実務家弁護士の法解釈のギモン

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債権譲渡の第三者対抗要件は到達時?(2)

2009-07-08 15:15:28 | 債権総論
 債権譲渡の対抗要件に関する続きです。

 債務者の立場に立って時間を追って再度説明すると、債務者に対し、債権譲渡通知が一通到達すれば、たとえ他の債権譲渡の存在を債務者自らが知っていたとしても、唯一対抗要件を備えたその通知書記載の譲受人を債権者と考えればそれだけでよいのである。その後に第二の債権譲渡通知が到達した場合に、はじめて第三者対抗要件の具備を考慮すればよいのであって、この段階になってはじめて確定日付の存否が問題となり、さらに確定日付説か到達時説かが問題となるのである。この第二の債権譲渡通知が到達する前に債務者が唯一の債権譲渡通知記載の譲受人に弁済したとすれば、その弁済は完全に有効な弁済であり、債権は確定的に消滅する。もっといえば、このことは唯一の債権譲渡通知に確定日付が存在するか否かに関わらないのである。なぜなら、通知がありさえすれば債務者対抗要件は間違いなく備わっているからである。唯一の債権譲渡通知記載の譲受人に弁済した後に第二の債権譲渡通知が債務者に到達しても、もはや存在しない債権の譲渡通知でしかないのである。
 以上のとおりなので、確定日付説不採用の理由として、債務者に不測の損害が生じるといったような言い方をする教科書の説明は、決して納得できない。

 また、到達時説を採用すると、たとえどんなにわずかであっても債務者に余計な手間をかけさせることになりかねない。
 どういうことかというと、債務者の手元に複数の債権譲渡通知が届いた場合に、到達時説を採用すると、債務者はどの債権譲渡通知が最初に届いたかを記憶しておく必要があり、記憶力に自信がなければ、たとえどんなに簡単でも何らかの記録を残す必要がある。債務者が会社のような組織となっていれば、必ず記録を残す必要が出てくるであろう。
 さらにいうと、実務的には債権譲渡の撤回通知というのが行われる場合がある。これは、債権の譲渡人と譲受人との間で、事後的に何らかの話し合いがなされて、債権譲渡の原因となる事情が解決した場合などに行われる。法的には、債権譲渡契約の合意解除とその通知ということになろう。仮に、複数の債権譲渡通知がなされた後、最初に到達していた譲渡通知に関してこの撤回通知がなされると、その次に到達していた譲渡通知が対抗要件を備えることになると思われる。このような実務的な事情を考えると、債務者の立場では、最初に到達した債権譲渡通知がどれかだけを記憶・記録しておけばよいというものでもなく、複数の債権譲渡通知が届いた場合は、念のため全ての通知について、どの順序で到達したかを記憶・記録しておく必要が出てくると思われるのである。
 わずかなことではあるが、債務者にとって手間のかかることであることは間違いがないと思われるのである。債務者のあずかり知らぬところで行われる債権譲渡について、たとえわずかでも債務者の手間を増やすというのは、債務者にとっては迷惑なことのような気もする。
 
 さらにつづく。

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