それでも僕はテレビを見る

社会‐人間‐テレビ‐間主観的構造

スープ4

2013-08-11 19:34:35 | ツクリバナシ
ミノルは、切っておいて大根やキュウリを水と調味料で漬けておき、その間に細切りにしたニンジンを炒め、にんにくやゴマと合わせてナムルにした。

さらに、キュウリも水気をしっかり切り、同じように炒めてナムルにした。

そして、お気に入りの韓国食材の店で買った白菜キムチをタッパーから出して、一口大に切った。

ご飯はもうすぐ炊きあがりそうだ。

弱火にかけておいたスープのフタを開く。

白濁した美味しそうな色に仕上がっている。塩を入れ、醤油の代わりにナンプラーを少々。

具の牛スジは取り出して、別皿に盛る。

サキが目を覚ます前に一通り作業を終えベッドに戻り、サキの髪をなでる。

サキが目を開く。もしかしたら前にもう起きていて、ミノルが来るのを待っていたのかもしれない。

「もうすぐ出来るよ。」とミノルが言うと、

「とっても良い匂いね。」とサキは少し眠たそうに言った。



ふたりでテーブルにつく。

ナムルの野菜とキムチが鮮やかだ。

スープの色もきれいな乳白色をしている。

あとから軽く味をつけたスジ肉も食欲をそそる。

ふたりともあまりお酒を飲まない。けれど、今日はビールを一本だけ買った。

小さく乾杯する。

何に乾杯、というわけでもない。

ただサキが留学したら、もうこんなふうにはいかない。という儚さが、このふたりの食卓の背景にはある。



スープを一口すする。

「美味しいぃ・・・」サキがため息する。

深い肉のうま味。

けれど、決してしつこくない。下ゆでが効いているのだ。

ナムルの歯触りと塩加減も絶妙だ。

「ナムルはひとつひとつの野菜をそれぞれ別々に調理するんだ。

それだけの手間をかけるから、野菜それぞれの味が生きてくるんだよ」

料理の解説をする時のミノルはちょっとウザいけれど、説得力がある。

サキは初めて行った海外旅行先の韓国のことを思い出していた。

大学で韓国人の友達が出来て、そして彼女の家へ泊めてもらった。

韓国では色々なお店で食べたけど、結局、友達のお母さんが作ってくれた料理が一番おいしかった。

ミノルの料理はそのお母さんのレベルに達しているとは言わないけれど、同じくらいおいしかった。

サキはその気持ちをミノルにそのまま話した。

「韓国、行ってみたいなぁ」とミノルは呟いた。

海外、留学、成長。という言葉がミノルの頭のなかに浮かんだ。そして、少し面倒くさい気持ちになった。



食事をしているうちに、またミノルの専門の選択の話になった。

それはひいてはミノルの将来を考えることでもあった。

もちろん、専門の選択で何もかもが決められてしまうわけではない。

けれど、何も考えないで選択できるわけでもない。

今度は冷静に。と、ミノルもサキも思っていた。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