その人はどういうツテで私の所に来たのだろう。身体のがっちりとした男性で67歳だった。親の介護のため正社員を辞め、派遣会社に登録して働いてきた。理由は言わなかったが妻子とも別れて親の面倒をみてきたようだ。「精いっぱい、やれることはやってきた」と介護がどんなに大変かを語った。ひとしきり聞いた後、「それで、どういう話ですか」と訊ねた。
男は「これを見てくれ」と市役所から送られてきた国保の滞納金の明細書を示し、「介護に追われて後回しにしていたことは事実だが、この利息の部分は一体何なのだ」と言い出す。「払わないと言っているわけではない。払うつもりだが、未納金の半分も利息を取るのはまるで高利貸しではないか。弱いものいじめにもほどがある」といきり立つ。
「役所の担当に、どうしてこんなに利息を取るのか、説明して欲しいと怒鳴ってやった」と言うので、「役所はどう言っているの」と聞くと、「法律で定めたものだからとしか言わない。法外な利息だと思わないかと問い詰めても、私の立場ではなんとも言えないと言うばかりだ。あんたも公務員なら、こんなに高い金利はおかしいと市長になぜ言わん。市長も市民のために国に言うべきだと話しても全く聞く耳がない」と言う。
窓口の職員は怒鳴られても自分の一存で変更することは出来ないし、市民から正しい指摘があっても上に具申するには勇気がいるだろう。そう話すと「だから、ダメだ。市民のために働こうという気持ちがない」とまで言う。これでは堂々巡りなので、「あなたはどうしたいの?」と聞くと、「滞納金は利息も含めて一度に払う。しかし、こんな高い利息は納得できない。裁判に出来るか聞きたい」と言う。
「裁判に訴えることは出来る。けど勝てないでしょう。それより、生活に困っているのだから、払う意志を示して分割にしてもらったら」と提案するが、「それでは不正義を認めることになる」と頑固に拒否する。これほど正義感が強い人は紆余曲折の人生だっただろう。それは見事かも知れないが、家族は困り果てたことだろう。さて、どうするか。