実務家弁護士の法解釈のギモン

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フランチャイズ契約と優越的地位の濫用

2009-07-04 03:20:59 | 時事
 時事的問題を一つ。

 最近,大手コンビニエンスストアの本部が加盟店に見切り販売を認めてこなかったことに対し,公正取引員会が優越的な地位の濫用を理由に排除命令を出したが,この件について,7月3日の日本経済新聞の夕刊に「消費者重視へ新解釈?」という見出しで記事が載っていた。
 この記事の趣旨は,価格に関する独占禁止法違反問題は,「再販売価格の拘束」や「拘束条件付取引」という2つの不公正な取引方法に照らして判断するのが一般的で,「優越的地位の濫用」を理由に価格の問題を取り扱うのは,消費者重視への姿勢が求められる中での公正取引委員会による新解釈ではないか,という趣旨で読んだが,そういうことであろうか。
 しかし,調べてみると,公正取引委員会では,昭和58年に「フランチャイズ・システムに関する独占禁止法上の考え方について」という指針を公表しており,これが平成14年に改定されている。この平成14年の改定の際に,見切り販売の制限が優越的地位の濫用に当たりうることを,すでに公表している。したがって,今回の排除命令は,新解釈というよりは,この平成14年に改定された指針の初適用ということになりそうである。

 この件で,コンビニエンスストア本部は,加盟店に対する関係で自身が優越的地位にあることそのものを否定しているようである。しかし,個々の加盟店そのものは,非常に中小の小売店であり,通常は全面的に本部に依存した経営をせざるを得ないものと思われるので,本部に優越的地位があることは否定しがたい場合は多いであろう。
 もっとも,だからといって,見切り販売の制限が優越的地位の濫用を理由に排除しなければならないかどうかは,なかなか難しい。
 私のイメージからすると,フランチャイズのシステムは,個々の加盟店は本部とは別組織になっているとはいえ,加盟店はすべて同じ商号や商標を用い,ほとんど同じブランドの商品を取り扱う。そのため,同じフランチャイズの店舗であれば,一種の支店のように見える。このような仕組みが顧客の便宜にもなっていると思われる。スーパーや百貨店をイメージすれば,どの支店に入っても,同じ商品,同じ価格で購入できるというのと同じである。したがって,フランチャイズシステムを維持するには,小売りの販売価格も加盟店ごとにある程度統一しておくことが必要となってくるであろし,それが顧客の便宜でもあると思われる。
 以上の見方が仮に正しいとした場合,加盟店の見切り販売を認めるかどうかも,ある程度統一しておいた方が,店舗イメージや販売方針からして望ましいような気がするのである。
 見切り販売は,売れ残りを最小限にとどめるという意味で,効率的な販売方法かもしれないが,値崩れを起こす可能性(見切り販売が始まる時間帯まで,商品が売れないという現象)もあるので,経営側の判断として,見切り販売を認めた方がいいとは必ずしもいえず,結局は経営判断の問題になる。そして,今回排除命令を受けたコンビニエンスストア本部は,見切り販売を認めない方が利益になると考えていたということになるのであろう。
 もし,このように考えられるとすると,本部が見切り販売の制限をしたことそのものに問題があると考えるよりは,売れ残った商品の廃棄による原価相当の損害(廃棄ロス)を加盟店がすべて負担しなければならない仕組みの方に問題があると考えるべきではないだろうか。

 公表されている上記排除措置の概要をみると,その内容の一つとして,本部は,加盟者が行う見切り販売の方法等についての加盟者向け及び従業員向けの資料の作成をしなければならないこととなっている。
 この排除命令は,個々の加盟店の判断で見切り販売を認めなければならないことが前提となっているように読める。しかし,上記排除命令に記載されている違反行為の概要でも指摘しているように,「加盟店で廃棄された商品の原価相当額の全額が加盟者の負担となる仕組みの下で」の見切り販売の制限が問題なのであるから,原価の一定程度を本部が負担するような仕組みにすればよいのであって(排除命令がなされた翌日に,コンビニエンスストア本部は,15パーセントの廃棄ロス負担を公表している。もちろん,その負担割合が妥当かどうかは難しい問題ではある。),加盟店の判断で必ず見切り販売を認めなければならない排除措置命令だとすると,やや介入のしすぎのような気がしている。

 日本経済新聞の記事は,見切り販売を認めることによって,値引きされた商品を購入できる消費者の利益につながることを考えているのかもしれない。それが「消費者重視へ新解釈?」という見出しとなっているのかもしれない。
 しかし,見切り販売をすべきかどうかは,一次的には市場原理に任せておけばよいのであって,基本的には法が介入する場面ではない。市場原理のもとでの需要と供給の一致点が,生産者余剰と消費者余剰の和を最大とし,最も効率的な市場となることは,経済原理の基本中の基本である。別の言い方をすれば,見切り販売を強制することによって,供給者側の利益がなくなるような事態が生じる可能性もあるわけで,そうなると供給者側は一日で商品価値がなくなるような食品類を市場に供給しなくなるという事態も想定し得ないわけではないのである。もし,このような事態になれば,需要はあるのに供給されないという現象が起こりうるのであり,そうなっては消費者利益どころではない。

 そもそも独占禁止法の理念は,市場の私的独占等による市場原理の失敗を排除し,効率的な市場に戻すことが,根本的な理念だったはずである。
 なぜこのようなちぐはぐなことになってくるかというと,不公正な取引方法の規制についての独占禁止法上の位置づけに問題があるともいえそうなのである。つまり,不公正な取引方法は,必ずしも市場の失敗を前提とはしていない(市場の失敗とは無関係)といわれている側面があるようで,そのことと関係しているのではないかと思われるのである。つまり,優越的な地位を濫用して不公正な取引方法がなされていたとしても,あくまでもそれは供給者側内部の問題であり,需要と供給のバランスそのものが崩れているわけではない可能性がある。実は,今回の問題はまさにこの点に直接のかかわりがあるのではないかと思うのである。コンビニエンスストア本部と加盟店との取引の正常化は仮に行うべきとしても,そのことをもって,かえって市場を歪めるようなことになってはいけないのである。市場を歪めない程度の排除措置でなければならないのである。それは,今回の件でいえば,見切り販売の強制ではなく,コンビニエンスストア本部が公表したように,廃棄ロスを本部も負担する(その割合をどうするかが難しいことは,すでに述べた通りではあるが。)ことで済むはずである。

 私は,独占禁止法はそれほど詳しくは知らない。しかし,経済学の本は時々読むことがあるので,標準的な弁護士よりは,経済原理を知っているつもりである。公正取引委員会は,何をどこまで意識して排除命令を出したであろうか。

1 コメント

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Unknown (コンビニ夜勤)
2009-07-18 03:57:51
はじめまして。
コンビニ店長やってます。
公取委の問題、うちの店でも話題になってます。
昔から解ってることなので今更、問題にしても仕方ない。
自分の店を進化できるように日々がんばってます。
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