論文の執筆が苦しい。苦しいときはいつも完全に引きこもりで、他に何もできないのだが、今、どうしても気になっていることがある。
宇多田ヒカルのことだ。
先日、日本のあるラジオ番組でも特集されたが、実際、宇多田のどこがあの当時センセーショナルだったのか。
あるいは、当時気付かれていなかったことはなかったのか。
1999年、その時、僕はまさにR&Bリバイバルが思春期に直撃し、海外のソウル音楽に初めてハマり出した頃だった。
宇多田はメディアのなかで、R&Bの旗手として取り上げられ、僕もよく耳にしていた。
1999年と言えば、鈴木亜美のBe Together、モーニング娘のLoveマシーン、そして小柳ゆきのあなたのキスを数えましょう、などがヒットした。
Be Togetherは、典型的な小室=エイベックス的ダンス音楽。
Loveマシーンは、つんくのメロディをダンス☆マンというソウルおじさんが本気で(超短期間ではあったが)アレンジした、日本的ダンス音楽。
あなたのキスを数えましょうは、まさに歌唱力を全面に出した絶唱系バラードであった。
これに対して、宇多田は99年、たくさんのシングルを出していずれも恐るべき規模でのヒットになった。
First Love, Automatic, Movin'on without You, Addicted to Youなどである。
ここに挙げた曲を全部聴き比べて、僕はひとつの感想を抱いた。
結論はこうだ。
「メロディ(+歌詞)のグルーブが、他のアーティストの曲と全く違う。」
宇多田の曲は、Aメロからサビまで、モチーフとなるリズムが一貫して存在する。
メロディはどの部分をとっても、そのモチーフのリズムが浮かぶようになっている。
歌詞も韻をうまく踏みながら、このモチーフのリズムを活かすように構成されている。
ただし、日本語の歌詞はこのモチーフにぴったりこないこともあるので、イレギュラーな場所で伸ばしたり、アクセントが付いたりしている。
これは言うのは簡単だが、作るのは恐ろしいほど難しい。特に日本人が作るのはかなり難しい。
これに対して、ここに挙げた他のアーティストの音楽はそれが無かった。
モチーフとなるリズム、というものがそもそも存在しない。
例えば、Loveマシーンは前拍で手拍子しても、裏拍で手拍子しても、どうやっても合う。
Be Togetherもそうだ。ノリはいいが、リズムに一切のグルーブがない。
あなたのキスを数えましょうも全く同じ。メロディにシンコペーションは沢山出てくるが、グルーブ感は一切ない。
だからダメな曲というわけではない。
ここは大事なところだが、だからダメなのではない。
日本人はそういう種類のリズムが好きだから(あるいは日本語にぴったりくるリズムがそうだから)、そういう曲こそ好むのかもしれない。
しかし、グルーブ感の強い曲は人間の本能に訴えかけるので、聴き続けると気持ち良くなってしまう。
ここがソウルの恐ろしいところなのだ。グルーブ感は聴き続けたくなる中毒性を持っているのである。
宇多田の曲にはそれがはっきりある。その曲にもある。
そのことを確かめるべく、僕は素人がカラオケでカバーしたバージョンも聴いてみた。
ひどい。
歌が下手なのではない。発声が良い子はいっぱいいる。
でもひどい。
なぜか。
リズムが完全に取れていない。
モチーフとなるリズムが認識できていないので、どこで伸ばして、どこでアクセントを付けて良いのか分からないらしい。
そのため、リズムがつっけんどんになっていて、全く乗れない。グルーブが死んでいるのだ。
Loveマシーンでも、他の曲でもそんなことはなかった。はっきり言って、リズムが難しくなからだ。日本人に親しみやすいリズムだからだ。
宇多田の曲は、完全に洋楽的なグルーブをもった「メロディ」が最初から最後まで一貫していて、なおかつキャッチーだった点で、それはJPOPにおける黒船だったのではないか。
それは日本人アーティストが戦っている日本語リズムの壁を、帰国子女だからこそ超えられた可能性がある。
もちろん、最良のコンポーザーの才能があったからこそではある。
しかし、日本の様々な良質な作曲者群と決定的に違うのはその点ではないか。
では、それまでそうした日本語の壁を超えられたアーティストは存在しなかったのか?
