みけの物語カフェ ブログ版

いろんなお話を綴っています。短いお話なのですぐに読めちゃいます。お暇なときにでも、お立ち寄りください。

0910「しずく97~誘い」

2020-06-19 18:06:40 | ブログ連載~しずく

 学校(がっこう)の体育館(たいいくかん)。その真ん中で、剣道着(けんどうぎ)姿(すがた)の水木涼(みずきりょう)が座禅(ざぜん)でもしているように静(しず)かに目を閉じて座(すわ)っていた。彼女一人だけの静まり返った体育館に、川相初音(かわいはつね)が顔を出した。
 初音は足音(あしおと)を忍(しの)ばせて涼に近づいて行く。そして涼の後ろへ回ると、彼女をつかまえようと手を伸(の)ばした。それは一瞬(いっしゅん)だった。涼の竹刀(しない)が目の前に突(つ)き出てきたのだ。初音は思わず後ろへのけぞり尻餅(しりもち)をついた。
「なんだ、初音じゃない。何してるのよ?」涼はふーっと息(いき)を吐(は)く。
「も、もう…。危(あぶ)ないじゃない。怪我(けが)でもしたらどうするのよ」
「あんたが近づいて来るからでしょ。そんな心配(しんぱい)しなくても、当(あ)てるつもりないから」
「どうして分かったの。あたしが来てるって?」
「さぁ…、何となくかなぁ。今日は、塾(じゅく)じゃないの? そうかぁ、私と遊(あそ)びたいんだ」
「ち、違(ちが)うわよ。そうじゃなくて――」
「あのさ、しずくって娘(こ)のこと憶(おぼ)えてる? 同じクラスだったみたいなんだけど…」
「しずく…」初音の顔つきが変わった。「そんなこと訊(き)いてどうするの? それより、あたしたちと手を組(く)んだ方がいいわよ。そうしないと…」
「なに言ってんだよ? もう、秀才(しゅうさい)の言うことは難(むずか)しすぎて――」
 初音は笑(え)みを浮(う)かべて、「あたし、知ってるのよ。あなたが、能力者(のうりょくしゃ)だって…」
<つぶやき>初音はどうしようというのでしょう。涼は、彼女と手を組んでしまうのか…。
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0909「廃屋」

2020-06-17 18:13:35 | ブログ短編

「なぁ、本当(ほんと)にここなのかよ? どう見たって廃屋(はいおく)じゃねぇか」
 雑誌(ざっし)の編集者(へんしゅうしゃ)の男が言った。同僚(どうりょう)の女性がそれに答(こた)えて、
「住所(じゅうしょ)はここで間違(まちが)いないはずよ。引っ越(こ)してなきゃだけど…」
「だからやめとけって言ったんだよ。三十年前は有名(ゆうめい)な作家(さっか)だったのかもしれないけど、今じゃまったく連絡(れんらく)も取れないんだろ?」
「もう、分かってるわよ。仕方(しかた)ないじゃない。編集長(へんしゅうちょう)が次の企画(きかく)出せってうるさいし」
「それにしたって、何でこんな作家を選(えら)んだんだよ。他にもいたんじゃないの?」
 こんなところで議論(ぎろん)しても仕方がない。二人は、その廃屋を訪(たず)ねることにした。雑草(ざっそう)でおおわれた庭(にわ)を横目(よこめ)で見て、草をかき分け玄関(げんかん)へ。これはもう絶望的(ぜつぼうてき)だと二人は思った。どう見たって、人が住んでいるとは思えない。一応(いちおう)、呼鈴(よびりん)を押(お)す。…何の反応(はんのう)も、呼鈴の音さえ聞こえない。声をかけても、返事(へんじ)はない。扉(とびら)に手をかけて――。
「あっ、開いてる。開いてるわ」女は扉を開けて家の中へ…。
「ちょっと待てよ。勝手(かって)に入ったらまずいだろ」男は彼女の後(あと)に続いた。
 家の中は薄暗(うすぐら)かった。目を凝(こ)らして廊下(ろうか)の奥(おく)を見つめる二人。廊下の奥でぽっと灯(あか)りがともった。二人は息(いき)を呑(の)んで見つめ合う。その灯りは、こちらに近づいて来た。そして、突然(とつぜん)目の前に人の姿(すがた)が現れた。ぼんやり見えるその人は、床(ゆか)に頭をこすりつけて、
「申(もう)し訳(わけ)ない。まだ、できてないんだ。もう少し、待ってもらえないだろうか?」
<つぶやき>これは作家の執念(しゅうねん)なのか。まさかだけど…、死んじゃってたりしてるのか?
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0908「美的センス」

