思想家ハラミッタの面白ブログ

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粒子法

2010-01-04 10:16:43 | Weblog
粒子法の特徴の1つは格子生成が必要ないということである。これにより3次元複雑形状における
格子生成の労力が大きく軽減される。自動格子生成技術も研究されているが、例えば未だに任意の
3次元空間を六面体要素だけで自動分割するアルゴリズムは見つかっていないなど、格子生成は
数値シミュレーションの実行者にとって大きな負担であることに変りはない。計算精度は生成した格子に
依存することもあり、格子生成は計算の中身を熟知したエキスパートによる手作業とならざるを得ない。
格子生成を必要としなくなれば、エキスパートでなくても数値シミュレーションを「道具」として
使いこなせるようになり、真の「実用化」の域に達することができる。

もう1つの特徴は、連続体の運動が粒子の運動によって表されるため、界面の大変形のみならずその
トポロジーまで変化する場合にも適用することができることである。界面の大変形を伴う現象とは、
例えば、自由液面を有する流れ、気液二相流、融解・凝固などの相変化を伴う熱流動、
流体と構造物の相互作用、などが挙げられる。こうした中には従来の差分法などでは解くことが困難であるが
、数値シミュレーションを必要とする重要な現象が数多く存在する。

自由液面に関しては、原子力では高速増殖炉の冷却システムに関する様々な問題がある。高速増殖炉では
現在液体ナトリウムが冷却材として用いられているが、これは沸点が高いため、軽水炉とは異なり常圧で
用いる設計になっている。そのため、原子炉容器、ポンプ、熱交換器などの流体機器内にはナトリウムの
自由液面が存在する。そして、地震時の液面振動、渦などが生じてガスを巻き込む現象、液面振動と
構造物の振動が共鳴してしまうこと、強制循環の流れによって液面振動が自然に発生してしまうこと、
など、様々な課題がある。また、土木工学、海岸工学、船舶工学などでも、自由液面を扱う必要がある。
例えば、風波や津波などが海岸構造物に与える影響を評価しようとすれば、波が砕け散る砕波を扱わ
なければならない。

気液二相流は原子力における熱流動の基本である。すなわち、原子力発電では水から蒸気を作って
タービンを回すことで電気を起こしているのであるから、沸騰を伴う気液二相流というのは運転中は
必ずどこかで生じている。しかしながら、気液二相流は界面を介して水と蒸気が相互作用しながら
運動する現象で、水と蒸気の混合比によって気泡流、スラグ流、液滴流など、流動様式が変化する。
従来の数値シミュレーション技術では、こうした流動様式を全く解けないので、日常目にするような
「やかんでお湯が沸く」といったような現象さえ未だに計算できない。

相変化を伴う熱流動問題は、現在の原子力工学において研究が精力的に進められている苛酷事故に関連して
数多く存在する。苛酷事故とは、旧ソ連のチェルノブイリや米国のスリーマイル島での原子力発電所で
起きたような、想定事象を越えた事故を指す。この場合、1.炉心が溶け、2.圧力容器底部に移行し
、やがて圧力容器底部が破損すると、3.格納容器床上に落下する、と考えられている。原子力発電所では
環境に対する障壁として格納容器があり、これが破損しなければ苛酷事故であっても環境への放射性物質の
大量放出を防げる。そのためには、上記1,2,3の過程を予測しなければならないわけだが、
これらは炉心や構造材の溶融・凝固、冷却水の沸騰などの相変化を伴った複雑な熱流動問題である。

流体と構造物の連成問題では、原子力では高速増殖炉「もんじゅ」における温度計さや管破損が
よく知られた例であろう。これは、配管内部につきだした細長い温度計さや管の振動が流れによって励起され
、繰り返し応力により破損に至ったものである。この場合、さや管の動きはあまり大きくないので
界面移動量も小さく、従来の差分法などで既に解かれている。しかし、これ以外にも、例えば、
流体の衝突力による構造物の破損、鳥が羽をはばたかせて空を飛ぶことや、土砂が家を押しつぶす過程など、
大変形を伴う流体と構造物の相互作用問題は多い。

固体の大変形も解きにくい問題である。やわらかいもの、例えば豆腐のような食品、ゴム、生体などでは
大変形したり、切断されたりすることがある。鉄のような金属であっても、亀裂進展による破壊現象、
高温にさらされた場合のクリープといった大変形問題もある。

粒子法によって上記のような様々な複雑問題が数値シミュレーションで、できるようになる。