<あれも聴きたい、これも聴きたい> ピアノとギターのデュオ編
ほとんど生まれて初めての経験だと思うけれども、ピアノとギターのデュオを専門でやっているクエンカ兄弟というチームのコンサートを聴いた。
ピアノとギターのデュオなんていうと、ギターのコンチェルトを便宜上オーケストラの代わりにピアノでやるということはあっても、「良く知られた」という条件をつければ、ほとんどオリジナル曲に恵まれないジャンルではないかと考えておりましたが、ある人によると、古典期には随分行われていて、多くはないが、僅かとは言えない程度のオリジナルも存在するものらしい。
しかし、発音方法が、パルスのように急激に立ち上がって即座に減衰してしまうということで似たもの同士のピアノとギター。へたをすると、お互いの欠点ばかりが目立ってしまいかねないこの組み合わせ。あまり好んで積極的にやろうと言う人は少ないスタイルだ。しかも音量の差は月とスッポン。どうやったって水と油になりかねない。ところが、そのピアノとギターを、なんと専門にやろうという変わった人達がこの世の中にいらっしゃった。
当然「ギターにいつものあのPA(SR)を」ということになり、主催者である甲陽音楽学院の依頼により、あれこれ機材を車に積んで、4月の9日(日)、名古屋市中区丸の内にある東建ホールへ行ってきました。
当日は、同じコンサートに出演する酒井康雄君と会場に入り、着いてすぐにシステムをセッティング。もう一人の出演者である西田武史君にも音出しテストをしてもらいましたが、いつものように、オリジナルのパワーアンプとイクリプス712zは絶好調。なんの問題もありません。
しかし肝心のクエンカさん。いつもマイクは使っていないので、必要ないとのこと。一瞬「え?!」と思いましたが、考えてみれば当然。
彼らは普段PAをしないという前提で音量バランスをとって練習してきているため、 ここで下手にギターだけを拡声(SR)すれば、いつものバランスが崩れてしまいます。
ここは一番彼らの腕を信じて、前半の酒井君達ギターのソロのみイクリプスによるPA(SR)を使うこととしました。
ギターのPA(SR)としてはいつもと同様、あまり響かない会場であるにもかかわらずとてもいい響きが得られ、演奏者も満足だったようですが、面白いことにピアノソロの時に、ギター用にセットしたマイクの電源をOFFにするつもりが、ピアニストの方がONの方がいいとおっしゃる。
ギターの音を拾うためのマイクが舞台中央に立っているのですが、そのマイクがピアノの音をわずかに拾って、ピアノの裏側でピアニストに向けてセットしたもう一本のスピーカーTD512からピアニストの耳に届き、とても広がり感のある雰囲気が素敵とのこと。従ってマイクをOFFにしないで欲しいとのこと。。
ピアニストからみれば、普段客席に向かっていく楽器の音が、TD512を通してかすかに自分の耳に届くというわけだ。
すると自分の出している音に存在感が生まれ、安心して弾けるようになるらしい。
これはちょっとこれからも使えるテクニックかもしれません。
特に今回のように、あまり響きの多くないホールの場合、重要なポイントになるようですね。
ところで肝心のクエンカ兄弟さんの演奏は、一言でいうとピアノが上手い。
「それほどまでに!」というほどの弱音でギターのバックにまわります。
聴かされてみると、「なるほど」と心底納得させられ、「プロ」というものを感じます。そこがこのクエンカさんの腕の見せ所で、「PAなんかでごまかさない俺の腕を見てくれ」といったところなんでしょうね。
しかもピアノが出るべきところではしっかりと主張する。
「伴奏とはかくあるべき」といったところで、ピアノ伴奏の必然性を感じさせます。しかし正直言って、申し訳ありませんがギターにはそれほどの必然性が感じられません。クラシックデュオというには、ギターがあまりにもフラメンコ調。
スケールやアルペジオの部分もまるでフラメンコ。
フラメンコギターにはピアノ伴奏などないでしょうから、クエンカさんのギターを聴いていると、どうしてピアノの伴奏が必要なのか、あまりピンと来ないのです。
楽器の音も、少し硬質に過ぎるように感じました。ピアノに対抗して、やはり少し力んでしまうところがあるのかもしれませんが、もう少し柔らかさが欲しかったですね。
アンサンブルにも多少難ありといった感じで、いつもギターが自分の見せ場だけ勝手に走ってしまい、ピアノはおいてけぼりといったところが随所に見られたのも残念。
アランフェス協奏曲の第2楽章や、ボッケリーニの序奏とファンダンゴ、そしてファリャの粉屋の踊りなど、随分ポピュラーな名曲を並べて演奏してくれたのですが、残念ながら聴き続けると、いかんせん「退屈さ」を感じてしまいます。
もう少し「聴かせる何か」が欲しかった。
内生蔵 幹(うちうぞう みき)
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