五月晴れの空だが、秋の青空とはどこか違う。風が強くてバラの枝が大きく揺れている。私は部屋の中から、吹き荒れるルーフバルコニーを眺めながら後悔の念に駆られた。「天空の花園」を作ろうと、春にはチューリップを、夏から秋にかけてはサルビアを育ててきた。
それだけでは飽き足らず、バラやアジサイ、ツバキやキンモクセイ、ミカンやディーゴ、その他にも花の咲く樹木を鉢植えで育ててきた。けれど、強風に煽られて悲鳴を上げている草木を見ると、申し訳なくなる。
自分の満足のために、花たちにこんな残酷な目に遇わせてしまい、なんという勝手なことをしてしまったのかと思う。自己嫌悪から少しずつ鉢を減らしてきたが、目の前にあるこれらの花たちを思い切って処分できないでいることも確かだ。
ジャスミンが風に揺られている。ジャスミンはフィリピンの国花で、花言葉は「永遠の愛」、漢字では「茉莉(マリ)」と書く。小説家・村山由佳さんの作品『天使の柩』の主人公の名前だ。フィリピン人の母は幼い茉莉を残して家を出て行ってしまった。
息子を溺愛する祖母は嫁を憎み、いびり出したのだ。14歳の孫娘にも「いやらしい身体をして、お前には母親と同じ売女の血が流れている」と言い続けてきた。嫁に逃げられ父親は、娘の部屋にカギをかけてしまう異常な家族の中で、茉莉は絶望的に生きるしかなかった。
村山さんは作品のなかで、「不幸なんてものは、こっちがどんなに準備してたって、それとは関係なく降りかかるもの」と言わせている。「個人と個人の出会いこそが人生において最大の可能性であり、希望である」(本書の解説)。あなたとの偶然の出会いは、私には必然だったのだ。