いや存在したはずだ。たとえば、ゴダイゴは英語でオリジナル曲を作るという掟破りの技を使いながら、ヒット曲を出した。
宇多田に先駆けて、90年代、日本語のリズムを克服しようとしたのが、HipHopグループのキングギドラだ。彼らも英語に堪能なアーティストだった。
おそらく、他にも日本語を工夫したアーティストがいたはずなのだが、今のところ未確認である。
JPOPのソウル音楽史はいつか時間ができたら、少しずつやりたいと思っている。
またその時までごきげんよう。
宇多田ヒカルのことだ。
先日、日本のあるラジオ番組でも特集されたが、実際、宇多田のどこがあの当時センセーショナルだったのか。
あるいは、当時気付かれていなかったことはなかったのか。
1999年、その時、僕はまさにR&Bリバイバルが思春期に直撃し、海外のソウル音楽に初めてハマり出した頃だった。
宇多田はメディアのなかで、R&Bの旗手として取り上げられ、僕もよく耳にしていた。
1999年と言えば、鈴木亜美のBe Together、モーニング娘のLoveマシーン、そして小柳ゆきのあなたのキスを数えましょう、などがヒットした。
Be Togetherは、典型的な小室=エイベックス的ダンス音楽。
Loveマシーンは、つんくのメロディをダンス☆マンというソウルおじさんが本気で(超短期間ではあったが)アレンジした、日本的ダンス音楽。
あなたのキスを数えましょうは、まさに歌唱力を全面に出した絶唱系バラードであった。
これに対して、宇多田は99年、たくさんのシングルを出していずれも恐るべき規模でのヒットになった。
First Love, Automatic, Movin'on without You, Addicted to Youなどである。
ここに挙げた曲を全部聴き比べて、僕はひとつの感想を抱いた。
結論はこうだ。
「メロディ(+歌詞)のグルーブが、他のアーティストの曲と全く違う。」
宇多田の曲は、Aメロからサビまで、モチーフとなるリズムが一貫して存在する。
メロディはどの部分をとっても、そのモチーフのリズムが浮かぶようになっている。
歌詞も韻をうまく踏みながら、このモチーフのリズムを活かすように構成されている。
ただし、日本語の歌詞はこのモチーフにぴったりこないこともあるので、イレギュラーな場所で伸ばしたり、アクセントが付いたりしている。
これは言うのは簡単だが、作るのは恐ろしいほど難しい。特に日本人が作るのはかなり難しい。
これに対して、ここに挙げた他のアーティストの音楽はそれが無かった。
モチーフとなるリズム、というものがそもそも存在しない。
例えば、Loveマシーンは前拍で手拍子しても、裏拍で手拍子しても、どうやっても合う。
Be Togetherもそうだ。ノリはいいが、リズムに一切のグルーブがない。
あなたのキスを数えましょうも全く同じ。メロディにシンコペーションは沢山出てくるが、グルーブ感は一切ない。
だからダメな曲というわけではない。
ここは大事なところだが、だからダメなのではない。
日本人はそういう種類のリズムが好きだから(あるいは日本語にぴったりくるリズムがそうだから)、そういう曲こそ好むのかもしれない。
しかし、グルーブ感の強い曲は人間の本能に訴えかけるので、聴き続けると気持ち良くなってしまう。
ここがソウルの恐ろしいところなのだ。グルーブ感は聴き続けたくなる中毒性を持っているのである。
宇多田の曲にはそれがはっきりある。その曲にもある。
そのことを確かめるべく、僕は素人がカラオケでカバーしたバージョンも聴いてみた。
ひどい。
歌が下手なのではない。発声が良い子はいっぱいいる。
でもひどい。
なぜか。
リズムが完全に取れていない。
モチーフとなるリズムが認識できていないので、どこで伸ばして、どこでアクセントを付けて良いのか分からないらしい。
そのため、リズムがつっけんどんになっていて、全く乗れない。グルーブが死んでいるのだ。
Loveマシーンでも、他の曲でもそんなことはなかった。はっきり言って、リズムが難しくなからだ。日本人に親しみやすいリズムだからだ。
宇多田の曲は、完全に洋楽的なグルーブをもった「メロディ」が最初から最後まで一貫していて、なおかつキャッチーだった点で、それはJPOPにおける黒船だったのではないか。
それは日本人アーティストが戦っている日本語リズムの壁を、帰国子女だからこそ超えられた可能性がある。
もちろん、最良のコンポーザーの才能があったからこそではある。
しかし、日本の様々な良質な作曲者群と決定的に違うのはその点ではないか。
では、それまでそうした日本語の壁を超えられたアーティストは存在しなかったのか?
いや存在したはずだ。たとえば、ゴダイゴは英語でオリジナル曲を作るという掟破りの技を使いながら、ヒット曲を出した。
宇多田に先駆けて、90年代、日本語のリズムを克服しようとしたのが、HipHopグループのキングギドラだ。彼らも英語に堪能なアーティストだった。
おそらく、他にも日本語を工夫したアーティストがいたはずなのだが、今のところ未確認である。
JPOPのソウル音楽史はいつか時間ができたら、少しずつやりたいと思っている。
またその時までごきげんよう。
脳科学の世界では、日本語ネイティブとポリネシアンだけが、音楽を左脳(言語脳)で聴くようになると言われていますが、このあたりも関係があるのかも知れませんね。