2007年6月21日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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和声学あれこれ(10)転調 その1 いつ?(形式について)

「和声学あれこれ」を今まで9回に渡って連載してきましたが、いよいよ佳境に入ってきました。そこで改めて、そもそも和声学の最終目的とはいったい何かという疑問が湧いてくると思います。目的が判らないと努力のしがいがありません。
さて、いままで細かく説明してきましたのは、基本的な知識や色々な用語の確認・統一を計り、今後の理解を容易にする為でした。これらの基礎知識をおろそかにしますと今後高度になるにつれてますます理解しにくくなります。目的とするところを知るためにはどうしても必要な過程です。知ってどうなるという思いでは挫折と諦め、放棄の魅力に取りつかれてしまうでしょう。植物は大地から栄養を吸い上げて華麗な花を咲かせます。演奏家も色々な音楽知識を吸収して、味わいのある素晴らしい演奏をします。学問的栄養をつけないと弾くだけの空虚で貧相な演奏になります。

では、その目的とは何でしょうか?
和声学の知識でもって古今の名曲を分析したり、一層の理解を深めて演奏に役だてる事は勿論それで結構なことですし、そのような考えで勉強されてきた人も多いでしょう。しかし私は最終的に「転調の技法」を習得する為の学問と考えています。
和声学は音楽学の一分野に過ぎませんが、理解すればこれほど面白い分野もありません。音楽の進化は和声の進化でもあり、特に転調技法の進化でもあります。時代と感性の発達が和声学を発展させてきたといってもいいでしょう。ジャズやポピュラー音楽も演歌もこの200年以上も前に完成されたいわゆる機能和声をその基礎としています。その後は和声の発展と否定の繰り返しで現在に至っています。是非とも挑戦して習得しましょう。

では、転調についてですが、転調とは曲の途中で調を変える事によって曲に変化を与える事をいいます。もし、転調していない曲を長々聞かされたのでは退屈になってしまいます。部分転調を含め転調していない曲を見つけるのは難しぐらいありふれた事ですので構える必要は全くありません。殆どの曲に転調が含まれています。ですから演奏の出来る方は無意識の内にその技法を体得しているはずです。従って、理解するのもそれほど苦労しないと思います。で、転調の話に入りたいのですが、その前に「形式」(様式ともいいます)について理解しなくてはなりません。なぜなら転調は目的をもって意識的に使われています。むやみやたらに気分だけで転調しても音楽とはなりません。「いつ?どこへ?どのように?」このうち、まず「いつ?」これに答えるには曲の入れものである形式の知識が必要です。形式が判れば大抵の音楽は面白いものです。形式は曲の表現手段ですし、内容の表現でもあります。多様性と統一性を秩序立って混在せしめる大事な約束事でもあります。その構造を知っておくだけでも曲や演奏の理解が深まる事でしょう。

では、今回は形式論から始めます。まずは形式の構造からですが、最も基本的な形は8小節で表現され、これを大楽節といいます。大楽節は2つの小楽節から成り、最初の4小節を前楽節、次の4小節を後楽節といいます。4小節は更に2小節に分割され、動機と呼ばれる曲の基本的な律動を示します。動機を連続すると旋律が出来ます。即ち動機が4つ連なって大楽節ができ上がる訳です。この場合、動機をそのまま繰り返す、違った高さで繰り返す、変形させる、全く違う動機を挿入等の手法で曲を作ります。1小節や半小節・もっと長い小節の時もありますが、2小節の動機はリズムを形成しますので基本と云われる所以です。前楽節と後楽節はよく似ている場合が多いのですが、その時前楽節が半終止して、後楽節で完全終止します。この半終止の時、部分転調(次回説明)することもありますし、後楽節の最初の小節でやはり部分転調して変化をつけたり、属和音系で始まったりします。それ以外のところでは転調する例は無いようです。短い8小節だけの曲ですが、これを一部形式といいます。最小の曲です。民謡や童歌に多い形式です。

更に大楽節を二ヶ繋げたものを二部形式といいます。16小節になります。
この形式では一つ目の楽節の最後の小節で(又は部分転調して)半終止(又は完全終止)して二つ目の大楽節の頭で転調する場合が多いようです。この形式の曲は小品に結構あります。。更に3個の大楽節を繋げたのを三部形式といい、三つ目の楽節は最初の楽節の繰り返し(再現 D.C)する場合が多いようです。24小節になります。従って、真ん中の楽節はまず転調するものと考えていいでしょう。さもないと最初から最後まで同一の調で面白みがありません。まずい曲作りです。応用として16+16+16小節のこの形式の曲が一番多く見受けられます。(ターレガのアデリータやラグリマ等)この一部形式、二部形式、三部形式の構成を歌曲形式又は基本楽式といいます。それ以外のロンド、フーガ、ソナタ、変奏曲、その他多種多様な形式を応用形式といいます。従って歌曲形式をよく理解すれば、他の形式も判りやすくなります。例えば、ソナタ形式は基本的に三部形式の応用です。もっともかなり複雑ですが。
これらの短い曲の中にでも転調する場所やポイントが決められているわけです。
カルカッシやソルの曲から探してみて下さい。色々なパターンがあって楽しい発見になります。参考例を載せておきました。
紙面の都合上、応用形式は述べませんので専門書で研究される事をお勧めします。
次回は「どこへ?(関係調)」についてです。

                          服部修司


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