猪瀬東京都知事が辞任した。醜態をさらけ出した末に、辞めるのは余りにも情けない。男は権力の座に就くと執着する見本のようだった。今日は1年前に猪瀬さんが知事選挙で当選した日だという。そんな皮肉な巡り合わせになったのも、「政治家としては素人だった」訳ではなく、金銭に清廉であれという自分への戒めがなかったからだ。権力もなく金も持たない清廉な人は、決して金銭に囚われない。目の前に札束を積まれても動じない。猪瀬さんは副知事に抜擢され、自分を見失ったのだと思う。
5000万円の金を提供してくれた人を「親切な人だ」と思ったと言う。普通の感覚の人なら、どうして出してくれるのかと考えるだろう。猪瀬さんが言うように、落選したら生活に困るから借りたなら、5000万円も何に使うのか。どうやって返すつもりだったのか。そもそも5000万円は選挙戦に使う以外には使いようがないはずだ。知事選挙にそんなにもお金をかけること自体が不思議だが、実際はもっと必要だと解説する人もいる。そんな選挙をやっているから、いつまで経っても政治家は金が切れないのだろう。
それにしても釈明や謝罪の報道を見ていると呆れてしまう。お詫びの気持ちなど微塵も感じられないのはきっと、本人自身が「誰でもやっているのに、見つかったのは運が悪かった」としか思っていないからだろう。猪瀬さんは知事選で、これまでのトップという434万票を獲得した。オリンピック誘致の成功もまるで自分が「やった」と言わんばかりだった。選挙も誘致も、彼を助けて動いてくれた人々がいて成功できる。トップの座に就くと、そんな当たり前のことまでも忘れてしまうようだ。
議会で追及を受ける冒頭で、「私の1年間の報酬を受け取らない条例を提出する」と言ったけれど、その額は2600万円だという。落選したら困るからと5000万円を借りた人の金銭感覚は相当におかしい。知事という椅子に座っていれば、お金はどんどん集まってくるということなのか。前の石原慎太郎さんといい、猪瀬さんも文化人の出身だが、ふたりとも金銭感覚は共通して普通ではない。さて、もう知事選に誰が出るとウワサが飛び回っているが、少なくとも清廉潔白な人物であって欲しいと思う。