【ただいま読書中】

おかだ 外郎という乱読家です。mixiに書いている読書日記を、こちらにも出しています。

理論的には可能だけれど……/『荒野のコーマス屋敷』

2009-01-08 18:39:10 | Weblog
 電柱くらいの大きさの煙草を喫う
 富士山をフラッシュ撮影
 一トンの塩をなめて死ぬ
 日本で失業者がゼロ
 白バイが二人乗り
 詩人のドブネズミ
 数頁の長編小説

 ……あ、最後は現実的に可能でした。「長編小説」というタイトルの短編小説を書けば良いんだ。

【ただいま読書中】
荒野のコーマス屋敷』シルヴィア・ウォー 著、 こだまともこ 訳、 佐竹美保 絵、講談社、1996年、1553円(税別)

 メニム一家の物語第二弾です。第一作の『ブロックルハースト・グローブの謎の屋敷』と同様、衝撃的な手紙で物語の幕が開きます。ブロックルハースト・グローブを取り壊して高速道路を建設する計画があるが、そこから一家を救い出そうという手紙です。この瞬間から私はにやりにやりとしてしまいます。命を持った等身大の人形で構成された一家がこの“危機”を乗り切るためにどのように恒例の“家族会議”を開くことになるか、そしてそこでの決定事項がいかに無力なものであるかが予想できるからです。さて、この窮地から一家はどのように抜け出すのか。知恵と勇気と団結力……ではないことはまず確かです。
 “助っ人”として現れたアルバートは、知恵の人と言うよりは思いやりの人でした。この際、ぴったりの人選と言って良いでしょう。ただ、人形と人間の出会いの場は、やはりこちらは笑ってしまいます。どちらも自分のことに夢中で、相手も同じように戸惑い緊張しているはず、ということに思いが至らないのですから。……これって、人間の世間でも良くあることですね。だけどとりあえず“暫定協定”が結ばれます。メニム一家はまた「ごっこ」や「ふり」を始めてアルバートを驚かせ、逆にアルバートは屋敷の水洗トイレを初めて使ってメニム一家を仰天させます(一家の誰もトイレを使うふり、はしていなかったようです)。
 とりあえずの避難所として、アルバートは一家を荒野に立つ荒れ果てたコーマス屋敷に連れて行きます。しかし慣れない環境での生活は、メニム一家にストレスとなり、屋敷内の雰囲気はとげとげしくなります。今作ではあの冷静なスービーがショックから引きこもりになってしまいます。幸い高速道路の計画は変更となりブロックルハースト・グローブの屋敷は救われますが、その夜コーマス屋敷に侵入者が。
 前作とは違って、“名前をもつ人間”が何人も登場します。そして最後に、ガラスの瞳から本物の涙が二粒流れて本書は終わります。魔法のような本です。魔法的存在が次々登場するだけではなくて、その魅力で読者をこの本の虜にする魔法です。

 2日に書いた『キャラメルの値段』の中に写真が載っていた手で絞るローラーがついた洗濯機が本書にも登場します。うわあ、なつかしい、と私は呟きました。このお話は現代が舞台なんですけれどね。