2020-06-15 18:13:04 | ブログ短編

 この病院(びょういん)には異星人(いせいじん)が住(す)み着いていた。僕(ぼく)がそのことを知ったのは、ここで働(はたら)き始めてすぐのことだった。その異星人は、なぜか僕のことを気に入ってしまって――。
「あの、先生(せんせい)…。こちらの方は?」診察室(しんさつしつ)で患者(かんじゃ)の女性から訊(き)かれてしまった。
「ああ、気にしないで下さい。外国(がいこく)から研修(けんしゅう)に来られていて…」
 この説明(せつめい)を何度(なんど)したことか。ずっと僕の後(うし)ろでニコニコしてるから怪(あや)しまれるんだ。僕は異星人に訴(うった)えた。僕から離(はな)れてくれって…。でも、どうやら無駄(むだ)のようだ。ますます話しかけて来るようになってしまった。僕がカルテを見ているときも、
「ああ、この個体(こたい)は治(なお)らないなぁ。君(きみ)ではムリだ」
 そりゃ、こいつの星(ほし)では医療(いりょう)が進(すす)んでるのかもしれないけど、そういう言い方しなくても…。異星人は相変(あいかわ)わらずニコニコしながら続けた。
「俺様(おれさま)が治してやろうか? その代わり、命令(めいれい)があるんだ」
 こいつ、日本語の使い方間違(まちが)ってるよ。異星人はそんなことお構(かま)いなしに、
「合(ごう)コンというものがやりたい。メンバーには必(かなら)ず看護師長(かんごしちょう)を加(くわ)えてくれ」
 そんなのムリだろ。看護師長が合コンに出るわけないし。普通(ふつう)、若(わか)い女性を――。僕は、ふと考えた。そういえば、こいつ、看護師長の言うことは素直(すなお)にきくよなぁ。まさか、こいつの星では、ああいうのが好(す)かれるのか? どういう美的(びてき)センスをしてるんだよ。
<つぶやき>これは不適切(ふてきせつ)な発言(はつげん)ですよ。好(この)みは人それぞれ…。いや、異星人それぞれ…。
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0907「趣味の部屋」

2020-06-13 18:07:33 | ブログ短編

 僕(ぼく)は友人(ゆうじん)の招(まね)きで、彼の家へ遊(あそ)びに行った。友人は僕の来訪(らいほう)をとても喜(よろこ)んで、
「よく来てくれたね。君(きみ)に、ぜひ見せたいものがあるんだ。さぁ、入ってくれ」
 僕は彼に言われるままに家に上がり込んだ。彼は一人暮(ぐ)らしなのだが、思った以上に家の中は片(かた)づいていた。彼は奥(おく)の部屋の扉(とびら)の前で僕に言った。
「ここさ。まだ誰(だれ)にも見せたことないんだけど、君だったらこういうの好(す)きだと思って」
「何だよ。こういうのって?」
「それは、中に入ってみれば分かるさ」
「いや、それはそうなんだけど…。僕が、何を好きなのか、君に分かるはずは――」
「分かるさ。君とは長い付き合いなんだから」
「長いって…、せいぜい3年くらいじゃないか。それに、そういう話、したことないだろ」
「3年もあれば分かるよ。君の趣味(しゅみ)くらいはね。だって、君は単純(たんじゅん)だから」
「まさか…、君は、僕に変な趣味を押(お)しつけようとしてるんじゃないのか?」
「そんな…。押しつけるつもりはないさ。でも、きっと君も、好きになるはずだ」
 僕は躊躇(ちゅうちょ)した。言われるままに入ってしまったら、きっと後悔(こうかい)するだろう。だから、
「まず、中に何があるのか話してくれ。そうじゃなきゃ、僕は…、僕は入らない」
<つぶやき>何があるのでしょ。あんなのとか、こんなの…。まさか、やばいものかも…。
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0906「受付嬢」

2020-06-11 18:05:18 | ブログ短編

 とある一流企業(いちりゅうきぎょう)の本社(ほんしゃ)ビル。入口を入ると受付(うけつけ)のカウンターが置かれていた。そこで働(はたら)いているのは受付嬢(うけつけじょう)。彼女たちは会社(かいしゃ)の顔であり、それにふさわしい教養(きょうよう)と美貌(びぼう)、さらに機転(きてん)と度胸(どきょう)も必要(ひつよう)みたいで――。
「なぁ、この会社(かいしゃ)に吉田一郎(よしだいちろう)ってのがいるだろ? ちょっと呼(よ)び出してくれや」
 強面(こわもて)のお兄(にい)さんがやって来て、カウンターにいた受付嬢に凄(すご)んで見せた。睨(にら)まれた受付嬢は、思わず立ち上がり後(あと)ずさる。隣(となり)に座(すわ)っていたもう一人がそれに答(こた)えて。
「あの、そういう名前(なまえ)の社員(しゃいん)はおりません。別の会社とお間違(まちが)えではありませんか?」
「何だと! こっちはな、ちゃんと調(しら)べてきてるんだ。さっさと呼び出せや!」
「では…」彼女は落ち着いた口調(くちょう)で続けた。「どこの部署(ぶしょ)の吉田一郎でしょうか?」
「ど、どこって…。それは、あれだ…。ええっと…」
「ご存知(ぞんじ)ないんですか? では、お引き取り下さい。さもないと、警備員(けいびいん)を呼びますよ」
 男はすごすごと引き上げて行った。彼女たちはほっと胸(むね)をなで下ろした。
「先輩(せんぱい)、すごいじゃないですか。あたしなんか、もう震(ふる)えちゃって…」
「そんなことでどうするの。わたしたちは、この会社の防波堤(ぼうはてい)なんだから」
「先輩…。あたし、尊敬(そんけい)しちゃいます。でも、吉田一郎って…、そんな人、この会社に…」
「いるわよ。何人もね。さあ、ここが終わったら集金(しゅうきん)に回るわよ。いくら稼(かせ)げるかしら」
<つぶやき>吉田一郎って…、この会社の闇(やみ)の部分なのでしょうか? でも、稼ぐって…。
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