2006年11月24日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 徳永真一郎 デビューリサイタル

 2006年11月17日(日)、徳島市にある創世ホールにおいて、以前このブログにも紹介させていただいたことのある徳島の高校生、徳永真一郎君のデビューリサイタルが開かれた。今年の3月、学生オーケストラのバックではあったが、高校3年生ながら立派にあの難曲アランフェス協奏曲を演奏して見せた徳永君である。
 当日は朝から雨という最悪のコンディションながら、なんと会場は超満員。補助椅子を一杯並べただけでは足らず、通路と言わず階段と言わず小さな座布団を敷き、席のないお客はそこに座って聴くという、正に異例に熱気をはらんだコンサートとなった。
最近のギターのコンサートといえば、会場を満杯にするどころか、席を半分埋めることすらままならないことが多いのにもかかわらず、今回のコンサートはまったく異例中の異例ではないだろうか。

 彼は小学校3年生の時から現徳島ギター協会会長の川竹道夫さんについて学んできたが、その優しい、むしろ過度と思えるほどの控えめな印象とは大きく異なり、福田進一やオスカー・ギリア、今年はステファノ・グロンドーナのレッスンも進んで受講するという積極的な面ももっている。彼は、それら多くの名匠と言われるギタリストや音楽家の教えを素直に受けとめ、絶えず自分の中に消化させているのであろう。私の受けた感想は、今年4回聴いた彼の演奏の中で、今回のデビューリサイタルでの演奏がずば抜けて良かったように思う。うかがったところ、なんでもステファノ・グロンドーナのレッスンを受けて、猛烈に上達したとのことであった。とにかく今年の1月、初めて彼の演奏を聴いた時とは段違いであった。音楽の表現力が大きく、そして素晴しく豊かになり、特にゆったりしたテンポの曲での歌わせ方など、大変落ち着いた中にも新鮮な表現が見られ、「あぁ!そういう弾き方もあるか!」と驚かされるような超一流と言ってよい音楽になっていた。

プログラム最初の曲は、お得意のセヴィーリャ(第一曲目が!)であるが、あまりの緊張のためか、舞台に出てからなかなか弾き始められないようで、椅子に座ってから、その緊張を自ら静めるのにかなりの時間を要した。しかし一度弾き始めたら、その細い体に似合わぬ図太い音と、爽快なテンポでアルベニスの世界を表現してくれた。後で川竹さんにうかがうと、彼はいつも緊張すればするほどいい演奏をするのだそうだ。特に中間部分、下手をすれば間延びしがちなところが充分歌って、まずその才能の片鱗を見せた。
次のロッシニアーヌ第3番は誠にもって見事という他ない。長大な曲を豊かな感性で、最後まで飽きさせない。それどころか、こちらが息を呑むような緊張感を味わえる瞬間が、ひとつの曲の中で何回あったであろう。あの長い曲があっという間に終了してしまったという感じであった。
次のトローバ作曲ラ・マンチャの歌も、5曲全て作曲者の小粋な歌心が充分発揮された演奏であった。

休憩を挟んで第2部は私の好きなアントニオ・ラウロのベネズエラ舞曲を3曲。なんと小気味のよい演奏であろうか。テクニックも充分で、まったくもって危なげなく弾ききっていた。
圧巻は次のヴィラ=ローボスの5つの前奏曲。どんなに早いパッセージであろうとものともしないテクニックを持ちながら、そのゆったりとした曲に表現されるその「歌」はどうだ。近年彼ほどの年齢で、これほど落ち着きはらった深い表現力のヴィラ=ローボスは聴いたことがない。それほど彼の弾く前奏曲は全て見事の一言に尽きる。この曲に関して今回の彼の演奏は、世界に出して、超一流の演奏家のそれと比較してもなんら劣るところのない素晴しいできばえであったと断言できる。(実は明日22日、大阪において村治佳織さんがヴォーカルアンサンブルつきとはいえ同じ曲を演奏してくれるので、その対比がとても楽しみである)
 最後にディアンスの曲が2曲。サウダージ第3番とフォーコ。これは正に音の洪水。終わった瞬間に、期せずして聴衆の間から感嘆のため息が漏れたのをみても、その凄さが伺われる。

 アンコールは同じくディアンスのタンゴ・アン・スカイ。次いでアルハンブラの思い出。そして最後はおなじみ「禁じられた遊び」。この最後の曲はその師川竹さんが、何としても彼に弾いてもらいたかった曲だったとのこと。この誰もが知っている、ある意味恐ろしい音楽を、彼は何と表情豊かに奏でたことであろう。思わずこちらの目が潤んできてしまうほどの感動を覚える演奏であった。
終了と同時に隣にいた家内の声が聞こえなくなるほどの歓声と拍手。四国は徳島に、輝かしい未来を約束された若者が誕生した瞬間であった。
 尚、今回彼の初リサイタルは、冒頭に述べたように、補助席だけでなく、階段、通路にも人が溢れたほどの盛況ぶりだったのだが,それでも尚多くの申し込みがあり、やむを得ず12月の7日に急遽追加公演の運びとなったのは、なんとも痛快な話ではないか。
そしてもうひとつ讃えられるべきは、この徳永真一郎の非凡な才能を、最初に見た瞬間から見抜き、そして今日まで磨き続けた川竹道夫先生の才能も、また非凡なものであると言わざるを得ないことである。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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