【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

厳罰/『パズル・パレス(上)』

2009-01-19 18:31:01 | Weblog
 厳罰主義で犯罪は減るのかな、とちょっと考えてみました。
 「違法行為で儲けても、罰金でそれ以上取られたり下手すると会社を潰されて大損だから、やっぱりやめておこう」……これはありそうです。
 「死刑があるからこいつは殺さずに半殺しでやめておこう」……これはなさそうです。
 ただし……「酒酔いだと重罰だけど、ひき逃げだったらまだ軽いから、逃げよう」……これはありそうです。

 あら、5秒間の思考実験では「厳罰は犯罪の予防効果がある」は「経済犯に限定」となりました。ひき逃げについてはどうしたもんですかねえ。ひき逃げをさらに重罰にしたら簡単に解決、とも私には思えないので、救命処置を頑張れば一般の刑事事件で自首したのと同じで刑罰を減免、とでもします?

【ただいま読書中】
パズル・パレス(上)』ダン・ブラウン 著、 越前敏弥・越谷千寿 訳、 角川書店、2006年、1800円(税別)

 『ダ・ヴィンチ・コード』で知られるようになった著者のデビュー作です。発表は1998年。
 アメリカ国家安全保障局(NSA)が開発したスーパー量子コンピューター「トランスレータ」は、標準的な64桁のパス・キーの暗号でも数分で解いてしまう能力を持っていました。しかしNSAはトランスレータの開発に失敗したと公表し、その影で全世界の暗号を解き続けていました。しかしそこに緊急事態が。トランスレータでさえ解読できない新しいアルゴリズムを持った暗号「デジタル・フォートレス」が登場したのです。(ちなみにこの暗号の開発者は、被曝二世としてかつ奇形を持って生まれた日本人エンセイ・タンカドです。この設定になにか必然性があるのかな?)
 デジタル・フォートレスを解こうとしたNSA副長官ストラスモアは、その暗号をトランスレータにかけると共に、その解読キーを入手するために言語学の天才ベッカーをスペインに派遣します。ベッカーの婚約者スーザンはNSA暗号解読課主任です。モデル顔負けの美貌とスタイル、さらに知能指数170のおつむ。彼女はストラスモアの要請でNSAにこもり、デジタル・フォートレスの解読とともにエンセイ・タンカドの協力者の割り出しを行います。
 ただ、話が破綻しています。まずベッカーですが、いくら天才の大学教授とはいえ、仮にも諜報機関の端くれのNSAが素人をバックアップ無しで単独で異国に派遣です。それは無茶でしょう。しかも、多言語を自在に操る言語の天才のはずなのに、ちょっとした外国語のアヤ(それも私にもわかる程度のもの)でさえうっかり英語で解釈して「何を言っているのかまったくわからない」とぼやいています。
 スーザンもドジばかりです。オフィスの個人端末のパスワードは定期的に変更するという初歩の手続きもやってませんし、緊急の連絡をするのに直接がだめなら電話、それもだめならメール、といった工夫も思いつきません。
 副長官のストラスモアも変です。いくら緊急事態とはいえ、正体のしれないプログラムをNSAの中枢であるトランスレータにウイルスチェックもせずに(それもわざわざウイルスチェックを強制回避して)かけてしまいます。

 こういったお話の常道で、「悪の手先」はよく考え合理的な行動をするのに対し「正義の味方」は行き当たりばったりで非合理な行動をして自らを危地に追い込みます。その方がスリルが生まれますし、間抜けな敵に勝つよりは強力な敵に勝つ方がカタルシスも得られますから物語の構成としてはよろしいのでしょうが、それがあまりに行きすぎると鼻についてしまいます。
 おっと、NSAが「正義」かどうかも怪しいんでしたね。なにしろ全世界の通信を令状無しに傍受して暗号を解析している組織ですから。「番人を見張るのは誰?」は今も昔も大問題なのです。