2006年11月13日のブログ記事一覧-ミューズの日記
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<あれも聴きたい、これも聴きたい> 掛布 雅弥ギターコンサート in 加古川

 皆さんは掛布雅弥(かけふ もとみ)というギタリストをご存知だろうか。元々名古屋の生まれで、12歳からギターを始め、田村敏雄、水野良夫両氏に師事。1978年、中電ホールにてデビューリサイタルを開き、当時名古屋ではまだ珍しかったロドリーゴのアランフェス協奏曲を、ピアノ伴奏ではあるが見事に全曲弾き切った。その年、単身イギリスに渡りカルロス・ボネルに師事。その後は東京に戻り各地で活躍してきたというギタリストだ。
 彼とはその78年のリサイタルの直前、ひょんなことで知り合いとなり、拙宅にも来てくれたりもしたが、当時随分音楽のことやギターのこといついて語り合った仲だった。
その後、彼がイギリスに渡ったり、私が大阪に引っ越したということもあって、声を交し合うことも無くなり20年以上が過ぎてしまっていた。

 ところがありがたいことに、何ヶ月か以前、自宅のインターネットで偶然彼のホームページがあることを知り連絡を取ったところ、あたかも雪が解けるがごとく、一挙に20年という年月が消え去っていき、お互いに旧交を温め合うこととなって、今回の11月11日、兵庫県加古川市でのリサイタルに伺うこととなったという次第。(加古川は、神戸の西に明石市があり、その西隣が加古川市)
彼は、ギターの腕前もそうであるが、その控えめな優しい人柄で全国に強力なファンを持っており、今回は兵庫県在住の沢田さんという方のお骨折りで、加古川市にある松方ギャラリーというところにあるホールにてリサイタルが催された。
少し早めに会場を訪れると、タイミングよくリハーサルを終えた彼が、受付のところで一休みされているところであった。20年という人間の一生の間でも、短くはない年月を経て、すでにさまざまな輝かしい過去の実績にもかかわらず、なんの奢りもない昔のままの掛布雅弥が、ほとんど風貌も変わらず、相変わらずのやさしい眼差しで私を迎えてくれた。彼は決して大声では語らない。ともすれば周囲の喧騒の中に埋もれがちなほどの小さな声でしか語らないし、また多くも語ることはない。しかし始まった彼の音楽は、当日雨の中を駆けつけた多くのギター音楽ファンの心に、何か暖かいものを残してくれた。
彼自身、一曲一曲メモを見ながら演奏する曲について丁寧に解説をしていくのだが、その語り口がなんとも彼の人柄をよく反映していて、ほのぼのとしたものが会場に伝わっていく。

当日演奏されたプログラムは、
① ソル/魔笛の主題による変奏
② C,テデスコ/悪魔の奇想曲
③ P.ホートン/4つの小品
④ ヴィラ=ローボス/前奏曲 第4番、練習曲第6番、第1番
⑤ J.マラッツ/スペインセレナーデ
休憩
⑥ S.ラック/クレンビルの主題と変奏
⑦ N.パガニーニ/大ソナタより 第1楽章 アレグロ・リソルート
⑧ I.アルベニス/マジョルカ、朱色の塔、セヴィーリャ
アンコールとして
⑨ I.アルベニス/アストゥーリアス
⑩ A,タンスマン/カヴァティーナ組曲より バルカローレ(舟歌)
⑪ 禁じられた遊び(愛のロマンス)

最初の1・2曲にはまだ硬さが見られ、わずかなミスも散見されたが、ヴィラ=ローボスあたりになると俄然本領を発揮。音の出方からして自信のほどが伺われ、2部になるとあとは掛布節が炸裂。自在に指板の上を駆け巡る左手、多彩な音色を生み出す右手が会場を埋めた聴衆の目や耳を感動に導いたことと思う。
彼の楽器は1928年製のシンプリシオとのことであるが、私にとって初めての楽器の音色は、えもいわれぬ幸福な時間を提供してくれたことは確かであった。
丸く甘い、しかも明瞭な高音、どすの利いた低音。いずれをとっても掛布雅弥は楽器の魅力を充分引き出していた。
会場に来ておられた製作家の松村氏も「さすがに掛布さん」と感動されておられた様子であった。

 コンサート終了後、主催の沢田さんのお誘いもあり、打ち上げをご一緒させていただいたが、やはり20年前の優しい心をもった大変控えめな掛布雅弥であったことがとても嬉しく、いつしか年月の隔たりは完全に埋められた気がして幸せがこみ上げてきた。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)


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