【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

幸福の強迫/『ロザムンドおばさんの花束』

2009-01-13 22:32:09 | Weblog
 自分が信奉するものを他人に押しつけたくて仕方ない人間は、きっと自分の人生に自信がないかなにか大きな不満を持っているのでしょう。
 自分に自信があれば、他人のことにちょっかいを出さなければならない動機が生まれません。自足しているのですから。
 不満がなければ、他人のことに口をはさまなくてもそのまま幸せに生きていけます。
 不幸な他人を幸せにしたい、と思った時、「自分の幸福のお裾分け」を遠慮がちに申し出るか「自分の幸福をお前は受け入れるべきだ」と強迫的に振る舞うか、の分岐点がそこにあるのでしょう。

【ただいま読書中】
ロザムンドおばさんの花束』ロザムンド・ピルチャー 著、 中村妙子 訳、 晶文社、1994年、1748円(税別)

 「──贈り物」「──お茶の時間」に続くロザムンドおばさんの短編集です。
 三冊目にしてやっとわかりました。このシリーズは「小さな奇跡」の本です。日常生活の中、見過ごしてしまいそうになる本当に小さな“奇跡”を丹念に記録した短編の積み重ねなのです。

 「人形の家」……7歳の妹ミランダに「今度の誕生日には人形の家をプレゼントする」と約束した父さんが死んでしまい、そのかわりに自分で人形の家を組み立てようとしているウィリアム少年は、しかしものすごく不器用でした。どうやっても部品が上手く組み立てられません。だけど、人形の家がもらえなかったら、ミランダは死んだ父さんのことを嘘つきだと思うでしょう。母さんは親切な、でもウィリアムの気に入らない男と交際を始めています。そんなときウィリアムが出会ったのは……
 「初めての赤いドレス」……父親が死に、長年勤めていてくれた庭師にも去られてしまった40歳のアビゲイルは、荒れていく庭園を前にして途方に暮れます。そこに現れた青年タミーは、教師をやめて画家になろうと家族を連れてやってきた流れ者でした。彼の絵はまことに奇妙でしたが、庭師としては確かな仕事をしてくれました。アビゲイルは、自分が絶望していたのは、庭にではなくて自分の人生に対してであったことに気づき、赤いドレスを購入します。しかしある日タミーは姿を消します。
 「風をくれた人」……ロンドンの外れに古い家をローンで買って住んでいるイーアンとジルは、汚い庭を何とかしたいと思ってはいますが、大きすぎる木と金が無いことがネックとなって何もできずにいました。唯一の楽しみはたまに週末に田舎に招待してくれる友達の存在。今週末もその招待があり、楽しみにしていたところに、苦手な親戚(イーアンの名付け親)が友人のお葬式でロンドンに出かけるから夕食を食べさせろ、とリクエスト。せっかくの週末が台無しとなった二人ですが……
 「ブラックベリーを摘みに」……子ども時代から青春期まで毎年夏に訪れていた田舎町に20年ぶりに従姉妹を訪れたクローディアは、幼なじみのマグナスに再会します。マグナスは独身のままでした。クローディアは進展のない愛人ジャイルズとの関係に疲れを覚えています。そして田舎の美しい一日。クローディアは従姉妹一家とマグナスとでブラックベリーを摘みます。ところがその日の新聞の社交欄にはジャイルズの結婚のニュースが……
 「息子の結婚」……今日の午後は息子トムの結婚式。夫はスコットランドのホテルの前のコースにゴルフに出かけ、娘たちは美容室へ。ローラはゆったりと過ごすことにします。ローラはトムと、思い出話をしながらあたりを散歩します。
 「クリスマスの贈り物」……一人で暮らすことに慣れて、明日のクリスマスを一人で過ごすことになるのも寂しいとさえ思わないミス・キャメロン(58歳)。彼女の人生は、仕事と両親の世話で過ぎてしまったのです。だけど、遺産が転がり込み、ちょっと変わった隣人に恵まれ、彼女の人生はちょっとした変化を迎えます。それは、財産とか隣人ではなくて、彼女の人生に対する姿勢の変化でした。彼女は気づきます。自分の名前が美しいことに。
 「記念日」……来月で結婚30年を迎えるエドウィナは、子どもたちが次々独立してがらんとした部屋が並んだ家を見て、自分の心ががらんとしていることと同様だと思います。自分の人生にあと何が残っているのか、と。そして結婚記念日に二人は友人に招待されるのですが……

 ロザムンドおばさんは、「小さな奇跡」は人との出会いにある、と言っているようです。「一期一会」と言うのは簡単ですが、もしかして私も今日そういった小さな奇跡に出会っていたかもしれません。見逃さないように気をつけないといけないなあ。