友々素敵

人はなぜ生きるのか。それは生きているから。生きていることは素敵なことなのです。

ジュディ・オングと中島潔さん

2012年07月11日 20時46分47秒 | Weblog

 古川美術館でジュディ・オングの木版画展を観てきた。才能の豊かな人は何をやってもその力を発揮する。ジュディ・オングの歌『魅せられて』は、メロディーとともに羽を広げた衣装でよく覚えている。版画の技術も素晴しく、趣味で作っていますという域ではなかった。空間の扱い方が特に秀でている。履歴を見たら、1983年に日展に初入選していて、2005年には特選に輝いている。現在は日展会友で白日会正会員とあったから、プロの版画家である。

 ビデオルームでジュディ・オングの版画制作の過程を上映していたけれど、作品作りのための機能を充分に備えたアトリエだった。スタッフも何人かいて、刷り上がりの具合を相談しながら仕上げていた。1枚の下絵からどのように版木に写して掘っていくのか、その企業秘密のような部分が知りたいと思った。作品はかなり大きなものだから、全体の感じや色を載せた時の微妙な具合を、彼女は目を見張って指示していた。版画は下絵どおりというよりも、摺りだして行くバレンの力の入れ方や動かし方で、下絵にはない「いい具合の作品」になっていく。そのためにどうやっているのか、そこが見たかった。

 もうひとつ、松坂屋美術館で行なわれていた中島潔さんの京都清水寺の襖絵など作品を並べた『生命の無常と輝き』展を観てきた。中島潔さんは子どものいる風景が印象深い作家だが、作品展を観たのは初めてだった。中島さんは私よりもひとつ年上だった。佐賀県の高校を卒業した後、伊豆下田の金鉱で温泉掘りとして働き、独学でデッサン力を身につけていった。新聞にカットを投稿し、それが縁で東京の広告会社に就職、イラストレーターとして活躍する。ところが28歳の時に、半年間パリで放浪している。美術学校や美術館巡りをしていたそうだ。

 作品を見ると、水彩絵の具で描いているけれど、それだけではないように思った。鉛筆の下書きがそのまま残っている作品があるが、ペンで輪郭された作品もある。絵の具が日本画のように盛り上がった作品もある。私は思わず監視役の係りの人に、「絵の具は何を使っているのでしょうか」と聞いてしまった。その人は「水彩絵の具です」と教えてくれたけれど、どうもそれだけではないので、作品の一つひとつをじっくり見て回っていたら、先ほどの係りの人がやって来て、「冊子の後に作品の解説がありますよ」と教えてくれた。そこで冊子の中では一番安い3千円のものを買ってきた。

 中島さんの源氏物語絵巻は、人物の顔などは童子の顔の描き方だが、衣装やすだれなどの文様は一つひとつ面相筆で仕上げている。これを描くだけで何日かかっただろうと思うほど手が込んでいる。私は学生の時、藻や菌の形に魅せられて作品を描いたことがあったけれど、余りに手間がかかるので再びモチーフにすることはなかった。中島さんの作品はどれを見ても、見た目以上に手が込んでいる。しかし、それがこの人の作品としての価値を高めているのだから、どこまでもやり遂げなくてはならないだろう。ジュディ・オングと中島潔、ふたりに共通するものは、「労を惜しまない」ということかも知れない。

コメント (1)
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