの物語も同時に展開されます。魔法と現実が交差します。ここでも「ごっこ」や「ふり」が重要な役割を果たします。第1巻から続いていた「人形が行うごっこ遊び」は、本巻では人間も自分の世界を壊さないために真剣に行わなければならない行為へと変質しています。ちょっとこのへんは子どもには難しいんじゃないか、と思いながらも私は引き込まれていきました。イギリスの児童文学者はこの辺を描くのが上手い人が多いな、と思いながら。
 特筆するべきは、「家族の愛情」を脳天気に賛美しないことでしょう。愛情は愛情、しかし、嫌なところは嫌なところ。その感情の機微を著者はストレートに、あるいは細やかに描写します。
 そして最後。「それからいつまでも幸せに暮らしました」というおとぎ話の決まり文句が、新しい意味を持って読者の心に響き続けます。このシリーズも拾いものでした。強くおすすめ。